決議・声明

新型コロナウイルス感染症によってもたらされる諸問題に取り組む宣言
 
 
新型コロナウイルス感染症は、人々の生活に甚大な影響を及ぼした。
感染拡大防止のため長期に亘る移動制限や外出自粛、営業自粛等を余儀なくされた結果、経済活動は停滞し、雇用情勢は悪化した。先行きの見えない不安や生活様式の変化は人々に大きなストレスを与えており、自殺者数やDV被害が増加した。新型コロナウイルス感染症は、とりわけ非正規雇用者、低所得者、ひとり親世帯といった社会的・経済的弱者に打撃を与えた。
これらコロナ禍によってもたらされる課題は社会全体において対処すべきものであり、一部の者への負担を放置することにより、社会的・経済的格差を拡大させることがあってはならない。
感染の収束は未だ見通せず、これに起因する法的課題・人権問題は今後も一層深刻化することが予想される。他方、この一年余に得られた科学的知見や経験によって、それら課題に対して当会が果たすべき役割も明らかになりつつある。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士により構成される団体として、コロナ禍によってもたらされる法的課題・人権問題に対応し、その使命を全うするために、以下のとおり取り組む決意である。
 
1 新型コロナウイルス感染症によって生じた人権問題に対応し、とりわけ社会的・経済的弱者の権利を擁護するため、法律相談を始めとする法的サービスを維持し、さらに充実していくよう尽力する。
 
2 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を理由として市民の自由及び権利に対する不当な制約がされないよう公権力の動向を注視し、適宜の意見表明を始めとする必要な取組みを行う。
 
以上のとおり宣言する。
 
2021年(令和3年)5月21日
沖 縄 弁 護 士 会
 
 
 
 
提 案 理 由
 
1 新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の拡大
(1)新型コロナは、2020年1月以降、グローバルな人の動きに伴い世界各地に拡大した。発生から約1年半が経過した現在でも終息の兆しは見えていない。
(2)我が国では、第1波を受けて2020年1月に新型コロナウイルス感染症対策本部が設置され、全国の小中高校に対して約1か月の臨時休校が要請された。4月には新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)に基づく緊急事態宣言が全都道府県に拡大され、感染者数は減少に向かったが、7月下旬から再び感染が広がり、第2波が生じた。
   その後、11月以降再び感染が大幅に拡大して第3波が生じ、2021年4月には4都府県を対象に3回目の緊急事態宣言が発出されるに至った(第4波)。
(3)沖縄県では、2020年2月に初めて感染者が確認され、3月には在沖米軍基地で複数の感染者が確認された。同年4月から2021年1月までに、県独自の緊急事態宣言が3回発出されたが、3月にはまたもや拡大に転じ、4月以降不要不急の外出・移動の自粛要請や、飲食店等に対する午後8時までの営業短縮要請がなされている。
 
