決議・声明

泡瀬干潟埋立事業再開に対する会長声明

 
 
1 沖縄県知事は,平成23(2011)年7月19日,中城湾港泡瀬地区公有水面埋め立てに係る国及び沖縄県の変更申請を承認及び許可し,近日中に工事再開が予想される事態となった。
2 当会はこれまで,国及び沖縄県による中城湾港泡瀬地区公有水面埋立事業及び当該埋め立てを前提とする沖縄市東部海浜開発事業(以下あわせて「本件事業」という)に対し,世界的に貴重な自然環境の破壊に繋がるという環境保護及び経済的合理性の欠如という見地から,日本弁護士連合会とともに一貫して反対してきた。
3 泡瀬干潟は,南西諸島特有の生物地理的特徴を示す生態系が広がる広大な干潟である。その生物相は極めて豊かで,多数の絶滅危惧種・危急種に指定された魚類・甲殻類・海草類が生息し,新種の貝類や海草の発見も相次いでいる。魚介類の産卵場所や餌場としても重要な藻場面積は,干潟部分を含めて沖縄県最大の353ヘクタールに及ぶ。
   このような泡瀬干潟の重要性に鑑み,環境省は,平成22(2010)年9月30日,泡瀬干潟を大浦湾等とともに,ラムサール条約登録湿地の潜在候補地として選定したところである。埋め立てがなされれば,この広大な干潟の一部が消失するのみならず,周辺の自然環境に重大な影響をもたらすことになる。
   本件事業は,このように国際的にも重要・貴重な自然である泡瀬干潟の埋め立てを前提としている点が何よりもまず問題である。
4 本件事業への公金支出の差し止めを認めた平成21(2009)年10月15日福岡高等裁判所那覇支部判決は,事業そのものの経済的合理性につき,行政に対し,相当程度に手堅い検証を求めた。
   しかしながら,今回の変更後の計画においても,周辺地域の開発事業の影響を無視するなど相変わらず客観的根拠の乏しい需要見通しがなされている。 
 また,埋立面積の縮小にもかかわらず工事費用は大幅に増加するなど,同高裁支部判決の求める検証がなされているのか,疑問を抱かざるを得ない内容である。
   このように,あくまで埋立を継続しようとする行政の姿勢の背後には,巨額の公共事業により需要を喚起すれば地域経済が発展するという考え方があると思われる。しかし,手堅い検証を経ずに甘い見通しで強行された公共工事は,逆に負の遺産となって将来世代に重い負担を負わせることになる。
  震災後の復興に全力を注ぐべき時期に,あえて巨額の公的資金を投ずるほどの価値のある事業なのか,国全体の問題として厳しく問われなければならない。
   いま行政に求められているのは,泡瀬干潟の埋立ではなく,沖縄県に残された世界的にも貴重な泡瀬干潟を可能な限り保全するとともに,失われた自然を再生し,エコツーリズム等を通じて地域経済の発展へとつなげていくことではないだろうか。
5 更に,今回の変更計画では,新たな問題点も生じている。
   まず,埋立規模を縮小したからという理由で変更に伴う環境影響評価は行われていないが,これは事業内容が修正されたときに再度の手続を求めている環境影響評価法の趣旨に反するものである。自然環境は多数の要素が複雑に影響し合う微妙なものであり,このまま埋立工事を見切り発車すれば,工事予定地域周辺の藻場やサンゴ礁に対し,壊滅的な影響を及ぼすおそれが大きいといわざるをえない。
    また,東日本大震災における海岸部の津波による壊滅的な被害と,埋立地に生じた広範な液状化被害を目の当たりにしながら,変更後の計画において,この教訓を活かした防災対策が全く施されてなく,このような計画の杜撰さも指摘せざるを得ない。
6 泡瀬干潟は、世界に誇る貴重な自然である。新たな計画を十分検討してみても,これを埋め立て消失させてもなお合理性がある事業であるとは到底いい難い。
   当会は,改めて,国及び沖縄県に対しては埋立工事再開を断念し,中城湾港泡瀬地区公有水面埋立事業を中止すること,沖縄市に対しては,この事業の根拠となっている東部海浜開発事業計画を廃止することを強く求めるとともに,三者が協議の上,既に工事がなされた部分の自然環境を再生するための方策を検討し,真に将来世代のためになる計画を新たに作成していくことを求める次第である。
 
 
平成23(2011)年8月25日
沖縄弁護士会
会長 大 城 純 市

 

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