児童相談所ケースワーカー増員を求める決議
昨年沖縄県内で発生した中学生らによる集団暴行致死・死体遺棄事件等を契機として、少年に対する管理ということのみがことさらに強調され、少年警察活動をさらに強化する方向での施策が展開されている。
しかしながら、頻発する重大少年事件の対策として取締強化を言うだけでは、非行発生の原因の解決にはならない。少年非行は、成長の過程で子どもの人格が十分に尊重されてこなかったことに起因するものが殆どである。日本弁護士連合会が2001(平成13)年に実施した罪をおかした少年に対する聴き取りの結果でも、殺人など重大事件を起こした少年ほど、幼少時から深刻な虐待を受けるなど心に深い傷を負っているという傾向が表われており、また、法務省総合研究所が同年3月にまとめた少年院在院中の少年に対する調査結果においても、約50%の少年が虐待を受けた経験があるとの結果となっている。被虐待児童等の健全に成長をすることのできる環境を欠いた少年に対して、取り締まりを強めるだけでは、非行の原因を解消したことにはならず、重大な少年非行を防止するための抜本的施策としては、生育環境に問題のある子どもに対する早期の福祉的援助こそが求められているものと言うべきである
そして、児童福祉の中心となるべき機関が児童相談所であるが、沖縄県の児童相談所は、福祉的援助を要する子どもらの急増という事態に対する対応能力を欠いているというのが実情である。沖縄県内の児童相談所における児童虐待〔身体的虐待、性的虐待、保護の怠慢ないし拒否(ネグレクト)、心理的虐待〕のケース件数が、1993(平成5)年度には11件であったものが2002(平成14)年度には367件と10年間で30倍以上もの急増を示しているなど、児童相談所の扱う業務は増加の一途を辿っているが、これに伴うだけの人的、物的対応体制の拡充はなされていない。2003(平成15)年10月に当会刑事弁護センターが沖縄県コザ児童相談所を訪問調査した際の同児童相談所の説明では、ケースワーカー一人あたり常時90件以上のケースを抱え、施設は恒常的に入所児童で定員一杯であるとのことであった。この過剰負担のもとでは、いかに一人ひとりのケースワーカーが献身的に努力をしていても、もはや対応能力の限界を超えているといわざるを得ない。
わが国において1994(平成6)年5月に効力が発生した子どもの権利条約は、第6条で「1 締約国は、すべての児童が生命に対する固有の権利を有することを認める。2 締約国は、児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する。」とさだめ、また19条1項において「締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い又は搾取〔性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。」とさだめ、1998(平成10)年6月に国連子どもの権利委員会は日本政府に対し、虐待からの子どもの保護などを勧告しており、被虐待児等に適切な福祉的措置を講ずることは、子どもの権利条約の実施義務をおう行政の重要な責務というべきである。
当会は、子どもの権利条約の趣旨を児童福祉行政の現場に生かし、一人ひとりの子どもの尊厳を確保することこそが、根本的な少年非行対策にも通じるものであるとの立場から、沖縄県に対し、直ちに県内の児童相談所の実態を検証し、速やかにケースワーカーの抜本的増員をすることを、強く求めるものである。
以上のとおり決議する。
2004(平成16)年5月25日
沖縄弁護士会定期総会