金融商品取引法案に関する会長声明
政府は,平成18年3月13日,「証券取引法等の一部を改正する法律案」等(別称「金融商品取引法案」。以下,「本法案」という。)を国会に上程し,本法案は,同年5月12日に衆議院財務金融委員会で採決され,現在,参議院での審理を残すのみとなっている。
しかし,当会としては,衆議院において採択された本法案の内容に下記のとおり重大な懸念を表明するものであり,良識の府である参議院における適切な対応を求める。
記
1 本法案の商品先物取引分野における重大な不備である次の2点について修正を求める。
(1)不招請勧誘を禁止する規定を設けるべきである。
本法案は,商品先物取引をその規制の対象とはせず,法案に付随して商品取引所法改正を行うに止まったところ,その中では,電話・訪問による不招請勧誘(取引を希望していない消費者に対する勧誘)を禁止する規定を置いていない。商品先物取引においては,一般消費者が取引員の外務員によるコンプライアンス無視の不当勧誘を受けて取引に巻き込まれ,その後は一方的に誘導されて被害を拡大させていくという実態がある。かかる被害実態を踏まえた場合,何よりも肝要なのは入り口での規制であり,一般消費者による取引参入は,リスクを承知で自ら積極的に取引を希望した場合にのみ限定されるべきである。
商品先物取引その他投資を巡るトラブルの大多数は,不招請勧誘に端を発しているのであり,不招請勧誘は,全ての金融商品について原則として禁止することが必要である。
(2)本法案において,新たに,商品先物取引に損失補填禁止条項が追加されたことは,到底容認できない。
過去に証券取引法について損失補填禁止条項が導入された結果,従前は示談により多くの被害救済が図られていたが,証券会社側が損失補填禁止条項の存在を盾に訴訟外の示談に応じなくなり,被害救済が大きく後退したという歴史がある。
弁護士が,商品先物取引で被害を受けた委託者から依頼を受けて,被害回復のため訴訟提起にまで至るのは,相談全体の一部であり,多くの案件が訴訟外の示談等によって処理されているのが現状と考えられる。仮に,上記のような事情により訴訟外での被害回復が困難になれば,この種の事件を取り扱う弁護士や裁判所の処理能力を勘案すると,かなりの被害件数が解決されずに放置されてしまう懸念がある。被害者自身としても,訴訟が必要となって被害回復に相当の時間と費用を要することとなると,賠償請求自体に消極的となってしまう可能性が大きい。
このように,商品先物取引分野において損失補償が禁止されれば,被害の回復をいたずらに遅延させ,多くの被害者を泣き寝入りに追い込む結果となるであろうことは容易に予想できるところであり,損失補償禁止条項を設けることは容認できない。
2 さらに,以下の点についても,なお一層の議論が尽くされる必要がある。
(1)海外商品先物取引,海外商品先物オプション取引についても規制の対象にすべきである。
本法案では,小規模乱立の悪質事業者による消費者被害が発生し続けている領域について,一切規制されていない。具体的には,海外商品先物取引,海外商品先物オプション取引については,その被害が多いにもかかわらず,何らの参入規制もなされていない。このため,悪質業者の参入が増え,被害も拡大しつつある。登録制,無登録営業の禁止及び違反に対する罰則付与などの参入規制を定めるべきである。
(2)本法案における適合性原則に違反した場合の民事上の効果について規定すべきである。
本法案においては,適合性原則(投資勧誘に際して,投資者の投資目的,財産状態,投資経験等から判断して不適合な者に対し取引を勧誘してはならないという原則)が規定されているものの,その違反に対する民事上の効果については何ら規定がない。適合性原則についての法律上の実効性を確保するためには,適合性原則に違反した場合について,損害賠償義務・取消権・無効などの民事上の効果を伴わせる規定を設ける必要がある。
3 以上のとおりであるから,当会は,参議院において本法案の修正を含めた適切な対応を強く求めるものである。
平成18年(2006年)5月25日
沖縄弁護士会
会長 大 城 浩