東部海浜開発事業による泡瀬干潟埋立事業計画の再考と、工事の中止を求める会長声明
1 沖縄市泡瀬の沖合を出島方式に埋め立てる「東部海浜開発事業」(以下「本件事業」という。)について、2007年12月5日、東門美津子市長は、工事が進む第一区域(約九十六ヘクタール)を推進し、第二区域(約九十一ヘクタール)については「困難だ」として見直すことを表明した。
2 泡瀬干潟は南西諸島の生物地理的特徴を示す貴重な大規模干潟で、且つラムサール条約登録湿地となるための国際的に重要な湿地の基準を満たしており、その保全は、沖縄県の課題にとどまるものではなく、日本が多様な湿地を保全する上で、またラムサール条約締約国としての国際的責務を果たす上で、極めて重要な意義を有している。
他方、本件事業計画の内容は、バブル期の残像を色濃く残すものであり、その経済効果予測は到底現実的なものではなく、経済的合理性が欠如している。
このような見地から、日本弁護士連合会は、2002年3月15日、本件事業について、国および沖縄県は、公有水面埋立事業を中止し、沖縄市と協議のうえ、泡瀬干潟について国設鳥獣保護区を設定する等の保全措置を講じ、ラムサール条約上の湿地登録手続をなすべきであるとの意見を表明した。
3 本件事業については、環境アセスメントが実施されているが、埋立着工後に新たに多数の動植物の新種が発見されるなど、環境アセスメントの杜撰さが明らかになるとともに、貴重な自然の存在がますます浮き彫りになっている。また、環境影響評価書には、大型海草は移植して保全するなどと記載してあるが、機械移植実験、手植え移植は、いずれも失敗に終わっている。
他方、本件事業計画の基礎となった経済予測が非現実的であったことも明らかになり、経済的合理性の欠如した事業計画であることがより一層明白になっている。
このように、日弁連が本件事業の見直しを求める意見を表明した後にも、泡瀬干潟保全の必要性はますます高まっており、他方で、本件事業計画の非合理性もますます明らかになっている。
4 このような状況下において、東門美津子市長が第一区域の工事推進を決めた判断には、合理性があるとは言えない。
今回、市長が第一区域の工事推進を決めた大きな理由は、既に工事が始まっていることから、後戻りできないというものである。
しかし、今後、採算性のない事業を継続すれば、工事自体の経費のみならず、完成後の施設維持のために莫大な経費負担が発生するのであり、その額は、工事を中止することによる損失を上回ると解される。
すなわち、本件のような経済的合理性を欠いた古い事業計画については、工事を中止することにより、自然破壊だけでなく、経済的損失をも最小限度に食い止めるという発想の転換が求められているのである。
現に、例えば中海干拓事業など、工事着工後に、英断をもって事業が中止された例は国内にも存在する。
5 以上のとおり、当会としては、泡瀬干潟の貴重な自然を保全する見地から、国、沖縄県、沖縄市に対し、事業計画の再考と、工事の中止を求めるものである。
2007年(平成20)年1月28日
沖縄弁護士会
会長 新 垣 剛