共謀罪新設に反対する会長声明
政府はいわゆる共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対応するため刑法等の一部を改正する法律」を今国会で成立させようとしている。
しかし,共謀罪の新設には看過できない極めて重大な問題がある。
犯罪とは,犯罪を決意し,その準備をし,実行に着手し,結果を発生することであるが,その処罰は,現行刑法では結果を発生させた既遂犯処罰が原則である。未遂犯は,結果発生の危険を生じさせたものとして例外的に処罰され,予備犯はさらにその例外として特に重大な8つの犯罪類型(殺人,強盗,身代金目的略取,放火,内乱,外患,私戦,通貨偽造)に限って処罰の対象としている。
ところが,新設されようとしている共謀罪は,処罰時期を予備罪よりも前倒しにするものである。「共謀」とは,予備行為以前の犯罪を共同で遂行しようとする意思を合致させる謀議あるいはその結果として成立した合意であるが,「共謀」があっただけで処罰の対象とすることは,まさに意思のみを処罰しようとするものであり,外形的行為があって初めて処罰の対象とする刑法の大原則に反するものである。
その処罰範囲も,現行刑法が定める予備罪が前述のとおり僅か8つの犯罪類型に限定されているのに対して,共謀罪は600以上にも及ぶ広範な犯罪類型について共謀だけで処罰しようとするものであり,著しく処罰範囲を拡大するものとなっている。
さらに,共謀罪は,「共謀」という客観的な外形的行為をともなわない漠然とした不明確な概念を構成要件とするため,処罰対象が広汎かつ不明確となって構成要件の明確性を欠き,罪刑法定主義に反することとなる。
そもそも共謀罪の新設は「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」の批准に伴うものであるが,法案では,同条約が取り締まりの対象として予定していた「国境を越えた犯罪」や「犯罪組織の特定」が要件とされておらず,同条約の想定する範囲を超えて,市民団体や企業,法律家団体,労働組合などの活動に対しても共謀罪の取締りが及ぶ危険性がある。
その結果,これら団体の日常的な表現活動に対しても甚大な萎縮効果をもたらし,民主主義の根幹である表現の自由が抑圧され,ひいては,民主政治が機能しなくなる危険性がある。
さらに,共謀罪の捜査は,外部にあらわれた行為や具体的な法益侵害行為を対象とするのではなく,会話やメールのやりとりなどを対象とするものであるが,そのため,盗聴法の適用範囲の拡大など,国民の私生活に対する捜査機関の不当な監視・管理の強化につながり,個人の内心の自由を侵害しかねない。
以上の通り,共謀罪の新設は,刑法の大原則に反し,構成要件の明確性を欠き,処罰の範囲を拡大させ,さらには内心の自由,表現の自由を侵害しかねないものであり,このような共謀罪が新設されるようなことになってはならない。
よって,当会は共謀罪の新設を含む本法案の成立に強く反対する。
平成17年10月21日
沖縄弁護士会 会長 竹下 勇夫