決議・声明

生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を強く求める会長声明

 政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」という。)を閣議決定した。
 改正法案には、①これまで違法とされ、要保護者の保護申請権を侵害する、いわゆる「水際作戦」を助長する、②保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼす、との二点において、見過ごすことのできない重大な問題がある。
 まず、改正法案第24条第1項は、「保護の申請をする者は」「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないとし、同条第2項は、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。しかし、現行生活保護法第24条第1項は、保護の申請を書面による要式行為とせず、かつ、保護の要否判定に必要な書類の添付を申請の要件としていない。また、口頭による保護申請も認められるとする確立した裁判例(さいたま地方裁判所平成25年2月20日判決など)がある。さらに、厚生労働省は、現在の実務の運用において、保護を利用したいという意思の確認ができれば口頭であっても申請があったものとして取り扱い、実施機関の責任において必要な調査を行い、保護の要否の決定をなすべきものとしている。
 現行法・裁判例等に反して、改正法案によって保護の申請を書面による要式行為とし、保護の要否判定に必要な書類を添付しない場合には「申請不受理」とする取扱いがなされるとすれば、それは、要保護者の保護申請権を侵害する、いわゆる「水際作戦」に他ならず、保護申請権の行使に不当な制限を加えることとなる。この点、与野党による修正協議を経て、改正法案第24条第1項の「保護の開始の申請は」との文言は、「保護の申請をする者は」との文言に書き改められ、かつ、改正法案第24条第1項及び同第2項には、いずれも、但し書きとして「特別な事情があるときは、この限りでない」との文言が加えられた。この結果、改正法案第24条第1項及び同第2項に関する部分については、現在と変わらない運用がなされることになるとの説明がなされている。しかし、修正後の文言によっても、原則として、保護の申請が書面による要式行為となっており、しかも、保護の申請の際に必要な書類を添付しなければならないという誤解がなされるおそれがある。そのような誤解がなされれば、修正後の改正法案第24条1項及び同第2項によっても、やはり、「水際作戦」を助長する結果を招くことになる。他方、もし、現在の運用と何ら変わらないのであれば、そもそも、このような法改正をする必要はない。
 次に、改正法案第24条第8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。
 しかし、現行法下においても、保護開始申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知により生じる親族間のあつれきやスティグマ(恥の烙印)を恐れて申請を断念する場合は少なくない。このように扶養義務者への通知には保護申請に対する萎縮的効果があり、これもあって、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)が2割程度に抑えられているところ、改正法案によって一層の萎縮的効果を及ぼすことが明らかであり、容認できない。
 改正法案は、「水際作戦」を助長し、保護申請に対して一層の萎縮的効果を及ぼすことによって、本来生活保護制度によって救済されるべきであるのに、利用することのできない要保護者を続出させ、多数の自死・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがある。また、生活保護をめぐるもう一つの喫緊の課題に不正受給防止があるが、これを上回る上記弊害発生の危険性を考えると、不正受給防止についてはより慎重に別の方法を検討するべきである。
 以上からすれば、改正法案は、我が国における生存権保障(憲法第25条)を空文化させるおそれがあり到底容認することができない。よって、当会は、改正法案の廃案を強く求める。

    2013(平成25)年6月4日
          沖 縄 弁 護 士 会
             会  長   當  真  良  明
 

 

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