決議・声明

 被疑者・被告人に対する取調べにおける例外のない
録音・録画(可視化)の法制化を求める決議

 

 我が国では、これまで捜査官による密室での違法・不当な取調べが繰り返され、その結果作成された虚偽内容の自白調書等により多くのえん罪が生み出されてきた。この数年の間における、志布志事件、氷見事件、足利事件、布川事件や、本年3月に静岡地方裁判所で再審開始決定が出された袴田事件等は、これを明らかにしている。
違法・不当な取調べを防止するためには、その状況を録音・録画することが有用であるが、法務省法制審議会に設置された「新時代の刑事司法制度特別部会」は、これまで取調べの録音・録画制度を含む今後の刑事司法制度について検討を行っていたところ、本年4月30日の会議において、「事務当局試案」が示された。この事務当局試案では、取調べの可視化については、公判に付される事件のうちわずか3パーセント未満にすぎない裁判員裁判対象事件に限定して実施するという案と、裁判員裁判対象事件に加え、それ以外の全身体拘束事件における検察官取調べも対象に含めるとの2案が提示されている。また、事務当局試案では、可視化の対象となる場合であっても、録音・録画すると被疑者が十分な供述をすることができないときなどは捜査機関の録画・録音義務を免除するものとされている。
しかしながら、このような取調べ可視化の範囲を限定する事務当局試案には到底賛成できない。
そもそも、取調べの可視化は、違法・不当な取調べを抑止し、虚偽の自白調書が作成されることを防止するために必要不可欠な手段であり、対象事件に限定を加えたり、捜査官に対する録画・録音義務を免除することなどあってはならない。
よって、当会は、被疑者・被告人の権利を擁護し、えん罪をなくすため、これらに対する取調べにおける例外のない録音・録画(可視化)の法制化を求める。

2014(平成26)年5月28日
沖 縄 弁 護 士 会



提案理由

 

1 我が国では、これまで捜査官による密室での違法・不当な取調べが繰り返され、自白調書の作成過程が検証できない構造の中で、多くのえん罪が生み出されてきた。この数年の間における、志布志事件、氷見事件、足利事件、布川事件や、本年3月に静岡地方裁判所で再審開始決定が出された袴田事件等の経過は、これを明らかにした。
日本弁護士連合会では、かねてから、捜査官による違法・不当な取調べによる虚偽自白を防止するとともに、真に公正な裁判を実現し、えん罪を根絶するためには、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)、触法少年調査の可視化(調査の全過程の録画)、証拠開示を含む武器対等原則の実現、人質司法の打破、国選弁護人(付添人)制度の充実、代用監獄の廃止等が不可欠であるとして、これら施策の実現を強く求めてきた。
とりわけ、取調べの可視化は、違法・不当な取調べを根絶させ、自白の任意性・信用性をめぐる争いを消滅させ、「自白調書」に依拠した捜査・公判の構造を抜本的に改革することにも繋がる喫緊かつ最重点の課題である。

2 ところで、法務省法制審議会に設置された「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下単に「特別部会」という)は、2013年1月に公表した中間試案としての「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」に従い具体的な検討を行ってきたところ、本年4月30日の会議において事務当局試案が示された。
この事務当局試案では、取調べの可視化については、対象事件として、わずか3パーセント未満にすぎない裁判員裁判対象事件と限定するか、それ以外に全身体拘束事件における検察官取調べも対象に含めるとの2案が提示されている。
しかしながら、このように取調べ可視化の範囲を限定する事務当局試案には賛成できない。
すなわち、裁判員裁判対象事件に限るとする案では、録音・録画が義務づけられる事件は、公判に付される事件の3%未満に過ぎず、多くの罪名の事件が除外されることになってしまう。
また、全身体拘束事件における検察官の取調べを対象に含めるという案は、最も取調べの適正化が求められる警察の取調べの大部分について可視化の道を閉ざすことになってしまう。

3 更に、事務当局試案では、対象事件・対象範囲であっても、録音・録画義務を免除する事由として、①機器の故障等のやむを得ない事情のあるとき、②被疑者の拒否その他被疑者の言動により、録音・録画すると被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき、③「犯罪の性質、関係者の言動、被疑者がその構成員である団体の性格その他の事情に照らし」被疑者が供述したことやその状況が明らかにされた場合には、被疑者・親族への加害や、畏怖困惑させる行為をされるおそれがあることにより、録音・録画すると被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき、④当該事件が指定暴力団の構成員による犯罪であると認めるとき、の4つの例外事由を挙げている。
しかしながら、これらの例外事由のうち、①以外の事由は、いずれも捜査当局の恣意的な運用のおそれが強く、自白獲得を第一義とする現在の捜査手法を前提とすると、取調べの適正化を目的とする録音・録画制度が無力化することになりかねない。また、③④のように、所属団体など被疑者の属性を取調べの録音・録画の例外事由とすることは、制度の公平性・明確性を失わせるもので、到底受け入れられない。

4 特別部会では、今後、本年6月末を目処に最終的なとりまとめがされる予定である。当会は、上記最終とりまとめに先立ち、「全面可視化の必要性」を改めて強く訴える必要があると考え、本決議を行うものである。
なお、事務当局試案では、捜査機関による手持ち証拠開示の範囲について、公判前整理手続に付された事件を対象とする部分的な一覧表の開示に限定されていること、他方で、通信傍受について、対象犯罪の対象を大幅に拡大することが提示されていることなども問題である。
これらの問題についても、当会として、適宜の方法により、意見を表明していく所存である。

以 上

 

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