
米国による国際刑事裁判所(ICC)赤根智子所長らへの制裁措置に強く抗議し、国際司法の独立と「法の支配」の維持に向けた日本政府の毅然とした対応を求める会長声明
米国は、本年8月18日、国際刑事裁判所(以下「ICC」という。)の赤根智子所長らを制裁対象にすると発表した。
ICCは、国際刑事裁判所に関するローマ規程の締約国によって設立された独立した常設の裁判所で、国際社会全体の関心事であるもっとも重大な犯罪、すなわち集団殺害犯罪、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪に問われた個人を訴追する。力の支配ではなく「法の支配」を貫き、将来の残虐行為を抑止して世界の平和と安全を守る役割を担っている。
米国は、ICCに加盟しておらず、ICCが米国やイスラエルの関係者を捜査対象としていることに強く反発してきた。トランプ大統領は、2025年2月、ICC関係者への制裁を可能とする大統領令に署名をし、イスラエルのネタニヤフ首相らに対する逮捕状請求を主導した検察官をはじめ、ICCの裁判官ら10人以上を、資産凍結や米国への入国禁止といった制裁の対象とした。そして今般、ルビオ国務長官は、本年8月18日の声明で、ICCについて「腐敗し、致命的に政治化した超国家的裁判所」、「悪意をもって権限を乱用し、与えられた任務の域を超えている」などと主張した上で、赤根所長らが「ICCの管轄権に同意していない政府の職員に対する捜査、逮捕、拘束、起訴を進めようとするICCの取り組みに直接関与してきた」として、制裁対象に加えると発表した。
当会は、昨年4月28日付で「法の支配の貫徹のために国際刑事裁判所に対する不当な圧力に反対し、国際刑事裁判所を積極的に支援することを求める会長声明」を発出し、米国によるICC関係者への圧力や制裁が国際司法の独立性に対する不当な干渉であり、国際法に基づく平和秩序を脅かす重大な行為であるとして反対の立場を表明してきた。そして、当会だけでなく、様々な団体が米国による不当な圧力に対する抗議を行ってきた。
しかしながら、米国は、国内外からの度重なる抗議や懸念の声を一切ものともせず、ついに赤根所長らを標的とする今回の制裁に及んだ。裁判官個人に対する制裁などという措置は、「法の支配」の観点から到底容認することはできない。今回の制裁は、赤根所長個人に対しても米国企業のサービス利用が制限されるなど甚大な不利益を及ぼすものであり、司法判断や適法な職務遂行を理由に、国家が一方的な力をもって裁判官個人や司法機関の長に経済的圧力を加え、移動制限を科することは、国際社会における「法の支配」の根幹を揺るがす明白かつ重大な暴挙であり、断じて容認することはできない。
今回の制裁発表を受け、日本政府は、当初、「大変残念」との認識を表明したのみであったところ、その後、「日本の立場と相いれず、大変深刻に受け止めている」と、若干踏み込んだ見解を表明するようになった。今回の制裁に対しては、早い時期から、国連、欧州連合及び欧州各国首脳等がICC支持や赤根所長らへの全面的な連帯を表明してきたところであり、日本政府が、やや遅れてではあるが「日本の立場と相いれ(ない)」と表明するに至ったことは、一定の評価ができる。
しかし、日本政府の行動は、未だ十分とは言えない。
日本国憲法は前文で国際協調主義を掲げている。また、日本政府自身も外交方針の柱として「法の支配の強化」や「力又は威圧による一方的な現状変更の拒否」を国際社会に訴え続けてきたはずである。そのような日本政府が、同盟国である米国に配慮して態度を曖昧にすることは、これまで掲げてきた基本的姿勢にそぐわず、国際社会からの信頼を失墜させかねない。
日本政府は、ローマ規程の締約国として、また「法の支配」を標榜する国としての責務を果たし、米国政府に対して本件制裁措置の即時撤回を求め、明確な抗議を申し入れるべきである。さらに、国際社会と連携してICCの独立性と公正な司法活動を断固として擁護・支援するための具体的な行動をとるべきである。
当会は、今回の米国政府による制裁に強く抗議し、米国政府に対し、赤根所長をはじめとするICC関係者に対する制裁措置を直ちに撤回することを求めるとともに、日本政府に対し、国際司法の独立と「法の支配」を堅持するため、断固たる反対と抗議の意を表明し、ICCへの積極的な支援を行うよう強く求めるものである。
2026年(令和8年)9月10日
沖縄弁護士会
会長 金 髙 望








