憲法改正国民投票法案の慎重審議を求める声明
1 憲法改正手続を定める国民投票法案の与党修正案は本年4月12日に衆議院憲法調査特別委員会において,翌13日には衆議院本会議において自民党,公明党の賛成多数で可決された。しかしながら,本法案には次に述べるように本質的な問題点が残されている。
(1) 「過半数」の意義,最低投票率の問題について
本法案は憲法改正に必要な「国民の過半数の賛成」について「有権者の過半数」ではなく,「有効投票の過半数」としており,最低投票率の定めもない。さらに,本法案によれば,国会による憲法改正の発議から国民投票までの期間は60日以後180日以内とされているが,広く国民に改正の内容が周知され,充分な国民的議論が行われるためには不十分な期間である。これでは仮に投票率が40%であれば20%強の賛成票でも「過半数の賛成」となってしまい,国民全体から見ればごく少数の賛成でかつ充分な国民的議論もなされないままに憲法改正が行われる可能性があることになるが,かかる憲法が国民の意思を反映したものとして正当性をもちうるものか重大な疑問が残る。
(2) 公務員,教育者の運動規制について
また,憲法改正問題については,広く国民の意見を求めること,国民の間で自由闊達な意見交換を最大限に保障することが求められるが,本法案は公務員や教育者の地位を利用しての運動を禁止している。
本来公務員,教育者も主権者である国民なのだから,憲法改正に関して自由闊達な議論や行動が保障されるべきである。特に地位を利用しての運動の範囲は曖昧であり,職場や授業において憲法改正問題を討論すること自体が萎縮させられることにつながりかねない。これは公務員や教育者の表現の自由,生徒の教育を受ける権利にも関わる重大な問題である。この点,本法案が公務員や教育者の運動規制について罰則を設けていた点を修正したことは一つの改善点ではあるが,罰則を設けなくとも法律で禁止する以上公務員や教育者は懲戒処分の対象となりかねず,問題の根本的な解決にはなっていない。
(3) 有料広告の問題について
本法案は有料広告の問題について,投票日の14日前からの放送法による有料広告を禁止している他は放送法3条の2第1項の規定の趣旨に留意するという規定しか存在しない。
しかし,これでは投票日から15日以上前の有料広告は事実上野放し状態となり,資金力の差異が厳然と存在する以上,資金力のある者に有料広告が独占され,マスコミのもつ影響力によって民意がゆがめられる危険性がある。諸外国では有料広告を禁止ないし制限する立法例もあり,日本においても資金力の差異により不公平が生じないような制度設計が慎重に検討されるべきである。
2 本法案には以上のような本質的な問題点が未だに残されたままになっている。
そもそも我が国の憲法は個人の尊厳の尊重に核心を置いた自由の基礎法であって,それ故に国家に対しては制限規範として作用し,国法体系の中においては最高法規としての地位を占めている。我が国の憲法がこのような立憲主義的憲法であることは国民主権原理によって支えられており,その最も端的な表れが憲法改正権を国民に保障した憲法第96条に他ならない。したがって,憲法第96条を具体化する手続法は同条の趣旨に合致し,広く国民の意思を反映させるための細心の制度設計がなされなくてはならない。
当会としては,上記のような本質的な問題を残す本法案について,参議院において充分な議論を尽くし,本法案の問題点が解消されるまで拙速な採決などを行わないよう強く要請するものである。
2007(平成19)年4月26日
沖縄弁護士会
会 長 新 垣 剛