決議・声明

寡婦(寡夫)控除を非婚の母(非婚の父)にも適用するよう求める会長声明

 
所得税法81条1項は,「居住者が寡婦又は寡夫である場合には,その者のその年分の総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額から二十七万円を控除する。」と定める。これが,「寡婦(寡夫)控除」である(以下「寡婦控除」という。)。
同法の定める「寡婦」とは,「夫と死別し若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者」など法律婚を経ていることが要件とされており,寡夫も同様である(所得税法第2条第1項30号及び31号)。そのため,婚姻歴のない,いわゆる非婚の母(非婚の父)には寡婦控除が適用されず,その結果非婚の母子(非婚の父子)は,母親(父親)に法律婚の経験のある母子世帯に比べて世帯の課税所得額が高く算出され,所得税やこれを基準とする住民税,国民健康保険料などの負担が重くなっている。さらに,様々な社会福祉制度の利用資格や利用負担額が親の課税所得額を基準として算出されるため,寡婦控除の適用されない「非婚の母(非婚の父)」は様々な不利益を被っている。例えば,公営住宅の入居基準及び家賃決定基準となる所得の算定においても,所得税法の課税所得額計算方法が採用されている(公営住宅法・同法施行令)。そのため,寡婦控除の適用されない非婚の母(非婚の父)は課税所得が高く算定され,その結果として入居基準を満たさなかったり,収入基準に応じて決定される家賃が高いランクに入ったりしてしまうことがあった。沖縄県内においても,寡婦控除が適用されなかった結果,県営住宅に入居していた非婚の母世帯の家賃が高いランクに設定されてしまったことにより,同世帯の支払能力をはるかに超えた家賃を払えなくなり,県営住宅からの退去を余儀なくされるというゆゆしき事態が起きている。また,公立・認可保育所の保育料などについても同様である。
「寡婦控除」制度は,担税力の弱い寡婦の保護(経済力の弱い者の保護)を目的とするものである。しかし,非婚の母世帯は,ひとり親世帯,とりわけ,母子世帯の中でも就労年収が低いことが明らかになっており(2011年厚生労働省母子世帯調査),このような経済的に弱い立場にある非婚母子が法律婚を経た母子より担税力が強いということはなく,これらを区別する合理的理由がない。
このように,現在の寡婦控除制度は,法律婚を経ていない非婚の母(非婚の父)を合理的理由なく差別をするものであるばかりか,嫡出か非嫡出かという理由によって,非婚の母(非婚の父)世帯において生活する非嫡出子を合理的理由なく差別するものであって,憲法14条が定める平等原則に明らかに反するものといわざるを得ない。
この点,政府は,昨年,閣議決定により,上記の公営住宅の問題につき,公営住宅法施行令第1条第3号ホを改正し,公営住宅の入居者にかかる収入算定について,非婚の母(非婚の父)についても,寡婦控除の対象とすることとした。同施行令の改正は,本年10月1日から施行されている。
また,沖縄県内の26の市町村を含む全国170の市区町村においては,本年10月1日現在,上記の保育料の問題につき,寡婦控除のみなし適用を実施しているところである。

しかし,これらの方策は,非婚の母(非婚の父)に対する不合理な差別解消に向けての一歩にすぎない。抜本的な差別解消,憲法14条が定める平等原則違反の解消のためには,所得税法81条1項に定める寡婦控除によって所得控除を受けることができる「寡婦(寡夫)」の定義を変更し,「婚姻歴のないひとり親」にも適用されるよう,所得税法2条1項30号及び31号を改正すべきである。

以上に述べたとおり,所得税法81条1項に定める寡婦控除によって所得控除を受けることができる「寡婦(寡夫)」から「婚姻歴のないひとり親」を除外してしまっている所得税法2条1項30号及び31号は,憲法14条が定める平等原則に明らかに反するものといわざるを得ない。当会は,かかる憲法違反の解消のために,所得税法81条1項に定める寡婦控除によって所得控除を受けることができる「寡婦(寡夫)」の定義を変更し,「婚姻歴のないひとり親」にも適用されるよう,所得税法2条1項30号及び31号を改正することを強く求める。
 
2016年(平成28年)11月11日
  沖縄弁護士会
会 長  池 田   修

 

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