最低賃金額の引上げと地域間格差是正及び中小企業支援強化を求める会長声明
1 厚生労働大臣は、近いうちに、中央最低賃金審議会に対し、2020年度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問を行い、同審議会から、答申が行われる見込みである。昨年、同審議会は、全国加重平均で27円の引上げ(全国加重平均額901円)、沖縄県の属するDランクの県については26円の引上げという答申を行った。その後、沖縄地方最低賃金審議会は、これよりも高い28円の引上げを答申し、沖縄県における最低賃金額は、2019年10月1日以降790円となった。
2 時給790円という水準は、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約13万6670円、年収約164万円にしかならない。この収入では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持し、将来のための貯蓄をしていくことは極めて困難であり、最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定」にはほど遠い。
沖縄県は、平成30年度調査における子どもの相対的貧困率(平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の子どもの割合)が25%に上るという、全国的に見ても最も深刻な貧困状態にある。子どもの貧困問題を抜本的に解決するためには、子育て世代の所得の向上が不可欠であるところ、最低賃金額の大幅な引上げが直接的かつ効果的である。
3 他方、今般、世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るい、沖縄においても、社会や生活全体に極めて大きな影響が及んでいる。
このような情勢において、経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産、廃業に追い込まれる懸念も広がる中、最低賃金の引上げが企業経営に与える影響を重視して引上げを抑制すべきという議論もある。
しかし、労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引上げを後退させてはならない。多くの非正規雇用労働者をはじめとする最低賃金付近の低賃金労働を強いられている労働者は、もともと日々生活するだけで精一杯で、緊急事態に対応するための十分な貯蓄をすることができていない。ここに根本的な問題がある。また、今般の緊急事態下において、社会全体のライフラインを支える労働者の中には、最低賃金付近の低賃金で働く労働者が多数存在する。これらの労働者の労働に報い、その生活を支え、社会全体のライフラインを維持していくためにも最低賃金の引上げは必要である。
4 一方、最低賃金の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては、新型コロナウイルス感染拡大に備えた支援策が拡充されているところであるが、長期的継続的に中小企業支援策を強化すべきであり、最低賃金の引上げが困難な中小企業のための社会保険料の減免や減税、補助金支給等の中小企業支援策の検討を進めるべきである。
5 最低賃金の地域間格差が依然として大きく、ますます拡大していることも見過ごすことのできない重大な問題である。2019年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1013円であるのに対し、沖縄県を含む最も低い15県は時給790円であり、223円もの開きがある。最低賃金の地域間格差は拡大しているのが現実であるところ、このような著しい地域格差は、経済情勢や生活費等を考慮しても正当化することができるものではない。最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があるところ、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が固定、拡大するものであるから、格差是正のためにも、最低賃金の低い沖縄県における最低賃金の大幅な引上げが必要である。
6 当会は、これまで毎年、最低賃金を大幅に引き上げることを求める会長声明を発出し、繰り返し最低賃金の大幅引上げを求めてきたところであるが、上記のような状況を踏まえ、中央最低賃金審議会に対して、最低賃金の引上げと地域間格差の是正を求めるとともに、沖縄地方最低賃金審議会に対し、最低賃金を引き上げる旨の答申をすることを求める。
2020年(令和2年)6月30日
沖縄弁護士会
会 長 村 上 尚 子