決議・声明

 憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に反対する決議

 

1 集団的自衛権とは,自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利であるとされている(政府見解)。政府は,数十年間にわたり,憲法9条の下で許容されている自衛権は,自国に対する急迫不正の侵害が認められる場合に限って認められ,また我が国を防衛するための必要最小限度の範囲に留まるべきものであり,集団 的自衛権を行使することは,憲法9条の許容範囲を超えるもので憲法上許されないという解釈のもと,集団的自衛権は保有しているものの,その行使はできないという答弁を繰り返してきた。
ところが,現在,政府は,憲法改正手続をせずに,閣議決定による憲法解釈変 更を行うことにより,集団的自衛権行使を容認しようと準備を進めている。


2 日本国憲法は,その前文で恒久平和主義をうたい,平和のうちに生存する権利を有することを確認し,9条では戦争及び武力の行使等を放棄するとともに(1項),戦力の不保持と交戦権の否認を規定している(2項)。かように徹底した平和主義は,第二次世界大戦における悲惨な戦争体験を踏まえ,戦争に対する深い反省の下に採用されたものであり,武力紛争の絶えない国際社会の中において画期的な意義を有する基本原理である。
このような憲法前文,9条の平和主義の下において,現実に日本が武力攻撃を受けていないにもかかわらず,日本が実力をもって他国への攻撃に立ち向かうことを内容とする集団的自衛権の行使を容認することは許されないというべきである。
この点,政府は,自衛権発動の要件として,①日本に対して急迫不正な侵害が発生したこと,②これを排除するために他の適当な手段がないこと,③必要最小限度の実力行使にとどまることが必要であるとの見解を示してきた。かかる見解を前提にしても,集団的自衛権の行使は,上記①の要件を欠いており,かつ我が国の防衛のための必要最小限度の実力行使といえない点で,③の要件をも欠いていて許されない。集団的自衛権の行使を容認することは,従来からの確立した憲 法9条に関する政府見解にも真っ向から抵触するものである。


3 また,日本国憲法は,憲法を最高法規と定め(第10章),憲法に違反する法律や政府の行為を無効とし(98条),国務大臣や国会議員に憲法尊重擁護義務を課することで(99条),政府や立法府の権力行使を憲法の制約の下に置く立憲主義を採用している。
集団的自衛権の行使は憲法上認められないとの見解は,政府が数十年の長きにわたって憲法解釈として示してきたものであり,政府自らがこれを規範として確立させ,拘束されてきたのである。それにもかかわらず,かかる憲法解釈を時の政府の政治的判断のみで根本的に変更することは,立憲主義の精神に照らし,到底許されない。


4 よって,当会は,政府の憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を容認することに対し,強く反対するものである。

2014(平成26)年5月28日
沖 縄 弁 護 士 会

 

 

 

 

提 案 理 由

1 はじめに
政府は,現在,憲法改正手続を行わずに,憲法解釈の変更により,集団的自衛 権の行使を可能にすべく,閣議決定の準備を進めている。
しかし,集団的自衛権の行使容認は,これまで積み重ねられた憲法9条に関す る政府見解に照らしても,同条に違反することは明白である。また,時の政府の政治的判断により,憲法解釈の根本的な変更がなされることは,憲法9条のみならず,立憲主義(憲法98条1項,99条)の精神からも問題である。
よって,当会は,憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に強く反対するものである。


2 政府の動き
安倍政権は,2013(平成25)年2月に集団的自衛権の行使容認論者らで 構成された私的諮問機関「安全保障の法的基盤の整備に関する懇談会」(安保法 制懇)を設置し,同年8月には内閣法制局長官を集団的自衛権の行使容認論者に交代させた。
報道によれば,安保法制懇は,憲法上認められる「自衛のための必要最小限度の実力行使」に集団的自衛権が含まれる旨の報告書を政府に提出した。
そして,今後,安保法制懇の報告書や内閣法制局の見解を受けて,集団的自衛 権を容認する憲法解釈の変更を閣議決定し,その後に,集団的自衛権の行使容認 と密接に関連する国家安全保障基本法案等の国会提出がなされると予想されている。


