検察庁法の一部改正に反対する会長声明
政府は、本年3月13日、検察庁法改正案を含む国家公務員法等の一部を改正する法律案を通常国会に提出した。同法案第4条は、検察庁法の一部を次のとおり改正するものである。
① 検察官の定年を63歳から65歳に段階的に引き上げる。
② 内閣または法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し(中略)公務の運営に著しい支障が生ずると認めるとき」は65歳の定年後も最長3年間勤務を延長させることができる(以下「定年後勤務延長」という)。
③ 63歳以降は、次長検事、検事長、検事正、上席検察官等の高位の役職にとどまることができない(以下「役職定年制」という)。
④ 役職定年制の特例措置として、前記②と同様の場合には、役職定年に達した場合でもそのままの役職を継続できる。
当会としては、高齢だが有能な検察官を広く登用する趣旨から、検察官の定年を65歳まで延長すること(上記①)や、役職定年制を採用すること(上記③)については、反対するものではない。昨年の時点で政府が用意していた原案も、その限度のものであった。
ところが、今般国会において、政府が提出した改正案は、昨年までに用意していた原案とは大きく異なり、内閣又は法務大臣が、「職務の遂行上の特別の事情を勘案し(中略)公務の運営に著しい支障が生ずると認めるとき」という極めて主観的かつ曖昧な要件のもとに、裁量で一部の検察官に対する定年後勤務延長や役職定年制の特例措置を可能とするものに変更されている(上記②、④)。
そもそも、検察官は、「準司法官」として司法権に準ずる立場にあり、内閣総理大臣をも起訴することができる唯一の国家公務員職である。戦後、司法省が解体され、司法(裁判所)は行政から独立したが、検察庁も、行政の一部でありながら準司法作用を営む独立の機関として、これまで政府は検察官人事に介入することは回避してきた。
しかし、今般の改正案は、政府が個別の検察官に対する定年後勤務延長判断や役職定年制の特例措置判断を通じて検察官人事に直接介入することを容認するものであり、検察官の政治的中立性、独立性を損ない、刑事司法の機能に影響を与え、ひいては憲法の基本原則である三権分立を揺るがすおそれさえある。
また、検察官も政府の意向を慮るようになり、内閣総理大臣さえ起訴できる検察官の権限は次第に有名無実化し、その結果、法的正義の貫徹を旨とする公正であるべき検察組織への信頼は損なわれることになろう。
このような重大な問題をはらむ検察庁法改正案については、慎重に国会審議を経なければならないところ、政府はコロナ禍への対処が最優先課題である今国会において、拙速に検察法改正案を国家公務員法改正との一括法案として成立させようとしており、到底許されるものではない。
当会は、検察官の政治的中立性、独立性を損なう検察庁法改正案に反対するとともに、当該法案部分の撤回を強く求めるものである。
2020年(令和2年)5月15日
沖縄弁護士会会長 村上 尚子