決議・声明

共謀罪新設に反対する会長声明

 

 2006(平成18)年4月21日,衆議院法務委員会は,共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対応するため刑法等の一部を改正する法律」案について審議入りし,与党から修正案が提案された。そして,与党は,同年5月12日,再修正案を提案している。

 沖縄弁護士会は,昨年,上記法案に対して問題点を指摘して,これに反対する声明を発表したが,今回提案された再修正案においても,当会が指摘してきた問題点は何ら解決されていない。

 そもそも,犯罪とは,犯罪を決意し,その準備をし,実行に着手し,結果を発生させることであるが,現行刑法では結果を発生させた既遂犯処罰が原則である。未遂犯は,結果発生の危険を生じさせたものとして例外的に処罰され,予備犯はさらにその例外として特に重大な8つの犯罪類型(殺人,強盗,身代金目的略取,放火,内乱,外患,私戦,通貨偽造)に限って処罰の対象となっている。ところが,新設されようとしている共謀罪は,処罰時期を予備罪よりも前倒しにするものであり,予備行為よりもさらに広汎かつ不明確な概念を用いて処罰範囲を拡大するものと言わざるを得ない。

 この点,前記再修正案においては,共謀に加えて,「犯罪の実行に必要な準備その他の行為」が必要とされており,一見,処罰範囲が限定されているかのようである。しかしながら,「犯罪の実行に必要な準備行為」に加えて,わざわざ「その他の行為」との表現が加えられている点において,拡大解釈が可能な文言となっており,問題である。結局,これまで殺人などの重大犯罪において処罰の対象となっていた「予備行為」よりもはるかに広い概念と言わざるを得ず,犯罪の実行にはさしたる影響力を持たない精神的な応援などもこれに含まれる可能性があることから,共謀罪の適用場面において,ほとんど歯止めにならない。

 また,再修正案は,「共謀罪」の適用される団体を「組織的な犯罪集団」と明示したが,「組織的な犯罪集団」の定義としては,「その共同の目的が犯罪を実行することにある団体」との従来の定義を変えていない。これでは,どのような「団体」に対して共謀罪が適用されるのかについては,やはり不明確なままであると言わざるを得ない。現実に過去に犯罪を遂行してきた事実も要件とされておらず,団体の一部の構成員が一定の犯罪の共謀を行ったことのみをもって,団体に犯罪目的ありと解釈される可能性もある。その結果,市民団体や企業,法律家団体,労働組合などの活動に対しても共謀罪の取締りが及ぶ危険性があり,これら団体の日常的な表現活動に対しても甚大な萎縮効果をもたらし,民主主義の根幹である表現の自由が抑圧され,ひいては,民主政治が機能しなくなる危険性がある。

 この点,再修正案は,「日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限してはならない」「労働組合その他の団体の正当な活動を制限することがあってはならない」旨の文言を加えている。しかし,共謀罪には根本的な問題があるのであり,このような文言が追加されたからといって,国民の自由や権利,団体の正当な活動が保障されることにはならない。

 その処罰範囲も,現行刑法が定める予備罪が8つの重大な犯罪類型に限定されているのに対して,共謀罪は600以上にも及ぶ広範な犯罪類型について共謀だけで処罰しようとするものであり,著しく処罰範囲を拡大するものとなっている。

 さらに,政府は,国連越境組織犯罪防止条約に基づいて作られたものであることから,あたかも共謀罪の新設が必要不可欠であるかのような説明を行っている。しかし,同条約は,国境を越える性質を持った組織犯罪を防止する目的で起草されたものであるから,条約の批准を一部留保するなどの方法によって,わが国の国内法において,国境を越える犯罪に限って適用する旨を規定したとしても,条約の趣旨に反するものではない。

 共謀罪の捜査に関しても,外部にあらわれた行為や具体的な法益侵害行為を対象とするのではなく,会話やメールのやりとりなどを対象とするものであるが,そのため,盗聴法の適用範囲の拡大など,国民の私生活に対する捜査機関の不当な監視・管理の強化につながり,個人の内心の自由を侵害しかねないという問題点もある。

 以上のとおり,前記修正案においても,本法案がもともと有している多くの問題点は何ら解消されていないのであり,このような共謀罪が新設されるようなことになってはならない。

  よって当会は,あらためて,共謀罪の新設を含む本法案の成立に強く反対する。

 

   2006年(平成18年)5月23日

                    沖 縄 弁 護 士 会

                     会  長  大  城     浩

 

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