決議・声明

 2004年12月9日

クレジット現金化広告の掲載中止を求める要望書


沖縄弁護士会
会長 与 世 田  兼 稔 


第1 要望の趣旨

 新聞紙上におけるクレジット現金化広告の掲載の中止を求める。


第2 要望の理由

 1 沖縄県内における多重債務者の著しい増加

   サラ金・クレジットなどをめぐる消費者信用トラブルは、かつてないほど深刻な事態となっており,全国の個人の破産申立件数は右肩上がりに上昇し2003年には約24万件となっている。沖縄県内においても,多重債務者は増加の一途をたどっている。

 2 クレジット現金化広告

    これまで,野外の立て看板等で「クレジット現金化します」,「クレジット高額買い取りします」等の文言で信用取引(クレジット)により商品を購入させ直ちに買い取る事業者による広告(以下,「クレジット現金化広告」という。)が行われていたが,近時同種のクレジット現金化広告が新聞紙上の広告欄にも頻繁に掲載されるようになっている。

 3 クレジット現金化広告の法的問題点

  ここで当初から処分目的をもって信用取引(クレジット)により商品を購入し,直ちに低価格で売却又は質入れする行為は,いわゆる「換金」と呼ばれ,債務者が破産した場合には現行破産法では過怠破産罪(破産法375条2号)に該当しうる犯罪行為であり,またかかる換金行為は,破産法上の免責不許可事由である(同法366条ノ9第1号)。

  那覇地方裁判所における自己破産申立書添付の陳述書統一書式においても,破産申立者に対し,免責不許可事由を調査するために「換金」行為の有無について解答する欄が設けられている。

  したがってクレジット現金化広告を行っている業者は,多重債務者が法的知識が不十分なまま同広告を見て処分目的で信用取引をして著しく低価格での換金行為を行った場合には,同債務者に対する過怠破産罪の教唆にもなりかねない行為をしているのである。

  さらに最大の問題点としては,多重債務に苦しみ,免責を得よう破産申立をした者に免責不許可事由に該当する行為をさせて,免責が得られない結果を招いているのである。

  そして免責不許可事由がある債務者は個人再生手続,任意整理等の返済型の債務整理を行うか,破産管財事件の申立をする以外に方法はないが,かかる任意整理のための返済資金も破産管財事件のための破産予納金も用意する資力のない多重債務者にとっては債務を整理する方法がないという解決不能な問題を生じさせ,多重債務者の経済的再生の途を閉ざす重大な結果を招いているのである。

  現に当会での破産申立の際にも換金行為により免責が得られず,個人再生手続も任意整理等もとれず,管財申立もできないという結果となっている事例が複数存在している。

  上記のクレジット現金化広告については,県外,県内のマスコミにおいても社会問題として取り上げられているところである。

 4 クレジット換金業者の悪質事例

  当委員会でクレジット現金化業者の実態を調査したところ,クレジット換金業者は,債務者にクレジット契約した立替代金額の3分の1程度の換金率で換金した事例があった。この事例では債務者は換金された金員を元にその3倍もの金額をクレジット代金として支払わなければならないことになり,高金利で返済不能となった多重債務者がさらに実質的に利息制限法を遙かに超える利率相当額の返済を余儀なくされ多重債務被害が拡大している。

  また他の事例ではクレジット換金業者が無登録で出資法を超える利率で貸付を行ういわゆるヤミ金融を紹介した事例もある。同事例ではクレジット換金業者はクレジット換金をすれば後に貸金業者を紹介すると称してヤミ金融業者を紹介して借入をさせ多重債務者にさらに高金利の債務を追わせるなど,多重債務被害を増長させている。  

 5 新聞紙上でのクレジット現金化広告の多重債務者への影響

  以上のようなクレジット現金化広告の問題点に鑑みれば,広く沖縄県内で愛読され影響力の多い二大新聞紙上の広告欄にクレジット現金化広告を掲載することは,上記の過怠破産罪の誘引,免責不許可事由の増大を招き,破産申立をしても免責が得られない債務整理不能な多重債務者を増加させる原因を作っているのである。

  多重債務者自身が過怠破産罪を犯さず,免責不許可事由に該当する行為を行為をしてはならないのは当然であり,そのために多重債務者に対する教育も必要である。

  また新聞紙上でのいかなる広告を掲載するかは新聞社の裁量に任されるものではある。

  しかし,他方で沖縄県内での二大新聞社の公益性,社会的影響力の大きさからすれば,二大新聞社においては,少なくとも過怠破産罪ないし免責不許可事由に該当する行為の誘引と見られかねない行為は避けるべきであるし,また破産はしたものの免責が得られず,経済的再生が全く図れない多重債務者の被害の増加につながるような行為は避けるべきである。

  そのためには新聞紙上でのクレジット現金化広告の掲載を中止すべきである。

 6 新聞紙への要望の前例

  ここで当会が加入する九州弁護士会連合会の消費者問題連絡協議会では,平成8年に,当時法律を遵守しない日賦貸金業者活発な宣伝行為を行い高金利の貸付を行っていた実態に鑑み,九州弁護士連合会内の新聞社に対し,日賦貸金業者の広告の掲載を自粛するよう要望書を提出した前例がある。

  クレジット現金化広告についても,前記要望書同様,広告の掲載を中止を要望するものである。

 7 クレジット現金化広告掲載中止の要望

  以上の通りクレジット現金化広告を新聞紙上で掲載することは,過怠破産罪ないし免責不許可事由に該当する行為の誘引と見られかねない行為であり,沖縄県県内で頻発している多重債務問題の一つである,免責が得られず,他の債務整理の方法も採れないまま,経済的再生が図れない多重債務被害の発生を防止するためにも,新聞紙上の広告欄にクレジット現金化広告を掲載しないよう,強く要望する。

以上

 

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