決議・声明

クレジット現金化業者の広告の掲載中止を求める要望書

 

2005年12月16日

沖縄弁護士会         

   会 長  竹 下 勇 夫  

 

 

第1 要望の趣旨

   新聞紙上におけるクレジット現金化業者の広告の掲載の中止を求める。

 

 

第2 要望の理由

1 沖縄県内における多重債務者の著しい増加

  長引く不況により失業したり,収入が減少する人が増える一方で,クレジットカードの大量発行やサラ金の無人契約機の普及などにより誰でも気軽に借金ができる環境になっていることから,複数のクレジット・サラ金業者などから借入をして,返済が困難になる多重債務者が急激に増加し,それに伴い,全国の個人の破産申立件数も,右肩上がりに上昇し2003年には約24万件となっている。2004年には約21万件に減少したものの,これは民事再生手続や過払い返還請求など他の債務整理の選択肢が定着したためとも考えられており,現在,返済が困難になっている多重債務者は,全国で150万人から200万人は存在するといわれている。

 全国的に見て低所得者が多い沖縄県内においても,多重債務者は増加の一途をたどっており,多重債務問題は沖縄県における深刻な社会問題となっている。

 2 クレジット現金化業者の実態

 クレジット現金化業者とは,顧客にクレジットカードなどの信用取引により商品を購入させたうえ,直ちに商品を買い取り,顧客に現金を渡す業者のことであり,沖縄県内にも多数存在し,キャッシング枠は限度額いっぱいまで借りているような多重債務者がこれらの業者を利用して現金を得ているものと考えられている。

 当委員会でクレジット現金化業者の実態を調査したところ,クレジット換金業者は,債務者にクレジット契約した立替代金額の3分の1程度の換金率で換金した事例があった。この事例では債務者は換金された金員を元にその3倍もの金額をクレジット代金として支払わなければならないことになり,高金利で返済不能となった多重債務者がさらに実質的に利息制限法を遙かに超える利率相当額の返済を余儀なくされていた。この事例だけでなく,同様に多くの多重債務者がクレジット現金化業者を利用したため,実質的に利息制限法を大幅に超える利率相当額の返済を余儀されているのは明らかであり,このような多重債務被害が拡大している。

 また他の事例ではクレジット換金業者が無登録で出資法を超える利率で貸付を行ういわゆるヤミ金融を紹介した事例もある。同事例ではクレジット換金業者はクレジット換金をすれば後に貸金業者を紹介すると称してヤミ金融業者を紹介して借入をさせ多重債務者にさらに高金利の債務を追わせるなど,多重債務被害を増長させている。  

 3 クレジット現金化業者の広告方法

 これらクレジット現金化業者は,県内の主要道路を含む道路沿いの電柱に,「クレジット現金化します」,「クレジット高額買い取りします」等の文言を記載した宣伝ポスターを貼ったり,立て看板を立てるなどして,顧客を誘引している。

 また,これら業者は,沖縄県内で流通する雑誌等にもポスターと同様の広告を掲載するとともに,沖縄県内最大大手新聞社2社の新聞紙上の広告欄にも,同種のクレジット現金化広告を掲載して,広く顧客を誘引している状況にある。

 4 クレジット現金化広告の法的問題点

 那覇地方裁判所における自己破産申立書添付の陳述書統一書式において,破産申立者に対し,免責不許可事由を調査するために「換金」行為の有無について解答する欄が設けられていることからわかるように,換金行為は破産法において,罰則規定の対象となっていると共に,免責不許可事由の一つと規定されている。

 即ち,旧破産法においては,当初から処分目的をもって信用取引(クレジット)により商品を購入し,直ちに低価格で売却又は質入れする行為は,いわゆる「換金」と呼ばれ,債務者が破産した場合には過怠破産罪(旧破産法375条2号)に該当しうる行為であり,またかかる換金行為は,破産法上の免責不許可事由として規定されていた(同法366条ノ9第1号)。

 平成17年1月に施行された新破産法においては,過怠破産罪という類型は廃止されたが,同様の行為は新破産法においても「債務者の財産を債権者の不利益に処分し,または債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為」(破産法265条1項4号)に該当しうるので,詐欺破産罪として処罰される可能性があり,また,換金行為が免責不許可事由に該当する可能性があることに変わりはない(破産法252条第1項第2号)。

 更に,新破産法においては,情を知って破産法265条1項4号の行為の相手方となった者も処罰することになった(同法265条1項後段)。

 したがって,クレジット現金化広告を行っている業者が,多重債務者が法的知識が不十分なまま同広告を見て処分目的で信用取引をして著しく低価格での換金行為を行った場合には,この規定によって処罰される可能性がある行為をしているのである。

 さらに最大の問題点としては,多重債務に苦しみ,免責を得ようと破産申立をした債務者に免責不許可事由に該当する可能性のある行為をさせて,場合によっては債務者が免責が得られない結果を招きかねなという点である。