2 新型コロナ感染拡大に伴う諸問題
1に述べたような社会経済状況の変化により、特に社会的・経済的弱者に打撃を与える深刻な社会問題や差別・人権問題が発生した。

① 雇用環境の悪化

  国内における2020年の平均の完全失業率は2.8%で、前年より0.4ポイント悪化した。失業率の悪化は、前年にリーマンショックがあった2009年以来11年ぶりである。有効求人倍率は0.42ポイント低下して1.18倍となった。これはオイルショックのあった1975年に次ぐ45年ぶりの下げ幅である。2021年3月分の労働力調査によると、前年同期と比較して、非正規労働者の男性は27万人減少、女性は68万人減少しており、コロナ禍による経済的苦境が女性の多い非正規雇用を直撃していることが如実となった。
  観光産業を基幹産業の一つとする県内経済もその例外ではなく、沖縄県の2020年平均の有効求人倍率は0.90倍(前年より0.45ポイント悪化)、完全失業率は3.3%(前年より0.6ポイント悪化)で、有効求人倍率及び完全失業率ともに全国最下位となった。非正規労働者を中心に解雇や雇い止めが相次いでいる。県内では、コロナ禍の影響を受けた卸売り・小売業、宿泊・飲食サービス業等で非正規労働者として働く女性が多く、雇用環境の悪化はとりわけ女性のひとり親世帯等に深刻な影響を及ぼしている。
② ドメスティック・バイオレンス(以下「DV」)の増加
   全国の配偶者暴力相談支援センターにおける2020年4月から12月までの相談件数は14万7277件で、前年同期の約1.5倍となった。
   コロナ禍による外出自粛要請、在宅勤務の増加、収入減等により人々の精神的余裕が失われ、DVが増加したものと思われる。
③ 新型コロナに関連する差別問題
   新型コロナ感染拡大に伴い、感染者、医療従事者及びこれらの家族等に対する差別問題が生じた。
   また、新型コロナもワクチン接種が進み始めた。それに伴い、アレルギーがある人や信条等により接種をしていない人が、感染防止の妨げになる等と言われ、同様の差別問題が生じる可能性がある。
 ④ 自殺者の増加  
  警察庁の統計によると、2020年の全国の自殺者数は、前年より912人(4.5%)多い2万1081人だった。自殺者は10年連続で減少していたが、リーマンショック後の2009年以来、11年ぶりに前年を上回った。その内訳として、女性は935人(15.4%)増の7026人と大幅に増加した。年代でみると、20代が最も多い404人(19.1%)増で、10代も118人(17.9%)増となった。
  女性の自殺の増加について、いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)は、経済生活問題や勤務問題、DV被害や育児の悩み、介護疲れや精神疾患など、様々な問題が潜んでいると指摘している。
 
3 自由と権利の制約
(1)公衆衛生の観点からは、新型コロナの感染拡大防止には人と人との接触を制限することが最も効果的であり、そのために人の移動制限や店舗の休業要請等の措置が講じられている。
   他方、かかる措置は憲法上国民に保障された行動の自由、集会の自由、営業の自由といった自由や権利と抵触し、公衆衛生のための措置と国民の自由や権利が対立する関係となる。
   そして、本来、国民の自由と権利の制約となる感染拡大防止の措置については、科学的知見に基づき、必要な限りにおいて行われるべきものである。
(2)ところが、現在までに得られた科学的知見によれば、過去になされた自由と権利の制約には必ずしも科学的知見に基づくとはいえないもの、必要な限度に留まらないものも見受けられたように思われる。
   例えば、2020年3月2日以降、すべての学校に対して全面的な休校の措置がなされ、これにより子どもが学校で学ぶ権利が制限された。のみならず、相次ぐ自粛要請によって、子ども食堂や児童館、図書館、公園等の子どもの居場所が閉鎖されたことにより、子どもの遊ぶ権利、休む権利、芸術的活動を行う権利が制限された。これらの制約が、子どもの権利に対する必要最小限度の制約になっていたのかについては、慎重に検討される必要がある。
   また、2020年4月に示された政府の方針により、医療機関や高齢者施設等において全面的な面会制限の処置がとられた。これにより、施設利用者の精神的ストレスの増悪、機能低下や認知症の悪化といった問題を引き起こしたとされている。
(3)コロナ禍を理由とした自由や権利の制限は、子どもや高齢者のみならず全国民に対して行われており、広範な外出自粛要請による行動の自由の制限、施設の使用中止によってもたらされる集会の自由の制限、パチンコ店や飲食店に対する営業活動についての制限等、多様な自由と権利に対しての制約がなされた。
   これらの制約の多くは自粛要請の形式で行われてきたが、同調圧力やメディアを通じたバッシングも相まって強制力を伴う措置に近い効果を生じており、実質的に国民の自由と権利に対する制約となっている。
(4)司法に関して言えば、緊急事態宣言下において、大部分の事件について一律に裁判期日を延期したことは、国民の適正な司法サービスを受ける利益を損なうものであった。また、各地の拘置所において一般面会を原則停止する対応が採られたことは、接見禁止処分を受けていない被疑者、被告人に対する過度な制約であったといえる
(5)2021年2月13日には、特措法及び感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」)の改正法が施行された。これらの改正法案には、命令に応じない事業者や入院措置に応じない者に対する罰則等が定められ、これに対し各地の弁護士会が反対の声明を発出した。
   しかし、最終的には行政罰という罰則が盛り込まれる形となった。他方、事業者に対する給付金等の支給はあるものの、政府はコロナ禍の自粛要請に対する憲法上の補償については否定的である。
 
