決議・声明

法制審議会答申にかかる少年法「改正」要綱を法案化することに反対する会長声明                            

 

  法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会は,2008(平成20)年1月25日に,少年法「改正」要綱(骨子)を採択し,同2月にこれを鳩山法務相に答申した。

 この「改正』要綱(骨子)のうち,①犯罪被害者等による少年審判の傍聴を可能とすること,②犯罪被害者等による記録の閲覧・謄写を認める要件を緩和し,記録の閲覧・謄写の対象範囲を拡大することについては,少年事件手続が少年の更生と再非行防止に果たす教育的・福祉的機能を損なうおそれが強い点で,大きな問題がある。従って,当会としては,以下のとおり,その法案化に強く反対の意思を表明するものである。

 

 ①について,要綱(骨子)は,被害者等による傍聴を許す家庭裁判所の判断基準を「少年の年齢及び心身の状態,事件の性質,審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるとき」としている。このような緩やかな要件で被害者等の傍聴が許可されることになると,少年の健全育成という少年法第1条の理念が後退し,少年の更生の観点から相当とは言えない場合でも,被害者等の申出により,裁判長が審判傍聴を許すという運用になりかねない。また,その結果,審判が刑事裁判的な運用になり,発達途上にある未熟な少年が,審判において,傍聴している被害者等に影響されて精神的に萎縮し,心情を素直に述べたり,事実関係について正直に発言することが出来なくなることにより,少年の真の反省が得られなくのみならず,その弁解を封じ込め,誤った事実認定がなされるおそれを生じさせる。このように,安易な被害者等の傍聴の許可は,少年審判の教育的・福祉的機能を損なわせるおそれが極めて強い。

 なお,犯罪被害者等による少年審判の傍聴については,現行制度のもとでも,少年審判規則第29条に基づき,犯罪被害者等が審判廷に在廷することが,少年の内省を深め,健全育成に資するような場合には,審判への在席を認めることが可能であり,かつ,その範囲にとどめるのが少年法の理念にかなうのであるから,それ以上の規定を設けるべきではない。

 

 ②についても,記録の閲覧・謄写を認める要件を緩和すること,さらに,閲覧・謄写の対象範囲を,法律記録の少年の身上経歴などプライバシーに関する部分についてまで拡大することには,当会としては反対である。これらの情報が犯罪被害者等にも容易に開示されることになれば,少年やその家族等のプライバシーを侵害するだけでなく,ひいては適切な処分決定をするための必要な情報について,裁判所が少年やその家族等から収集することが困難となる可能性もある。従って,かかる取扱の変更は,少年の更生に対する影響からみて容認し難い。

 

 今なすべきことは,各関係機関が被害者等に対し,2000(平成12)年少年法「改正」で導入された,被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法第5条の2),被害者等の意見聴取(少年法第9条の2),審判の結果通知(少年法第31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ,これを被害者等が活用する支援体制を整備すること及び犯罪被害者に対する早期の経済的,精神的支援の制度を拡充することである。

 

 以上のとおり,要綱(骨子)の内容のうち,上記①②の点を法案化することは,少年法の理念と目的に重大な変質をもたらすおそれがあるから,当会はこれに強く反対するものである。

 

                                          2008(平成20)年3月26日

                                              沖縄弁護士会        

                                                    会 長  新 垣   剛

 

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