臨時国会の速やかな召集を求める会長声明
2020(令和2)年7月31日、衆議院の総議員の4分の1を超える衆議院議員131名が、憲法53条後段に基づき、内閣に対し、臨時国会の召集を要求した。
同条後段は、「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めており、明文上、内閣には臨時国会の召集義務が生じるが、現時点において同内閣は当面召集に応じない方針で、召集は早くても10月以降になるなどと報じられている。
この点、本年6月10日、憲法53条後段について我が国初となる司法判断があった。すなわち、同条後段に基づく臨時国会の召集要求に内閣が90日以上応じなかったことの違憲性が争われた訴訟の判決で、那覇地方裁判所は、同条後段を「少数派の国会議員による国会の召集要求の途を開け、少数派の国会議員の意見を国会に反映させるという趣旨」であると位置づけ、「召集要求があった場合、内閣としては、臨時会の召集を行う憲法上の義務を負う」とした上で、「臨時会を召集するかしないかについて、内閣に認められる裁量の余地は極めて乏しい」と断じた。そして、「仮に内閣がこの義務を履行しない場合(不当に召集が遅延した場合を含む。)には、憲法53条後段の趣旨が没却されるおそれがあるのであって、そのような事態が生じる場合には、議院内閣制の下における国会と内閣との均衡・抑制関係ないし協働関係が損なわれるおそれがある」として、深い懸念を示している。また、召集時期について、同判決は「召集の要求がされてから合理的期間内に臨時会を召集する義務があると解される」旨判示している。
かかる司法判断は、憲法53条後段に基づく臨時国会召集要求が内閣及び多数派に対する適切な抑制を実現し、少数派を含めた議論の場を保障することで真の民主主義を実現するために極めて重要であることを的確にとらえており、至極妥当である。
なお、右裁判例のいう「合理的期間」については、憲法が衆議院解散の場合について、選挙の日から30日以内の召集を義務づけている(憲法54条1項)ことが参考になる。解散、総選挙があった場合でさえ30日以内なのであるから、選挙による議員変更のない臨時国会については、30日以内の短い期間による召集を憲法は求めていると解するべきである。
日本国憲法は国民主権を定め、国民の代表者で構成される国会を国権の最高機関としている。そして、国会は召集されなければ機能しないため、憲法は53条後段において、4分の1超の国会議員が国会の召集を求めたときは必ず国会が召集され、国会で議論がなされること、すなわち国民主権の実効性を担保している。内閣が、憲法53条後段に定められた憲法上の義務を適切に履行しないことは、日本国憲法の基本理念である国民主権を蔑ろにする重大な違法行為といわなければならない。
当会は、内閣に対し、憲法53条後段に基づき、速やかに臨時国会の召集を決定することを求める。
2020年(令和2年)8月14日
沖縄弁護士会
会 長 村 上 尚 子