 免責不許可事由がある債務者は個人再生手続,任意整理等の返済型の債務整理を行うか,破産管財事件の申立をする以外に方法はないが,かかる任意整理のための返済資金も破産管財事件のための破産予納金も用意する資力のない多重債務者にとっては債務を整理する方法がないという解決不能な問題を生じさせ,多重債務者の経済的再生の途を閉ざす重大な結果を招いているのである。

 現に当会での破産申立の際にも換金行為により免責が得られず,個人再生手続も任意整理等もとれず,管財申立もできないという結果となっている事例が複数存在しており,未だ根本的解決には至っていない。

 5 新聞紙上でのクレジット現金化広告の多重債務者への影響

 以上のようにクレジット現金化は大きな問題を孕んでいるにもかかわらず,マスコミ各社の刊行物の広告欄には,クレジット現金化広告が毎日掲載されている。これらの広告が,上記の詐欺破産罪の誘引,免責不許可事由の増大を招き,破産申立をしても免責が得られない債務整理不能な多重債務者を増加させる一助になっているのは明らかである。

 特に沖縄県内において広く愛読されている二大新聞社が,その新聞紙上でクレジット現金化広告を掲載することは,沖縄県民におけるその認知度や信頼性を考慮すると,詐欺破産罪ないし免責不許可事由に該当する行為の誘引という側面からも,また,破産はしたものの免責が得られず,経済的再生が全く図れない多重債務者被害を増加をさせるという側面からも,他の刊行物の比にならないほどの社会的影響力を持つことは想像に難くない。

 例えば,ある現金化業者のホームページを見ると,そのお問合せ・お申込フォームには「どちらで当サイトをお知りになりましたか」と尋ねる項目があり,そこには二大新聞社名が筆頭として掲げられている。このことからも,現金化業者が,沖縄県民から広く認知されかつ信頼されている二大新聞社の紙面広告を利用することによって,新聞社自体の認知度や信頼性に便乗して,現金化業者自体の認知度及び信頼性を大いに高める結果となってしまっていることは明らかである。

 6 クレジット現金化広告掲載中止の再度の要望

 何度も述べてきたとおり,クレジット現金化広告を新聞紙上で掲載することは,詐欺破産罪ないし免責不許可事由に該当する行為の誘引と見られかねない行為であり,かつ,沖縄県内で頻発している多重債務問題の一つである,経済的再生が図れない多重債務被害の増価を助長する行為である。

 当会においては,昨年,このクレジット現金化広告の問題点を指摘しその掲載を中止するよう要望書を提出した。同要望書を提出した際,二大新聞社においては,かねてより,クレジット現金化広告の掲載中止を検討し,これらの業者に掲載中止を打診したところ,一部の業者から公安委員会から許可を受けた単なる古物商である,立て看板で「クレジット現金化」を行っている業者とは異なるなどと説明を受けたとの報告を受けた。その後,二大新聞社を含むマスコミ各社におかれては,要望書提出後もこれら広告を掲載し続けている状態が続いており,一向にかかるクレジット現金化広告を中止する気配がない。

 しかしながら,古物営業法における「古物営業」とは,「一度使用された物品もしくは使用されない物品で使用のために取り引きされたものまたはこれらの物品に幾分の手入れをしたもの」(古物)を売買するものであるところ,クレジット現金化業者の行っている営業は,上記のとおり,顧客がクレジットカードなどにより購入した商品を直ちに買い取り,その買い取り代金名下に現金を渡す(現金化)というものであり,クレジット現金化業者が顧客から買い取る物品は「一度使用されたもの」にも,「使用されない物品で使用のために取り引きされたもの」にも該当しない。

 したがって,クレジット現金化業者の行っている営業は,古物営業法における「古物営業」には該当しないというべきものであり,一部業者から貴新聞社らになされたという「単なる古物商である」旨の説明は,公安委員会による古物営業許可を逆手に取った言い逃れに過ぎないものである。

 前述のように,あるクレジット現金化業者のホームページにおいては,「当サイトをどのようにお知りましたか」という項目に二大新聞社が筆頭として掲げられているのであって,クレジット現金化業者自身が二大新聞社の新聞に広告を載せていることを認めているのである。新聞社が受けたこれら業者からの説明は,広告を続けるための言い逃れであって,その説明を鵜呑みにすべきでない。これら業者の実態は,これまで述べてきたように,単なる古物商などではなく,上記のような大きな問題点を含む行為を生業としている業者なのである。

 したがって,当会は,新聞広告によって一般市民が現金化業者に安易に誘引されるのを防ぎ,多重債務被害の増大を一刻も早く防止すべく,マスコミ各社に対し,その新聞紙上の広告欄にクレジット現金化業者の広告を掲載しないよう,再度,強く要望する。

以上

 

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