決議・声明

個人保証の原則廃止を求める意見書

 

第1 意見の趣旨
   法制審議会民法(債権関係)部会において検討されている民法(債権関係)の改正にあたり,保証制度に関する改正として下記の内容を実現することを求める。
 


 

 1 個人保証を原則として禁止して,例外は極めて限定的なものに限ること。
 2 例外として個人保証が許容される場合においても,次に掲げる保証人保護の制度を設けること。
(1) すべての根保証契約について,現行民法に定める貸金等根保証契約と同様の規制を及ぼすこと。
(2) 債権者は,保証契約を締結するに際して,保証人となろうとする者に対して,保証契約の内容や債務者の支払能力に関して説明および情報提供を行う義務を負い,債権者がその義務を怠った場合は,保証人は保証契約を取り消すことができるものとすること。
(3) 債権者は,保証契約の締結後,保証人に対し,主たる債務者の遅滞情報を通知する義務を負い,債権者がその義務を怠った場合は,期限の利益の喪失や遅延損害金の請求ができないものとすること
(4) 保証契約締結時において,保証債務の内容が保証人の財産及び収入に対して著しく過大であった場合には,保証債務の履行を請求することができないものとすること
(5) 裁判所が主債務の性質,内容,期間,保証人の能力,属性,保証契約締結時及び締結後の事情など一切の事情を勘案して,保証債務の減免をなしうるものとすること。

 

第2 意見の理由
 1 保証被害の実態
個人保証は従来からトラブルの多い分野であり,保証人の自己破産や個人再生の申立ての主要な原因の一つになっていて,保証人だけでなくその親族等の人生にも深刻な影響を及ぼしている。
また,内閣府の「平成23年版自殺対策白書」によると,2010年(平成22年)の自殺者総数31,690人のうち,原因・動機を特定できたのが23,572人であり,その中で経済・生活問題が原因とされるのは7,438人であって,約31.55%を占めている。この中には自らの保証人としての責任を苦にした人や,保証人に迷惑をかけることを苦にした人も含まれており,保証制度により自殺にまで追い込まれる者が少なからずいることがうかがえる。
更に,個人保証については,経営者としては,第三者保証人がいる場合,当該第三者への影響を懸念して,事業再生の早期着手に踏み切れないという傾向を助長し,経営者として再起をはかるチャンスを失わせるといった問題点を含んでいる。
かかる実態に鑑みれば,保証制度について抜本的改正を図る必要性は高い。
 2 金融実務に与える影響
もっとも,個人保証が原則として認められないとなると,貸し渋り,債権者・主債務者の負担増加などの事態も生じかねない,などとの指摘もある。
   しかしながら,現在の金融実務においては,2008年(平成20年)以降,公的金融機関が第三者保証人を徴求することはなくなり,さらに,2011年(平成23年)7月以降は,民間の金融機関においても,人的保証に頼らない実務慣行が確立されつつある。
したがって,個人保証の禁止や保証人保護の強化をすることによる金融実務への影響を過大視することはできず,むしろ,かかる第三者保証人非徴求などの実務運用を,個人保証の禁止という形で実体法上も明らかにしていくべきである。
3 具体的施策
  (1) 個人保証の原則禁止
    上記のとおり,保証制度が深刻な被害を招いていることに鑑みれば,原則として個人保証を禁止すべきである。
    例外としては,当面は,経営者保証等極めて限定的なものに限るべきである。但し経営者保証も禁止すべきかについては引き続き検討するべきである。
  (2) 保証人保護制度の導入
    例外として個人保証が許容される場合であっても,以下の保証人保護制度の導入が必要である。
    まず,貸金等根保証契約以外の根保証契約については,極度額や保証期間の定めについての規律がなく,保証人が予期できない過大な保証債務の履行を請求される危険性が否定できないことから,現行民法の規制を及ぼすべきである。
    次に,保証人が主債務者の資力や収入などを誤信して安易に保証契約を締結する場合が多いと考えられることから,契約締結段階で債権者に対して説明義務を課し,その実効性を確保するために義務違反の効果として保証人の取消権を認めるべきである。
    また,契約締結後は,保証人が主債務の遅滞を知らず,多額の一括請求を受けたり,多額の遅延損害金とともに保証債務の履行請求を受けたりする,といったケースをできるだけ防ぐため,債権者に対して保証人への主債務者の遅滞情報の通知や催告の義務を課し,その実効性を確保するために義務違反の効果として期限の利益喪失や遅延損害金を主張できないものとするべきである。
    さらに,保証人が過大な負担を強いられないよう,過大保証を禁止する規律および身元保証法5条を参考とした責任減免の規律を設けるべきである。
 

以上

2013年(平成25年)10月8日  

沖 縄 弁 護 士 会        
会 長   當 真 良 明

 

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