少年法「改正」法案の参議院における修正を求める会長声明
本年4月19日,衆議院において,少年法「改正」法案(与党修正案)が可決され,参議院に送付された。
当会は,修正前の法律案に対して,児童福祉の機能を後退させ,保護観察制度の根幹を阻害する重大な問題があり,少年法の理念に反するものとして,反対の意見を表明していた。
今回衆議院本会議で可決された法律案について,ぐ犯少年である疑いのある者に対する警察官等による調査権限が削除されたこと,少年が釈放されたときにも国選付添人選任の効力が失われなくなったこと等,当初の法律案に修正が加えられたことは評価できるところである。
しかしながら,同法案は,触法少年に対する警察官の調査権限を認めており問題である。低年齢の少年には少年が非行に至る背景を探り,ケアをすることが必要であり,福祉的・教育的支援こそが必要である。また,少年に対する聴取は,少年の未熟さ,被暗示性,迎合性など少年の心理的特性に配慮して慎重に行う必要があり,調査を行うとしても虚偽の自白がなされないよう弁護士の立会いやビデオ録画を認めるなど少年の権利を擁護するための措置がとられなければならない。
この点,児童相談所から一時保護の委託を受けた警察署において,当時13才の少年が身体拘束されたという事件に関し,本年1月,福岡高等裁判所那覇支部は,その身体拘束が違法である旨の判決を下したが,この事件においても,警察署における一時保護下で,虚偽の自白がなされていた。
また,同法案は,少年院収容可能年齢を「おおむね12歳以上」に引下げており問題である。低年齢で重大事件を犯した少年ほど幼少期からの被虐待体験など複雑な生育歴を有していることが多く,家庭的な雰囲気の中での「育てなおし」を行うことこそが必要なのであり,施設収容するならば児童自立支援施設での福祉的対応に委ねるべきである。
さらに,同法案が,保護観察中の少年の遵守事項違反による施設収容処分を認めたことは,少年と保護司との信頼関係の構築を困難にし,少年の自律的更生を阻害するものであり問題である。
このように,同法案は,少年に対する福祉的・教育的対応を大きく後退させるものであり,少年司法制度の根本理念に反するものである。少年非行の背後には,家庭における養育放棄や児童虐待,家庭不和,経済的困窮,学校におけるいじめなどの複雑かつ深刻な問題があり,少年非行の防止には,そのような問題を解決できる福祉,教育的環境を整えることこそ重要である。
当会は,参議院において,良識の府にふさわしい慎重かつ十分な審議がなされ,上記問題点が解消されることを強く求めるものである。
2007年(平成19年)5月11日
沖縄弁護士会
会 長 新 垣 剛