辺野古における海上保安庁による警備活動についての会長声明
1 現在、政府による名護市辺野古での米軍新基地建設に反対する市民らが行っている海上での抗議行動に対して、海上保安庁が多数の巡視船やゴムボートを展開して警備活動を行っている。
同庁の警備活動は、安全指導等との理由で、市民やマスメディアが乗り組んでいる船舶やカヌーを停止させ、これらに海上保安官が乗り込んだり、カヌーを転覆させ、あるいはこれら船舶を強制的に曳航するなどの措置に及んでいる。これらの警備活動の中には、市民が海上保安官により暴力を振るわれたとして告訴がなされている案件も存する。
2 ところで、海上保安官が海上で活動する市民らに対して強制的な措置をとりうるのは、海上保安庁法18条に定める要件を充足した場合に限られる。同条1項によれば、安全確保等のための船舶の停止や移動、下船などの措置は、①海難等の危険な事態がある場合で、②人の生命身体への危険又は財産への重大な損害のおそれがあって、③かつ急を要するとき、という要件に該当したときに初めて認められるところ、その解釈は厳格になされなければならない。なぜなら、これらの強制措置は、憲法上の人権である人身の自由を制約するところ、本来裁判官の発する令状に基づかなければならないという令状主義が存し、これに対する緊急やむを得ない例外措置と位置づけられるからである。
この点、現在海上保安庁が行っている海上での強制措置は、同庁による説明を前提としても、上記の法のいずれの要件をも充足していないというほかない。
3 なお一方で、同庁は、キャンプ・シュワブでの米軍提供水域中の臨時制限区域内への進入への刑事特別法の適用可能性についても言及している。もとより、犯罪が正に行われようとしている場合には、同条1項により上記の強制措置がとれる余地がある。しかしながら、そもそも、刑事特別法は、在日米軍の活動を保障するための法制度であるところ、今回の臨時制限区域の設定は、米軍の活動を直接保障することが目的ではなく、日本政府による土木事業である基地建設作業の遂行を目的とするものであることは明らかである。このように法律の目的と異なる目的で刑罰法規の適用を拡大することは、憲法上の人身の自由を侵害するおそれがある。
よって、臨時制限区域での刑事特別法適用を前提とする海上保安官の取締りも問題であるというべきである。
4 キャンプ・シュワブ近傍で行われている辺野古新基地建設反対の市民の活動は、憲法上認められた表現の自由の行使の一環でもある。特に政治的表現の自由は、民主主義社会の根幹をなす人権であることから、これに対する権力的な規制は抑制的でなければならないことはいうまでもない。
当会は、海上保安庁に対し、海上での警備活動においては、海上保安庁法の定める強制措置の際の厳格な要件を遵守し、かつ市民の政治的表現活動の自由に対して十分な配慮をなすよう、強く求めるものである。
2015年(平成27年)3月11日
沖 縄 弁 護 士 会
会 長 島 袋 秀 勝