
陸上自衛隊による数千人規模の「不当な市民思想調査、及び個人情報管理」報道を受けての抗議、並びに全容解明等を求める会長声明
2026年7月から8月にかけて、熊本日日新聞、琉球新報、沖縄タイムス等の新聞紙面で、陸上自衛隊中央情報隊の対外情報部門である「現地情報隊」が、海外での情報収集業務の枠を超えて、国内で大学教授、NPO法人代表、一般市民ら数千人を対象に、思想調査や個人情報の収集・蓄積を行い、これらの情報を公文書扱いせず、情報公開や外部の検証から隔離した状態でデータベース管理していたことが報道されている。また、報道によれば、作成された「個人BSD(ベーシック・ソース・データ)報告書」等には、氏名や顔写真などの基本情報にとどまらず、「愛国心」「対自衛隊感情」といった精神面・思想的傾向、交際関係、異性関係、性的嗜好、さらには自衛隊と対象者間のメールの内容など、最大41項目の機微なプライバシー情報が含まれていたとのことである。
これら報道が事実であれば、陸上自衛隊の活動は、所掌事務の範囲(防衛省設置法第4条等)を著しく逸脱し、行政機関等による個人情報の保有制限等を定めた個人情報保護法第61条に違反する疑いが濃厚である。
また、国家機関が法的必要性や妥当性を欠く形で市民の機微にわたる情報を網羅的に収集・保有する行為は、憲法第13条が保障するプライバシー権(個人の尊厳・自己情報コントロール権・人格権)を著しく侵害するものである。さらに、こうした情報収集・監視活動が存在することは、市民の言論や表現活動を著しく冷え込ませ、憲法第19条(思想・良心の自由)、憲法第20条(信教の自由)、憲法第21条(表現の自由)が保障する精神的自由権の行使に対し重大な萎縮効果をもたらすおそれがある。
加えて、上記のとおり収集・保有した情報を「公文書ではない」として公文書管理法や情報公開制度の枠外に置いて管理していた手法は、国民による検証可能性を著しく損なうものである。武力組織である自衛隊において適切な規範遵守や文民統制(シビリアン・コントロール)の原則が形骸化する事態は、民主主義の根幹に関わる重大な懸念事項である。
そして、沖縄においては、米軍基地問題や自衛隊配備問題が存在する中で、仮に陸上自衛隊が地域住民や研究者、市民運動に関わる者らを対象として同様の不当な情報収集を行い、公文書の枠外で整理・分析・分類していたとすれば、正当な言論活動や市民運動を著しく抑圧する懸念がある。当会は、安全保障を名目とした不適切な監視手法の拡大に対し、強い懸念と危機感を表明せざるを得ない。
以上を踏まえ、当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする立場から、陸上自衛隊による上記のような情報収集・管理に対して強く抗議し、防衛省および政府に対して以下の事項を強く要求する。
① 防衛省および政府は、現地情報隊による数千人規模の調査・情報収集、身分不詳接触等の不当な行為の実態、および非公文書として管理されていた組織的経緯等について、独立した第三者委員会を設置して徹底的に全容を解明し、その結果を公表すること。
② 調査の全容が解明されるまでの間、収集された個人情報データベース(個人BSD報告書等)の改ざん・隠滅を防ぐため、直ちに全資料の保全措置を講じた上で、全容解明後は、違法・不当に収集・蓄積された情報を適法かつ適切に廃棄・消去し、権利侵害を受けた者に対する回復・是正措置を講じること。
③ 調査結果を踏まえ、違法・不当な情報収集・管理に関与した組織的責任を明確にし、抜本的な再発防止策を講じること。
当会は、2007年6月8日に「陸上自衛隊情報保全隊による監視活動に抗議し、中止を求める声明」を発表し、当時の自衛隊情報保全隊が当会および当時の弁護士会会長によるイラク派兵反対のビラ配布等の表現活動、さらには広く個人・団体を監視・撮影・記録していた違憲・違法な実態に対し厳重に抗議したところ、その後も同種問題が継続していることを受け、改めて厳重抗議を行い、上記のとおり全容解明を求める次第である。
2026年(令和8年)9月10日
沖縄弁護士会
会長 金 髙 望