3 集団的自衛権の定義
第二次世界大戦を経て1945年に制定された国連憲章では,武力行使が違法化された(憲章第2条第4項)が,その例外として,第51条で,武力攻撃に対 する自衛のための武力行使(個別的自衛権)を認めており,さらに集団的自衛権 に基づく武力行使も認めている。
この集団的自衛権の定義について,日本政府は,「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」との見解に立っている。
そして,政府は,この集団的自衛権について,「わが国が直接攻撃されていな いにもかかわらず,他国に加えられた武力攻撃を実力で阻止することは,憲法9 条の下で許容される実力の行使の範囲を超えるものであり,許されない」との見 解を示し,同見解は数十年の長きにわたり,一貫して維持されてきた。


4 平和主義に反すること
⑴ 第二次世界大戦後に制定された日本国憲法は,国民主権,基本的人権の尊重,そして平和主義の三つを基本原 理としているが,中でも平和主義については,その前文で恒久平和主義をうたい,平和のうちに生存する権利を有す ることを確認し,9条では戦争及び武力の行使等を放棄するとともに(1項),戦力の不保持と交戦権の否認を規定し ており(2項),徹底した平和主義を採用して  いる。これは,第二次世界大戦における悲惨な戦争体験を踏まえ,  戦争に対する深い反省に基づいて制定されたことに由来するもので,国連憲章よりもさらに徹底した平和主義・戦  争放棄の考え方が示されている。
憲法9条は,戦争・武力紛争や暴力の応酬が絶えることのない今日の国際社  会において,全世界の国民の平   和に生きる権利を実現するための具体的規範とされるべき重要性を有している点で画期的であり,日本国憲法の徹 底した平和主義は,21世紀の世界平和を作り出す指針として世界の市民から注目を集め,高く評価されている。
⑵ 憲法9条の解釈をめぐっては,従来,自衛のための戦争(自衛権の行使)を行うことができるか否かが一つの大き な争点となっていたが,政府は,憲法が先述のとおり平和主義を採用していることも踏まえ,①わが国に対する急迫 不正の侵害があること(武力攻撃が発生したこと),②この場合にこれを排除す  るため他に適当な手段がないこ  と,③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと,という「自衛権発動の3要件」を満たす場合にのみ自衛権を行  使することができるという見解を示してきた。
⑶ しかし,政府の上記見解を前提としても,日本が武力攻撃を受けていないに  もかかわらず,日本が実力をもっ  て他国への攻撃に参加することを内容とする集団的自衛権の行使は,上記①の要件を欠いており,さらに,我が国 の防衛のための必要最小限度の実力行使とはいえない点で,③の要件をも欠いている。
集団的自衛権の行使は,従来からの確立した憲法9条に関する政府見解に真っ向から抵触するものというべきであ って,平和主義(憲法前文,9条)に反し許されない。


5 立憲主義の精神に反すること
日本国憲法は,国家権力の恣意的な行使から個人の権利・自由を確保するため,憲法を最高法規と定め(第10章),憲法に違反する法律や政府の行為を無効と し(98条),国務大臣や国会議員に憲法尊重擁護義務を課することで(99条),政府や立法府を憲法による制約の下に置く立憲主義を採用している。
政府は,集団的自衛権の行使は憲法上認められないとの見解を数十年の長きに わたり自ら憲法解釈として示し,これを規範として確立させ,拘束されてきたのである。それにもかかわらず,このような憲法解釈を時の政府の政治的見解のみ で変更することについては,立憲主義の精神に照らし,到底許されないものである。


6 まとめ
以上の理由で,当会は,政府の憲法解釈の変更や法律の制定によって集団的自衛権行使を容認することに強く反対し,政府及び立法府に対し,集団的自衛権の行使を容認しないように求めるものである。


以上

 

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