決議・声明

勾留された全被疑者への国選弁護制度の拡大と、
逮捕段階における公的弁護制度の確立を求める決議

1 当会は、直ちに、勾留段階における国選弁護制度の対象を全被疑者に拡大することを求める。
2 当会は、速やかに、逮捕段階における国費による公的弁護制度を確立することを求める。
3 当会は、被疑者国選対象事件の拡大及び逮捕段階における国費による公的弁護制度の実現に向けて、対応態勢確立に万全を期すとともに、刑事弁護の更なる質的向上を図ることを誓う。

2013(平成25)年5月29日
沖縄弁護士会

 

 


提 案 理 由

1 被疑者弁護制度の意義
 免田、財田川、松山、島田の死刑再審無罪4事件を始めとして、近年でも、志布志事件、足利事件、布川事件と、身体拘束を利用した不当な取調べによる虚偽の自白を証拠とした数々の重大なえん罪が明らかになっている。
このことは、捜査機関に身体を拘束され、取調べにさらされると、強制的な雰囲気を払拭して一人で身を守ることは極めて困難であることを示している。身体拘束されて一般社会から隔離され、刑事手続に付されることの不利益と不安は、極めて大きい。実際、身体拘束を利用した取調べによる虚偽自白の獲得により、死刑事件を含む多くのえん罪が生み出されてきたのである。
身体拘束された被疑者が、弁護人から、被疑者として保障された権利の告知、捜査の在り方についての警察及び検察との交渉、証拠保全、被害者との示談交渉、身体拘束からの解放に向けた活動など弁護人の援助を受ける利益は、極めて大きい。
刑の軽い罪であるからといって、身体拘束を受けた被疑者の不利益や不安が小さく、えん罪の危険が少ないというわけでは決してない。むしろ、軽微な罪であるからこそ、身体拘束による不利益や不安から免れようと虚偽の自白をしてしまう誘惑に駆られやすいともいえる。最近でも、PCを遠隔操作して威力業務妨害をしたと誤認され、身体拘束された4名のうち2名が虚偽の自白をしていたことは、記憶に新しい。
身体拘束された被疑者に対して質の高い国選弁護人の援助を実質的に保障することは、身体拘束された被疑者が自己負罪を強要されないよう被疑者の黙秘権を保護するとともに、複雑な刑事手続や証拠収集に関して専門的な見地から助言をすることにより、被疑者に刑事手続へ当事者として参加する機能を保障するという、極めて重要な意義を有している。

2 憲法及び国際人権法からの要請
身体拘束を受けた被疑者の弁護人依頼権は、被疑事実の軽重に関わらず、憲法第34条の保障するところであり、身体拘束を受けた全被疑者に対する国選弁護制度を実現することは、憲法第34条、第14条、第37条第3項、そしてまた、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(B規約)第14条、「あらゆる形態の抑留又は拘禁の下にある全ての者の保護のための諸原則」(被拘禁者保護原則)原則17、「弁護士の役割に関する基本原則」、「少年司法運営のための国際連合標準最低規則」等、憲法と国際人権法を基盤とし、その要請に応えるものである。

3 当番弁護士制度・刑事被疑者弁護援助制度(被疑者援助制度)から被疑者国選弁護制度の創設とその成果
我が国では、長らくの間、国選弁護人制度の対象は起訴後の被告人段階に限られてきた。
日弁連は、1989年9月に松江市で開催された第32回人権擁護大会における「刑事訴訟法40周年宣言」において、「現在の刑事手続を抜本的に見直し、制度の改正と運用の改善をはかるとともに……あるべき刑事手続の実現に向けて全力をあげてとりくむ」ことを宣言した。それを契機に、被疑者国選弁護制度の実現に向けて、被疑者段階における弁護人依頼権の実質的な保障を目的として、当番弁護士制度及び被疑者援助制度が実施された。
当番弁護士制度は、要請を受けた事件に当番の弁護士が接見に出動し、その費用は被疑者に負担させないこととして、1990年に大分県、福岡県で発足し、その後各地で展開され、1992年には全国の弁護士会で実施された。
また、資力のない者が身体拘束を伴う強制捜査を受けた場合にも弁護人を選任できるよう、1990年には、被疑者弁護援助制度が財団法人法律扶助協会により実施された。さらに、日弁連は、1995年に当番弁護士等緊急財政基金を設置した。
これらの取組が結実し、被疑者国選弁護制度が実現されるに至った。
まず、2006年10月から、被疑者国選弁護制度の第一段階として、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件を対象とする被疑者国選弁護制度が実施され、続いて2009年5月21日からは、被疑者国選弁護制度の第二段階として、死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件にまで対象が拡大された。これにより、より多くの被疑者に勾留段階から国選弁護人が選任されるようになった。

