決議・声明

 2003年12月16日

「日米地位協定改正案」の要旨と特徴

沖縄弁護士会 会長 新 垣  勉

 

本日,当会が公表した「日米地位協定改正案」の要旨と特徴は,次のとおりである。

第1 基本姿勢

本改正案は,日米安保条約の存在を前提として,現行日米地位協定の構造的欠陥,不合理性,不平等性を抜本的に見直すものである。

本案は,①国際社会における法思想,人権法理を反映させ,②法の支配を貫徹させること,③国民主権と民主主義を徹底し,④アメリカ合衆国と日本国との対等平等性を図ることを基本姿勢として,あるべき「日米地位協定像」を具体的に「改正案」の形で提示し,国民的議論を巻き起こす意図で公表するものである。

第2 法の支配の実現

 1 米軍への日本国法令の適用明記

    * 2条1項で,原則として米軍に対しても日本国法令が“適用”されることを明記する(これまで日本国法令は,米軍には適用されないとされてきた)。個別条項でも日本国の法令の遵守,適用を明記(例,6条1項,7条1項,2項,11条9項,18条10項b)。 

    * 第2条2項で,軍隊構成員及び軍属の日本国法令の“遵守義務”を明記する。(これまでは,「遵守義務」ではなく「尊重義務」とされていた。)

 2 民事裁判権等の明記―――裁判を受ける権利の保障

    * 合衆国に対する民事事件については,日本に裁判権があることを明記する(19条5項,6項)。

    * ただし,合衆国,合衆国軍隊の構成員・被用者の公務執行から生じる事項に関する判決については,強制執行に服さない(19条5項g)。

    * 合衆国,合衆国軍隊の構成員・被用者の公務執行から生じる損害賠償請求権については,日本国が合衆国に代わって支払う。

    * 合衆国,合衆国軍隊の構成員・被用者の公務執行から生じる損害賠償請求以外の請求権については,判決に基づき,日本政府が合衆国と交渉して実現する(19条5項f)

 3 米軍の合衆国法令遵守

    * 米軍の行動が合衆国法令に基づいて警察権を行使することを明記(18条10項a)。

    * 環境保護における合衆国基準の適用(7条1項b)。

第3 法思想,人権法理の反映

 1 環境・文化財・資源・安全等の保護

    * 軍隊の訓練,演習等の活動の際の保護義務(被害防止措置,環境等影響評価調査義務,復元・改善計画策定実施義務)の明記(7条1項)。

    * 両国のより厳しい基準による規制(7条1項b)。

    * 新たな施設の建設,現状の変更行為を行う際の,環境等影響調査義務,及び同報告により新たの施設の建設,現状の変更が不適切なときの計画の中止・変更義務(7条3項)

 2 原状回復義務

    * 返還の際の共同調査義務(5条4項)。

    * 汚染,破壊,有害物質の除去,浄化,撤去の計画・実施責任の明確化(5条4項)。

 3 労働者の権利

    * 基地労働者の解雇以外の処分についての裁判所・労働委員会の判断の遵守義務(14条7項)。(解雇については,米軍に最終的拒否権を認める現行規定を存置。ただし日本政府に上記交渉実現義務を課す)。

    * 解雇については,裁判所の判断を遵守しない場合の制裁規定を置く(14条6項d)。

 4 損害補償

    * 軍隊構成員及び軍属の公務外不法行為,それらの家族による損害についての日本政府による肩代わり完全補償(19条6項)。

   * 判決によらない示談交渉による解決も可能(19条6項)。(現在,SACOによる運用では,判決を得なければ補償金支払いは不可。)

5 養育費

   * 養育費の取立て相互支援(21条)。

6 刑事における人権

    * 公務中犯罪についての合衆国の第1次裁判権の制限(18条3項a,ⅱ)。

    * 公務中判断の厳格化(18条3項c)。

    * 日本国による被疑者の拘禁(18条5項c,d)

    * 軍事法廷の被害者等への公開(18条6項c)。

    * 弁護人立会権の保障(18条9項b)。

    * 取調べ全過程のビデオ録画化(18条9項c)。

第4 国民主権・民主主義の徹底

 1 基地提供のあり方についての見直し

    * 無期限提供方式から10年期限付き提供方式への転換(3条1項,2項)。

    * 合衆国の使用協定遵守状況報告義務(3条4項)。

    * 日本政府の行う使用協定遵守状況調査への合衆国政府の協力義務(3条4項)。

 2 基地返還のあり方についての見直し

    * 返還の必要性を検討するために日本政府が行う調査への合衆国政府の協力義務(3条7項)。

    * 土地所有者への返還の際の日本政府の原状回復義務(5条1項)

    * 環境汚染,環境破壊,有害物質等の除去,浄化,撤去義務(5条4項)。

 3 基地管理権・警護権についての見直し

    * 絶対的基地管理権の制限(4条1項)。

    * 施設・区域に隣接する場所での合衆国の措置権の排除(4条1項)。

4 基地立入の保障

    * 日本国法令に基づく,事前通知による基地立ち入りについての同意(4条4項)。

    * 緊急時の即座の立入権の明記(4条5項)。

5 合衆国軍隊構成員の登録・基地外出の禁止

    * 地位協定に基づき入国合した者の氏名,住所等の日本政府への通告(11条5項)。

    * 変更時の通告(11条6項)。

    * 不法行為者・安全を脅かすも者の基地からの外出禁止(11条8項)。

6 交通法規講習受講等

    * 交通法規の講習受講(12条1項)。

    * 受講証明書所持義務(12条1項)。

7 航空管制権の保持

   * 合衆国の権限は,飛行場管制のみに限定(8条2項)。

8 ぺナルティシステム

   * 合衆国に,不法行為,犯罪につき責任を有するものに対する懲戒処分等の終えナルティを課し,日本政府に通告する義務(20条)。

9 米軍基地内への郵便送達

    * 米軍基地内に郵便物を送付しうるように措置(25条)。

10 支援措置

  * 米軍基地が存することに伴う特有の紛争を防止・解決するための相談窓口,支援措置(22条)

11 事故共同調査

   * 事故の合同調査

12 災害時の相互応援

   * 災害時の日米相互応援(30条)。

13 地方自治体の意見の反映

  * 使用協定締結時の関係自治体の意見聴取し,これを尊重する義務(3条3項)。

    * 地方自治体に重大な影響を与える案件に関する合同委員会協議の際の地方自治体の意見聴取義務(30条2項)。

    * 合同委員会に地方自治体が参加する地域特別委員会を設置(31条)。

14 情報の公開

    * 合同委員会の合意事項の公開(31条1項b)。

15 敵対行為発生時の条項停止権

  * 安保条約5条適用時の条項停止権の廃止(18条からの削除)。

第5 対等・平等の保持

1 通路権

  * 日本国の法令に基づく通路権(6条1項)。

2  公共役務の利用権

    * 関係機関の事前了解に基づく利用権(優先利用権の否定,9条)。

3 公務中判断の適正化

    * 公務中認定についての十分な資料の添付(18条3項)。

4 損害賠償金の公平な負担

    * 公務中損害の合衆国全額負担ないしは折半(19条5項e)。

    * 公務外損害については,全額合衆国負担ないしは折半(19条6項b)。

5 環境汚染,破壊,湯外物質等の除去,浄化,撤去の公平負担

  *  原因者負担の原則の適用(5条4項b,7条1項c)

 

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