4 諸問題への当会のこれまでの取組みとこれからの取組み
2において述べた様々な社会問題・人権問題に対応するため、当会においては下記の取組みを行っており、今後も継続・充実させる所存である。
① 一般法律相談及びコロナ特化型法律相談
   当会では、県内3か所の法律相談センターにおいて一般法律相談(広く市民・事業者を対象とした法律相談)を提供しているが、コロナ禍の緊急事態宣言下においても弁護士会館における法律相談センターを電話相談に切り替えて休止することなく一般法律相談を継続し、市民の相談ニーズに応えた。その際、利用者の無料相談を継続できるよう日本司法支援センター(法テラス)と協議して電話相談における相談援助の継続をしており、2020年実績で全相談件数の7割が無料相談となっている。
   また、一般法律相談に加えて新型コロナに特化した法律相談も開催している。具体的には、令和2年4月20日から同年5月20日にかけて「新型コロナに関する全国統一ダイヤルの電話無料法律相談」、令和3年2月15日から3月31日にかけて「ひまわりお悩み110番のコロナ無料相談」、令和3年2月25日には「全国一斉新型コロナ生活相談ホットライン」をそれぞれ実施した。新型コロナの第1波の時期に開催された電話無料相談では、非事業者の相談には解雇・賃金に関するものや休業手当不払等の労働問題、公的支援制度の問合せが多くみられたほか、人権問題や差別問題も散見された。第3波の時期に実施されたコロナ無料相談では労働問題や公的支援制度の問合せに代わり債務整理に関する相談がほとんどであり、同時期の生活相談ホットラインでは労働問題、借入金、資金繰り、親族関係、公的支援関係等の相談が寄せられた。
   コロナ禍による社会問題・人権問題の救済手段として一般法律相談及びコロナ特化型相談は確実に機能しており、今後も感染状況に応じてこれを継続し、市民の権利擁護に努める。
 ② DV被害等についての対応
令和2年4月23日に「新型コロナ感染拡大に伴うDV等家庭内被害の増加・悪化防止に関する会長声明」を発出し、社会的弱者を被害者とするDVと家庭内における虐待の問題に継続して取り組むことを表明するとともに、同月中に「DV等被害のための緊急無料電話相談」を実施した。その他、DV被害等については「女性弁護士による女性のための法律相談」、「犯罪被害者支援無料相談」が、児童虐待被害については「子どもの悩み事110番」が相談受け皿として存在する。
コロナ禍におけるリモート勤務、休業、休校等の要因により家庭での加害者との接触機会が増加し、今後も社会的弱者を被害者とするDV等の被害の拡大が懸念されることから、当会では相談受け皿の広報に努めるとともに、DV被害者等の司法へのアクセスをより充実させ、警察、県の配偶者暴力相談支援センター及び各市町村窓口などの関連諸機関との連携の強化も努めていく。
③ 新型コロナに関連する差別問題についての対応
   当会では、令和2年5月1日「新型コロナに関わる差別のない社会を作るための会長声明」を発出して、新型コロナに関わる差別を防止し、患者やその家族、同僚、医療従事者、帰国者や外国人ら一人ひとりの人権を守り、社会全体の連帯を保持するために、全力をもって取り組んでいく所存であることを表明した。
   また、新型コロナもワクチン接種が進み始めたが、感染状況の収束への期待による過度の接種推奨等から、接種対象者の自己決定権が侵害されるおそれや、接種を選択しなかった人に対する差別・偏見が生じる懸念がある。そのような事態が発生した場合には、当会においても意見表明等を通じてワクチン接種に関わる差別の防止に取り組む。
④ 自殺対策
   当会では希死念慮者やその家族などの支援者を対象とした法律相談(いのちみつめる無料電話法律相談)を行っており、今年3月には、同法律相談の一環として、全国一斉の「暮らしとこころの相談会」を実施した。
   自殺の多くは、格差と貧困の拡大を背景に、労働問題、生活問題、家庭問題などの社会的問題が複合的に重なり、心理的に追い込まれ、適切な行動を選択できなかった結果としての「強いられた死」とも言われている。長期化するコロナ禍の影響が社会的・経済的弱者にしわ寄せされ、「強いられた死」を回避し難い危機的状況に陥る人々が増加することが強く懸念される。
   当会は、今後、より一層、弁護士が希死念慮者及びその支援者の社会的問題に耳を傾け、「自殺予防のゲートキーパー」となり、「強いられた死」を回避ないし防止するための活動を進めていく。
