検事長の定年延長をした閣議決定の撤回を求める会長声明
政府は、本年1月31日の閣議決定で、2月7日付の黒川弘務東京高等検察庁検事長の定年を半年間延長した。かかる閣議決定は、検察庁法に反し、法治主義、三権分立、民主主義を揺るがせ、検察に対する国民の信頼を損なうものであり、極めて問題が大きい。
まず、国家公務員法第81条の2は職員の定年制を、同法第81条の3はその特例を定めているが、同法第81条の3第1項は、「前条第1項の規定により退職する場合」と定めており、同法第81条の2を受けた規定である。
一方、検察庁法第22条は、検察官につき他の一般の国家公務員とは異なる独自の定年退官制度を規定し、同法第32条の2は、同法22条等の規定が「検察官の職務と責任の特殊性」に基づく国家公務員法の「特例」であることを明らかにしている。
「検察官の職務と責任の特殊性」とは、検察官が刑事司法手続の一環を担うという意味で「準司法権」的性格を有しており、特に公訴の提起については国家訴追主義・起訴独占主義・起訴便宜主義が採用され、強大な権限を有していること、それゆえにときには政治権力の違法行為をも捜査し、起訴することができること、そのため政治権力からの独立性が確保されていなければならないことを指す。このような検察官の職務と責任の特殊性が確保されてこそ、法の支配を維持することができるのである。そして、検察官は強大な権限を有しているからこそ、定年も厳格に守られなければならない。
このように、国家公務員一般を対象に例外的に定年延長を認める国家公務員法の規定と、検察官のみを対象に「検察官の職務と責任の特殊性」に基づいて定年延長を認めない検察庁法の規定とは、抵触するものであり、一般法と特別法の関係により、検察庁法の規定が優先的に適用されるから、検察官の定年延長を認めることは、検察庁法および国家公務員法に反し違法である。
そして、国家公務員法の改正案の審議においても、検察官には国家公務員法上の定年および定年延長の規定は適用されないとの答弁がなされており、実際これまで一人も定年延長はなかった。
にもかかわらず、政府は、これまでの公権解釈では検察官は定年延長ができないとされてきたことを認めたうえで、法解釈を変更したとして検事長の定年延長を維持している。
このような法解釈の変更により検察官の定年延長を認めた閣議決定は、検察庁法および国家公務員法に違反し法治主義に反するばかりか、行政が実質的に立法を行うものとして三権分立、民主主義をも破壊しかねず、極めて問題が大きい。
さらに、今般の閣議決定は、法解釈の変更を行う根拠や変更を行った経緯も明らかでないところ、このような解釈変更により、個別の検察官の定年延長を認めることは、検察官の人事への政治の恣意的な介入につながり、検察の独立性や検察に対する国民の信頼を損ないかねない。
当会は、検察官と同じ法曹として司法の一翼を担う弁護士会の立場から、今回の黒川弘務東京高検検事長に関する定年延長の閣議決定は、検察庁法および国家公務員法に違反しており、法治主義、三権分立、民主主義、検察の独立性および検察への国民の信頼などの観点からも極めて重大な問題があるものと言わざるを得ず、ここに強い懸念を表明し、政府に対し、その撤回を求めるものである。
以 上
2020年(令和二年)3月30日
沖縄弁護士会
会長 赤 嶺 真 也