決議・声明

共謀罪を創設する組織的犯罪処罰法の改正に反対する総会決議

 
政府は過去3回にわたり廃案となった共謀罪法案について、共謀罪という名称を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画の罪」(通称 テロ等組織犯罪準備罪)に変えたうえで、要件についてもいくつかの変更を加え、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(通称 組織的犯罪処罰法)の改正案として今通常国会に提出した。同改正案は、本年5月23日には衆議院本会議で可決された。
当会は過去4回にわたり、共謀罪法案に反対する声明を発表してきた。その内容は、共謀という犯罪の合意そのものを処罰する枠組みが、国民の表現の自由等をはじめとする基本的人権を侵害する可能性が高く、我が国の刑事法制における既遂犯処罰の基本原則にも反するうえ、処罰対象が広範で、権力による拡大解釈の危険性があるというものである。
政府は、本改正案について、①適用対象を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と規定したこと、②準備行為を必要としたこと、③対象となる犯罪を同改正案別表に列挙する277の罪に限定したことを挙げて、本改正案は、かつて廃案となった共謀罪とは異なるものであるとの説明をしている。
しかしながら、①「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」について、まず、「テロリズム集団」は「組織的犯罪集団」の例示として挙げられているにすぎず、このような例示がなされたからといって、対象がテロ組織や暴力団に限定されるわけではない。そして、「組織的犯罪集団」は、「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるもの」とされており、不明確であるから、「組織的犯罪集団」の認定は、解釈により際限なく広がる可能性があるのであって、刑罰法規の明確性(憲法31条)の観点から問題がある。そして、適法な表現活動を目的とする市民団体などについてまでも、その活動に対する捜査機関の評価によっては、組織的犯罪集団と認定される危険性がある。本改正案においても、捜査機関による「組織的犯罪集団」の認定が恣意的に行われることにより、適法な表現活動を阻害し、憲法で保障された正当な表現の自由、結社の自由、その他国民の基本的人権を侵害する危険性があることは、これまでの共謀罪法案と変わりはないというべきである。とりわけ、沖縄県においては、米軍基地の集中が原因で、市民が団結して国に対する抗議行動などを行うことも多く、本改正案により創設される共謀罪の拡大解釈による表現の自由等への侵害が、特に懸念されるところである。
また、②「準備行為」について、計画に基づき行われる準備行為を必要としても、「組織的犯罪集団」と同様、捜査機関による認定が恣意的に行われるおそれがある。本来、準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びるものではないのであって、本改正案も、現行の刑事司法における既遂処罰の基本原則を大きく変容させ、刑罰の謙抑性の観点から問題があるものであることに変わりはない。
さらに、③対象となる犯罪が277に減じられたとしても、上記①②のような問題点を有するものであり、国民の基本的人権を侵害する危険性が高いものであることに変わりはない。しかも、減じられたあとの対象犯罪も、組織的威力業務妨害罪、横領罪、窃盗罪、背任罪、収賄罪など、必ずしもテロや暴力団犯罪と結びつかない一般的な犯罪も多くがその対象とされている。
以上のとおり、政府の本改正案は、かつて廃案となった共謀罪と同様、憲法で保障された正当な表現の自由、結社の自由を侵害する危険性が高く、また、刑罰法規の明確性(憲法31条)の観点からも問題があり、国民の基本的人権の行使に多大な萎縮効果をもたらすものである。
政府は、2000年(平成12年)に署名され、2003年(平成15年)に発効した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(いわゆる「パレルモ条約」)の締結のためには、本テロ等組織犯罪準備罪の創設が必要であると説明している。
しかし、日本国においては、既に主要な暴力犯罪について、未遂段階より前の「予備」「陰謀」「準備」の段階で処罰する規定が相当程度存在しているほか、テロ資金提供処罰法など、テロ対策のための立法措置もなされてきているのであるから、必要に応じて更なる個別具体的な立法措置を講ずること、又は、同条約の条項を一部留保することにより、新たに本改正案のような一般的な共謀罪を創設することなく、パレルモ条約を締結することは可能である。よって、パレルモ条約締結のため、本改正案によるテロ等組織犯罪準備罪の創設が必要であるということは到底できない。
よって、当会は、本改正案の制定に強く反対することを決議する。
 
2017年(平成29年)5月30日
沖 縄 弁 護 士 会

 

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