公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明
沖縄弁護士会は,国に対し,ILO94号条約(公契約における労働条項に関する条約)を批准して公契約を規制する法律(公契約法)を制定することを求めるとともに,沖縄県をはじめとする全国の地方自治体に対し,公契約条例を制定することを求める。
1 公契約とは,権力作用によらずに国や地方自治体が行政目的遂行のために民間企業や民間団体などと締結する契約をいう。国や地方自治体は,契約という形で様々な公的な業務を民間企業や民間団体に委託している。こうした公契約においては,直接的または間接的に業務を遂行する労働者が多数存在するのであるが,こうした労働者の労働条件の劣悪さが,貧困問題の温床になっている。
2 多くの公契約で行われている競争入札方式では,競争を勝ち抜いて落札するために,業者が無理に低い価格を提示しがちになる。また,入札の基準とされる予定価格は前年度の落札額を基準にすることが多く,落札するために業者は前年度実績を更に下回る価格を提示しなければならなくなる。そのため,落札した業者は必要な経費が確保できず,そのしわ寄せが賃金の削減という形で労働者にいくことになる。
労働者へのしわ寄せや手抜き工事といった弊害を防ぐため,入札にあたって最低制限価格が設定される場合が多いが,公共工事は,下請け・孫請けといった重層構造で実施されることが多く,中間マージンが取られることによって下請け・孫請けの賃金が削減され,現場労働者に低賃金を押し付ける形になってしまっている。公契約法及び公契約条例が制定され,下請け以下の労働者も規制の対象とされれば,重層構造下の現場労働者に対して一定の賃金を確保することが可能となる。
3 国際的に見ると,ILO(国際労働機関)において,1949年(昭和24年)に94号条約として「公契約における労働条項に関する条約」が成立している。この条約は,下請けも含めた公契約に基づく業務で働く労働者について,国内の法令等の最低基準よりも有利な労働条件となる条項を公契約に定めないといけない,というものである。現在,61もの国がこの条約を批准しており,もはや公契約規制は世界的な流れになっているが,日本は未だこの条約を批准していない。
国内においては,千葉県野田市が,2009年(平成21年)9月29日に全国で初めて公契約条例を制定させ,2010年(平成22年)12月15日には川崎市も,条例の改正という形で公契約条例を制定させている。
他にも複数の地方自治体で公契約条例制定の動きがある。沖縄県においても,県が公契約条例の制定を検討している。
4 しかし,たとえ複数の地方自治体で公契約条例が制定されても,国や公契約条例を制定していない地方自治体をも規制の対象にしなければ,問題の解決にはならない。問題の抜本的な解決を図るためには,国において,速やかにILO94号条約を批准して公契約法を制定し,積極的に公契約における適正な労働条件の確保に努める必要がある。
今後,東日本大震災からの復興のために大量の公共工事が行われることになるが,復興事業に従事する労働者が,劣悪な労働条件の下での就労を強いられる事態は何としても避けなければならない。そのためには,速やかな公契約法と公契約条例の制定が必要不可欠である。
5 労働者の適正な労働条件の確保は,労働者だけでなく国民全体の生活基盤の安定につながる。
よって,当会は,国に対しては,ILO94号条約を批准して公契約法を制定すること,沖縄県をはじめとする全国の地方自治体に対しては,公契約条例を制定することを求める。
2012年(平成24年)2月14日
沖縄弁護士会
会 長 大 城 純 市