決議・声明

最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

第1 声明の趣旨

   当会は、沖縄地方最低賃金審議会に対し、早急に、最低賃金額を大幅に引き上げる旨の答申をすることを求める。

第2 声明の理由

 1 沖縄県は、子どもの貧困率(平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の子どもの割合)が、全国平均(2012年時点で16・3%)の約2倍の29・9%に上るという、全国的に見ても最も深刻な貧困状態にある。

   そして、沖縄県の最低賃金は、長らく全国でも最低額に甘んじているのであり、この最低賃金額の低さが、沖縄県の貧困の重大な要因となっていることは否定しようのない現実である。

 2 昨年、中央最低賃金審議会は全国加重平均で25円の引き上げ(全国加重平均823円)の答申をし、これに基づき沖縄地方最低賃金審議会でも最低賃金を21円引き上げるとの答申がなされ、最低賃金額は714円となった。

   本年の中央最低賃金審査会の答申では、Dランクは22円の引き上げを目安とする内容となっており、仮にこのとおりの引き上げがなされた場合には、沖縄県の最低賃金額は736円となる。

   しかし、最低賃金額である時給736円では、フルタイム(1日8時間、週40時間)で働いたとしても、月173時間として、月収で12万7328円、年収でも約153万円にしかならない。

   この収入では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持し、将来のための貯蓄をしていくことは到底困難であり、最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定」にはほど遠い状況である。

   長らく全国最低の最低賃金に甘んじている沖縄県において最も貧困率が高いという現実は、最低賃金の低さが貧困からの脱出を阻む最大の要因となっていることを如実に示すものである。

 3 全国を見ても我が国の相対的貧困率は15.6パーセント(2015年)と依然高い水準にあり、貧困と格差の拡大は女性や若者に限らず、全世代で深刻化している。

   働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多くは、非正規雇用労働者として最低賃金付近での労働を余儀なくされており、最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻む大きな要因となっていることは疑いない。

   沖縄県は、正規労働者も非正規労働者も、男性労働者も女性労働者も、全国平均の3分の2までの賃金水準にとどまるような状態であり、このことはより深刻である。

 4 また、先進諸外国と比較しても、日本の最低賃金の低さは突出してきている。

   すなわち、フランスの最低賃金は9.76ユーロ(約1201円)、イギリスの最低賃金は7.20ポンド(25歳以上。約1039円)、ドイツの最低賃金は8.84ユーロ(約1088円)であり(2017年1月1日現在)、日本円に換算するといずれも1000円を超える。

   アメリカでも15ドル(約1755円)への引き上げを決めたニューヨーク州やカルフォルニア州をはじめ最低賃金を大幅に引き上げる動きが各地に広がっている(円換算は2017年1月1日の為替レートで計算)。

 5 この点、政府は、2010年(平成22年)6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、 2020年(平成32年)までに最低賃金を「全国最低800円、全国平均1000円」にするという目標を明記した。

   2016年(平成28年)6月2日に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」にも、最低賃金を毎年3%程度引き上げ、将来は全国加重平均1000円程度にする方針が示されている。

   しかし、この方針によれば、最低賃金額が1000円に達するのは2023年(平成35年)となる。そして、時給1000円であっても、フルタイム(1日8時間、週40時間)で働いたとしても年収は約208万円であり、単身者世帯にとってすら最低限度の生活を維持するのに十分な額といえないことからすれば、最低賃金1000円の達成は最低限の目標である。この目標の達成にすら6年を要するというのでは、遅きに失すると言わざるを得ない。

   さらにここで注意すべきは、この政府目標の1000円は、全国加重平均であるということである。例えば、東京などを含むAランクについては、中央最低賃金審査会の答申は、2015年度(平成27年度)は19円で昨年度は25円、本年度は26円であるところ、Dランクはそれぞれ16円、21円、22円となっており、この3年間だけでもAランクとDランクでは差が11円広がっている。こうして、最低賃金の地域間格差は縮まるどころか拡大しているのが現実である。したがって、この状態が続けば、全国加重平均で1000円となっても、沖縄県の最低賃金額が1000円に到達するのはまだまだその先でしかない。

   貧困からの脱出のためには、最低賃金額の大幅な引き上げが最も直接的かつ効果的であり、早急に上記目標を実現する必要がある。とくに沖縄県においては、その必要性は極めて高いと言わなければならない。

 6 以上の理由から、当会は、沖縄地方最低賃金審議会に対し、早急に、最低賃金額を大幅に引き上げる旨の答申をすることを求める。

2017年(平成29年)8月2日

 沖 縄 弁 護 士 会

  会 長  照  屋  兼  一

 

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