非司法競売手続の導入に反対する会長声明
規制改革会議においては,競売手続の合理化,迅速化などのために,アメリカの競売制度を参考とした非司法競売手続の導入が検討されている。
現在,検討されている案は,融資時に債権者と債務者,所有者との間で競売の実行方法を取り決め,実行時には,民間オークション方式により売却を行おうとするものである。この案によれば,現行の裁判所の競売手続で作成されている現況調査報告書,評価書,物件明細書(いわゆる「三点セット」)が作成されず,売却価格の下限規制も設けることなく,競売手続が実施されることとなる。
この点,我が国の競売手続では,かつて,暴力団をはじめとする反社会的勢力や悪質な競売ブローカーなどによる執行妨害が横行し,迅速な執行が阻害され,売却価額も低落するなど債権者・債務者双方に不利益を与えてきた。
そこで,不当な執行妨害を排除し,透明かつ迅速な競売制度を確立するため,平成8年から平成16年にかけて,重要な手続改正が続けられてきた。その結果,平成18年度においては,不動産競売事件の約4分の3は申立から半年以内に売却実施処分に付され,売却率も全国平均で約81%,東京,大阪においては100%に近い数字となっている。このように,現行の不動産競売制度においては,透明かつ迅速な制度が確立し,極めて円滑に機能しているのであり,そもそも,現行の競売手続を大きく変更して非司法競売手続を導入する必要性はない。
そして,非司法競売手続においては,三点セットが作成されないため,担保物件についての的確な情報を入手することができず,一般人が競売に参加することが困難になる。その結果,悪質な競売ブローカーらの横行を再び許すことにもなりかねない。これは,安心して多くの買受希望者が参加できる開かれた競売制度を目指してきた担保執行法制の流れに大きく逆行するものである。
また,売却価格の下限規制がなくなれば,担保物件が低い価格で売却される可能性が高くなる。アメリカでは,担保物件の売却後は債務者や保証人に残債務を請求しないノンリコースローンが広く普及しているため,担保物件の売却価格が債務者や保証人に影響を与えることはないが,ノンリコースローンが普及していない日本では,担保物件が低い価格で売却されれば,残債務について支払義務を負う債務者や保証人に多大な不利益を与えることになり,その保護に欠けるものである。
日本とアメリカにおいては競売制度を取り巻く環境が異なり,アメリカにおいても非司法競売手続が導入されている州は過半数に満たない状況であり,アメリカの制度を参考にする場合にはこれらの点を充分に配慮すべきである。
規制改革会議において検討されている案は,融資時に予め債務者や所有者が非司法競売手続に合意するというものもあり,債務者などの自由な選択を認めるかのようであるが,融資時における債権者と債務者,所有者との力関係からすれば,債務者,所有者の自由な意思を反映することは困難である。
以上のとおり,非司法競売手続については,新たに導入する必要性がなく,また競売手続の公正や透明性の確保,あるいは債務者,保証人の保護などの点において多くの問題があることから,同手続の導入に強く反対するものである。
2008年(平成20年)3月7日
沖縄弁護士会
会長 新 垣 剛
内閣府に設置された規制改革会議において,裁判所が関与しない不動産競売手続(以下「非司法競売手続」という。)の導入が検討されているが,その導入に強く反対する。