⑤ 借金問題・債務整理についての対応
   国は昨年、自然災害ガイドラインを新型コロナに適用することを決定し、コロナ禍によって経済的困窮に陥った個人の債務者(給与所得者及び個人事業者)について破産等の法的手続を利用することなく債務の整理ができるよう制度整備を行っている(新型コロナ特則)。これを受けて、当会では債務整理の手続きを支援する登録支援専門家の育成・確保に努め、現在までに20名の会員を登録支援専門家として承認した。
   観光産業を基幹産業の一つとする県内の事業者の経営状況は厳しく、コロナ禍の長期化によりさらに困窮することは避けられない。そのしわ寄せが零細事業者の廃業、非正規雇用者の解雇や雇い止めといった形で今後現れてくることが予想され、その際、コロナ特則は経済的・経済的弱者の再生を図る手段として広く活用されることが望ましい。
   今後、当会においては、登録支援専門家についてさらなる体制拡充を行い、取扱実績を蓄積するとともに金融機関や関係機関に同制度を周知し、広報も行って、県内事業者の経済的困窮の解決に尽力する決意である。
 ⑥ 労働問題についての対応
   当会では、貧困問題に関する法律相談として通年の「労働・生活保護無料法律相談」を開催する他、毎年11月に「全国一斉解雇・失業・生活相談ホットライン、同12月に「全国一斉生活保護ホットライン」を実施している。
   県内においては、コロナ禍の影響により非正規労働者を中心に解雇や雇い止めが相次ぎ、雇用環境の悪化はとりわけ女性のひとり親世帯等に深刻な影響を与えている。当会では今後も引き続き、社会的・経済的弱者の労働問題、生活保護問題に対応すべく、上記各相談を継続していく予定である。
5 自由と権利の制約に対する取組み
(1)3において述べた自由と権利の制約に関して、公衆衛生の観点から新型コロナの感染拡大防止が喫緊の課題であることは事実である。
   しかしながら、そのために憲法上国民に保障された自由と権利が無制限に制約されることはあってはならない。感染拡大防止の目的を超えて自由と権利を制約することが許されないことはもとより、その制約は科学的知見に基づく必要最小限度のものである必要がある。
   現に、特措法第5条は「国民の自由と権利が尊重されるべきことに鑑み、新型インフルエンザ等対策を実施する場合において、国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない」と定めており、公権力の行使に歯止めをかけている。
(2)この点、新型コロナの感染力や対処法が未解明であった時期には対応が手探りにならざるを得ず、回復できない甚大な感染被害が生じるのを防ぐために一定の強い措置が講じられたことにはやむを得ない側面もある。また、感染症との闘いにおいて、公衆衛生の確保という公益目的と個々の自由や権利をどのように調整するかは唯一解の存在しない難解な問題であることも事実である。
(3)他方で、新型コロナに関する科学的知見の蓄積は確実に進んでおり、これによって昨年の感染拡大初期と比べてより合理的かつ目的達成に必要な制約の設定が可能となっている。昨年来、手探りで行われた制約とは異なり、今後行われる制約は国民の自由と権利に対して合目的的なものであり、かつ必要最小限度のものになっているかが慎重に吟味されなければならない。また、例えば飲食業界は感染拡大の要因と指摘され、長期間にわたり強い制約を受けているが、営業の自由に対する制約である以上、その補償は十分に行われなければならない。
   政府・地方自治体は特措法及び感染症法の改正によって行政罰を伴う強制が可能となったが、自由と権利に対する強い制約は極めて例外的なものとして運用がなされるべきである。前述の飲食業界に対する営業の自由の制約において、補償が不十分なまま徒に罰則適用のみ横行するようなことがあってはならない。
(4)コロナ禍における人権制約に対しては、各地の弁護士会や日本弁護士連合会が声明を出してきた。
   当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士により構成される団体として、今後も公権力の動向を注視し、自由と権利に対する不当な制約に警鐘を鳴らすべく、必要な取組みを行う。
 
以 上

 

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