ハンセン病家族訴訟に関する会長談話
2019年(令和元年)6月28日、ハンセン病であった者の家族らが原告となって提起した訴訟の判決が熊本地方裁判所で言い渡され、ハンセン病隔離政策が、病歴者本人のみならず、その家族の人権をも違法に侵害するものであると認められた。本訴訟は、561名の全原告のうち、約4割が沖縄県在住者であり、県内でも特に注目を集めていた裁判である。
本判決は、らい予防法及びそれに基づく隔離政策が、病歴者の家族に対しても違法であるとして厚生大臣及び国会議員の責任を認め、さらに、予防法廃止後にも、厚生及び厚生労働大臣、法務大臣、文部及び文部科学大臣の家族に対する偏見差別を除去する義務及びその懈怠を認めた点で極めて画期的な判決であるといえる。
家族らは、その多くが病歴者と切り離され続け、孤立させられていたために、これまで被害の実態を語ることが難しかったが、国の隔離政策等により作出・助長されたハンセン病に対する偏見差別は、家族らにも深刻な被害をもたらし、家族らは、秘密を抱えて生きることをも強いられ、まさに人生の有り様を変えられてしまう「人生被害」を受けてきた。本判決は、そのように家族らが偏見差別を受ける地位に置かれ、また家族関係の形成を阻害されたとして、家族らに共通の損害が発生したことを認めたものである。
もっとも、沖縄との関係では、沖縄が戦後米国統治下にあったため、国の法的責任が、本土復帰した1972年(昭和47年)5月15日以降に限定されている。そのため、本判決は、1972年(昭和47年)以降に病歴者が入所していた場合に限り、家族らの家族関係形成阻害に関する損害を認めており、沖縄と沖縄以外とで救済の範囲が異なっている。
しかし、隔離政策等は戦前の沖縄でも実施されており、米国統治下においても基本的に継続されてきたのであるから、沖縄とそれ以外を区別するべきではない。「ハンセン病補償法」においても沖縄を本土と区別する必要性はないとして、同一基準で補償を行うことを明らかにしており、異なる取り扱いをすることは同法の趣旨にも反する。今後、このような立法的な対応も視野に入れて沖縄の問題は解決されなければならない。
また、本判決では2002年(平成14年)以降の国の違法行為は認められていないものの、現在でも当事者にとって深刻なハンセン病患者家族に対する差別被害が残っていることは裁判所も認めており、その解消に国が責任をもって対応すべきことは明らかである。
国は、本判決を真摯に受け止め控訴を断念し、家族らに謝罪するべきである。そして、差別・偏見の解消、家族関係の回復に向けて、直ちに家族らとの協議を始めるべきである。
2019年(令和元年)7月2日
沖縄弁護士会
会 長 赤 嶺 真 也