4 当番弁護士制度及び被疑者援助制度による弁護人確保とこれを支えてきた財源
現在の被疑者国選弁護制度では、その対象事件を死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件に限定している。そのため、対象外の事件、例えば、死体遺棄、迷惑防止条例違反(痴漢)、道路交通法違反(酒気帯び運転)、公務執行妨害、暴行、名誉毀損、贈賄等の被疑事件については、被疑者は、国選弁護人の援助が受けることができない。
日弁連は、2009年5月21日の第二段階の被疑者国選弁護制度実現後も、同年6月に少年・刑事財政基金を設置し、通常会費とは別に会員から特別会費を徴収して、同基金に繰り入れ、これを財源として「当番弁護士制度」及び被疑者援助制度のために多額の費用を支出している。また、当会も、私選弁護人紹介制度の運用にあたり、独自の負担をしている。

5 被疑者国選弁護の対象事件の制限の撤廃を
 これまで述べてきたとおり、身体拘束を受けた被疑者の弁護人依頼権は、被疑事実の軽重にかかわらず、被疑者の権利を守る上で大変重要である。また、全被疑者に対する国選弁護制度を実現することは、憲法の要請に応えるものである。
よって、当会は、日弁連とともに、改めて、国に対し、被疑者国選弁護制度の第三段階として、対象事件の制限を撤廃し、直ちに、勾留された全ての被疑者の事件に拡大することを求めるものである。

6 逮捕段階における公的弁護制度の実現を
  我が国では、被疑者が逮捕されてから勾留請求までの間に最大72時間の身体拘束が認められており、この逮捕段階の取調べにおける虚偽自白も、えん罪の温床となってきた。むしろ、身体拘束直後こそ、弁護人もしくは弁護人となろうとする者の助言が重要とも言える。
 現在、当会では、被疑者から私選弁護人紹介の申出があった場合には、極力会員弁護士が接見に赴いて助言し、被疑者に資力がなければ相談料を免除する扱いとしてきた。この制度を支えているのも会員の会費であるが、本来、逮捕段階における弁護制度も国費によってまかなわれるべきである。
 よって、当会は、日弁連とともに、第三段階として全勾留事件の国選弁護制度が実現した後、速やかに、第四段階としての逮捕段階における国費による公的弁護制度を確立することを求めるものである。

7 態勢確立の必要性
 これら制度の拡大・導入のためには、これを担う弁護士や弁護士会の対応態勢の確立が必要であることはいうまでもない。
  日弁連は、2010年度に各弁護士会に対して実施した、被疑者国選弁護制度第二段階における対応態勢に関する調査により、各弁護士会の努力により、概ね対応態勢に問題のない状況になっていることを明らかにした。当会においても、第二段階に対する対応態勢は十分に確立されているものと評価できる。
  さらに、日弁連は、2011年10月から2012年2月までの間、全弁護士会と被疑者国選弁護制度第三段階の対応態勢についての協議を行ってきた。その結果、当会も含め、各地とも、ほぼ対応態勢に問題がないことが明らかになっている。
 被疑者国選弁護制度第四段階の対応態勢についても、今後、日弁連が調査し、各会との協議を行うことが予定されている。
 当会においても、被疑者国選対象事件の拡大及び逮捕段階における国費による公的弁護制度の実現に向けて、対応態勢確立に万全を期すとともに、刑事弁護の更なる質的向上を図るため、不断の努力を行うことを誓うものである。
 

以 上

 

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