決議・声明

調停委員・司法委員・参与員の任命に際し外国籍の者を排除しないことを求める会長声明
 
1 2003年(平成15年)10月、兵庫県弁護士会が、神戸家庭裁判所からの家事調停委員推薦依頼に対し、同会に所属する韓国籍の弁護士を候補者として適任であるとして推薦したところ、同裁判所から推薦の撤回を求められたことに端を発し、最高裁判所はこれまで仙台弁護士会、東京弁護士会、第二東京弁護士会、京都弁護士会、大阪弁護士会、兵庫弁護士会からの延べ40人に上る外国籍会員の調停委員への推薦について、採用を拒否し続けている。また、2006年(平成18年)3月には東京弁護士会が韓国籍の会員を司法委員に推薦したところ、その採用が拒否され、2011年(平成23年)12月には岡山弁護士会が韓国籍の会員を参与員に推薦したところ、同じように採用を拒否された。このように、外国籍の者の調停員、司法委員、参与員の司法参画が閉ざされた状態が続いている。
 
2 最高裁判所は、日本弁護士連合会による、調停委員・司法委員の採用における日本国籍を必要とする理由に関する照会に対して、2008年(平成20年)10月14日付けで、法令等の明文上の根拠規定はないことを認めつつも、「公権力の行使に当たる行為を行ない、もしくは重要な施策に関する決定を行ない、又はこれらに参画することを職務とする公務員には、日本国籍を有する者が就任することが想定されると考えられるところ、調停委員・司法委員はこれらの公務員に該当するため、その就任のためには日本国籍が必要と考えている」と回答した。
 
3 しかしながら、最高裁判所規則では、調停員については、「弁護士となる資格を有する者、民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満」であることを任命される資格として定めており、日本国籍を必要とする規定はない。司法委員・参与員についても同様に日本国籍を必要とする規定はない。また、調停委員及び司法委員のいずれも、当事者の合意を斡旋し、解決に導くことをその職務内容とするものであり、参与員は裁判官に意見具申することをその職務内容とするものであって、いずれも強制的作用はない。調停調書は確定判決と同一の効力を有するものの、そもそも調停の成立は当事者間の合意に基づくものであり、調停委員の職務内容に鑑みれば、公権力の行使に当たるとして外国籍調停委を排除すべき理由にはならない。さらに、調停委員は事実調査及び必要と認める証拠調べを行う権限を有しているが、事実調査は強制力を有しておらず、証拠調べにおいても、現実には強制的な権限行使が想定されているわけでない。司法委員、参与員にはこのような規定はない。このような職務内容からすれば、調停委員、司法委員、参与員の職務は「公権力の行使」若しくは「これらに参画する」に当たるとして、日本国籍を有しない者の就任が排斥されるようなものではない。
現に、1974年(昭和49年)から1988年(昭和63年)まで、14年間にわたって中国(台湾)籍の大阪弁護士会会員が民事調停委員として任命されていた先例もある。
 
4 以上に加えて、調停委員及び司法委員並びに参与員に、日本国籍を有しない者の就任を求める積極的意義もある。すなわち、家事調停事件や民事調停事件、あるいは司法委員が参画する簡易裁判所の民事訴訟手続において、当事者が日本国籍を有しない者であることも少なくない。こうした事件の場合、日本社会の構成員として、長年日本で過ごし、他国の文化と日本の文化の相違について身をもって感じている、定住外国籍者の知見が異国で生活している当事者の共感を得て、事件の解決に大きく寄与することが考えられる。
 
5 日本国籍をもたない者の就任を拒否する最高裁判所の対応は法令に根拠もなく、調停委員、司法委員、参与員の具体的職務内容を問うことなく、日本国籍の有無のみで一律に異なる取扱いをするものであって、国籍を理由とする不合理な差別であり、憲法14条、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)26条及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)5条に反するものである。
 
6 国連人種差別撤廃委員会は2010年(平成22年)3月9日最終所見及び2014年(平成26年)8月28日総括所見において、日本国籍を有しない者が調停委員として活動できるように日本国の見解を見直すことを勧告した。また、2018年(平成30年)8月30日の総括所見では、「数世代にわたり日本に在留する勧告・朝鮮人にたいし、…公権力の行使または公の意思の形成への参画にも携わる国家公務員として勤務することを認めること」(22項)、「市民でない者、特に外国人長期在留者及びその子孫に対して、公権力の行使または公の意思の形成への参画に携わる公職へのアクセスを認めること」(34項⒠)との勧告をした。この勧告は公権力の行使等に携わる国家公務員についてさえ一定の外国籍の者が勤務することを求めているのだから、公権力の行使等に当たらない調停委員等に一定の外国籍の者を採用するよう求める趣旨を含むことは明らかである。
 
7 このように、国連からも日本政府に見直しの勧告がなされているにもかかわらず、一昨年10月から昨年5月にかけても、複数の弁護士会において、推薦した外国籍弁護士の調停委員の採用が拒否された。
日本弁護士会連合会は、2009年(平成21年)3月18日に「外国籍調停委員・司法委員の採用を求める意見書」を、2011年(平成23年)3月30日に「外国籍調停委員任命問題について(要望)」を最高裁判所に提出し、前記6記載の2010年(平成22年)3月と2014年(平成26年)8月の国連人種差別撤廃委員会での見解と総括所見に尽力し、2015年(平成27年)3月にパンフレット「外国籍だと調停委員(司法委員・参与員)になれないの?」を発行し、2017年(平成29年)11月17日にはシンポジウム「外国人の司法参画」を開催し、国内外に対しこの問題の周知に努めてきた。また、当会も、2018年(平成30年)3月1日に「調停委員任命に際し外国籍の者を排除しないことを求める会長声明」を発表し、外国籍の者の採用を求めてきた。しかし、採用実現に至っていない。
 
8 よって、当会は、最高裁判所に対し、このような近時の運用を速やかに改め、調停委員、司法委員及び参与員の任命に際し外国籍の者を排除しないことを求める。
 
以 上
 
2019年(平成31年)1月22日
                                  沖縄弁護士会
                                      会 長 天 方  徹

 

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