改正小型無人機(ドローン)等飛行禁止法に基づき
辺野古新基地建設工事が進められている米軍キャンプ・シュワブ沿岸の提供水域を
対象防衛関係施設として指定しないことを求める会長声明
2019年(令和元年)6月13日に、改正小型無人機等飛行禁止法が施行された。同法は、防衛大臣が、自衛隊及び在日米軍の施設のうち、同法第1条に定められた「施設に対する危険を未然に防止し、もって国政の中枢機能等、良好な国際関係及び我が国を防衛するための基盤の維持並びに公共の安全の確保に資する」という目的に照らし、「その施設に対する小型無人機等の飛行による危険を未然に防止することが必要」であると認めるときは、防衛大臣は、当該施設を対象防衛関係施設として指定し、指定されたときは何人も、対象施設の管理者の同意なしに、小型無人機(以下「ドローン」という。)等を飛行させることが禁じられるという法律である。
従前は原子力事業所や外国公館等へのテロ防止の法律であったが、今回の改正により対象施設が大幅に拡大され、在日米軍施設等もその対象に含まれたことから、辺野古新基地建設工事が進められている名護市の米軍キャンプ・シュワブ沿岸の提供水域を含む在日米軍基地が対象防衛関係施設として指定されることが懸念されている。
これまで、辺野古新基地建設に関し、報道各社は辺野古新基地建設の進捗状況を取材するためドローンを飛行させてきた。実際、ドローンを用いた取材により、汚染防止膜設置不備による濁り水の流出等が写真撮影され、その有無や程度等が客観的に示されてきた。
憲法は、報道機関の報道について、「民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するもの」(最判昭和44年11月26日)として保障している。そして、「報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするもの」(同最判)とされている。
辺野古新基地建設に関するドローンを用いた取材は、正に、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものであるから、その取材の自由は十分に保障されなければならない。
さらに、名護市の米軍キャンプ・シュワブ沿岸の提供水域周辺においては、報道各社に限らず、辺野古新基地建設に問題意識を持つ市民の間で、ドローンを飛行させ、違法な工事等が行われないか監視する活動が広がっている。近年のスマートフォンやSNS等の普及に伴い国民の表現の自由が多様化しているところ、ドローンという技術革新により、主権者である国民自身が、限定的ではあっても権力を監視し他の国民に発信できるという時代がやってきつつある。国民の知る権利の行使であるこのような監視活動は、報道等と相俟って、憲法二十一条に照らし民主主義社会を発展させるものであるから、報道機関の取材の自由とともに十分に保障されなければならない。
同法は、事前に施設管理者の同意を得ない限りドローンを飛行させてはならない定めになっているので、抜き打ち的な取材・監視を不可能にするという根源的な問題を含む上に(なお、防衛省は、災害その他緊急やむを得ない場合を除き、飛行の10営業日前までに同意の申請を求めている。)、対象防衛関係施設の指定の基準が曖昧であるから不必要な指定がされる恐れがあり、また、在日米軍施設においては当該施設の司令官等に同意不同意の権限が委ねられ、その判断の透明性や公平性の確保、不当な不同意への不服申立て手段が見あたらないなど、多数の問題を含んでいる。
衆参内閣委員会の附帯決議も「必要な限度を超える規制が行われた場合には、取材・報道の自由をはじめとする国民の利益が損なわれる」とした上で、「在日米軍施設区域に関する本法の適用については、在日米軍と関係機関の緊密な連携の下で本法の運用が行われるよう、適切な連絡体制の構築を図ること」を求めているのであるから、防衛大臣は、自らが対象防衛関係施設として指定したことにより、報道機関の取材の自由や国民の知る権利が、在日米軍により不当に侵害されるようなことがあってはならない。
そして、2019年(令和元年)5月21日付琉球新報朝刊によれば、米海兵隊太平洋基地は「取材目的を含めた在沖海兵隊の施設・区域での小型無人機(ドローン)の飛行について「施設や周辺住民に危険が及ぶ恐れがある」として、原則許可しない考えを示した」というのであるから、防衛大臣が、漫然と名護市の米軍キャンプ・シュワブ沿岸の提供水域を対象防衛関係施設として指定すれば、報道機関の取材の自由及び国民の知る権利が不当に侵害されることになる。そもそも、名護市の米軍キャンプ・シュワブ沿岸の提供水域で行われているのは辺野古新基地建設工事であるから、報道機関の取材の自由及び国民の知る権利を制限してもなお、ドローン等の飛行を禁止にして防がなければ公共の安全が守られない程のテロ等の危険性が認められるかは大いに疑問である。
よって、当会は、防衛大臣に対し、名護市の米軍キャンプ・シュワブ沿岸の提供水域を対象防衛関係施設として指定しないことを求める。
2019年(令和元年)7月16日
沖縄弁護士会
会 長 赤 嶺 真 也