
最高裁判所判決を受けた厚生労働省の対応策の撤回とすべての生活保護利用者への全面的な補償措置等を強く求める会長声明
1 最高裁判所判決及び福岡高等裁判所那覇支部判決
最高裁判所第三小法廷は、2025年6月27日、2013年8月から3年かけて実施された生活扶助基準の引下げ(以下
「本件引下げ」という。)に係る生活保護費減額処分の取消し等を求めた訴訟の上告審において、本件引下げの違法性を認め、
生活保護費減額処分を取り消す判決(以下「最高裁判決」という。)を言い渡した。
本件引下げに係る生活保護費減額処分の取消し等を求めた訴訟と同種の訴訟が全国において提起されているところ、沖縄県
における訴訟について、福岡高等裁判所那覇支部は、2026年2月26日、最高裁判決と同旨の判決を下した。
2 厚生労働省の対応策
最高裁判決を受けた対応策については、厚生労働省が社会保障審議会生活保護基準部会の下に設置された最高裁判決への対
応に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)において審議・検討がなされ、専門委員会は、2025年11月18日に
報告書をとりまとめて公表した。
これを受け、厚生労働省は、同月21日、「最高裁判決への対応に関する専門委員会報告書等を踏まえた対応の方向性」(以
下「本件対応策」という。)を公表した。
本件対応策の概要は、最高裁判決が下された訴訟を含む同種訴訟の原告ら(以下「原告ら」という。)を含むすべての生活
保護利用世帯に対し、①最高裁判決で違法とされなかった「ゆがみ調整(及び2分の1処理)」を再実施し、②最高裁判決で違
法とされた「デフレ調整(-4.78%)に代え、下位10%の低所得世帯の消費実態との比較による新たな減額調整(-2.4
9%)を行ったうえで、③原告らについてのみ「特別給付」として②による減額相当分を追加給付するというものであった。
3 厚生労働省の対応策の問題点
しかし、原告らについては、本件引下げ前基準との差額の給付請求権が法律上生じている。にもかかわらず、本件対応策
は、本来給付を受けるべき金額を減額し、事後的に不利益変更を行うものであり、遡及立法の禁止に違反している。
また、上記②の新たな減額調整の根拠となっている下位10%の低所得世帯の消費実態との比較は、最高裁判決が下された
訴訟を含む同種訴訟の終盤において、被告側がデフレ調整を正当化する根拠として主張したものの最高裁判決及び同種訴訟の
確定判決がこれを採用しなかったものである。にもかかわらず、これを上記②のように再減額の根拠とすることは、最高裁判
決及び同種訴訟の確定判決で示された司法権の判断を蔑ろにするものである。この点、専門委員会においても、法学系の委員
らが、一致して、「前訴で主張し又は主張し得た理由に基づく再減額改定は紛争の一回的解決の要請等に反し許されない」旨
指摘している。
また、違法とされた本件引下げによる不利益は、すべての生活保護利用者が等しく被っているのであるから、原告らであっ
たか否かによって補償内容に差異を設けるという上記③のような取扱いをすることは、法の下の平等(憲法14条)や無差別平
等原理(生活保護法2条)に反する。
以上のとおり、最高裁判決で敗訴判決を受けた厚生労働省が策定した本件対応策には、最高裁判決の趣旨に反する種々の問
題がある。
そして、何より、最高裁判決によって統一判断が示され、同種訴訟で同旨の判決が次々と出されたことにより司法権の判断
が明確に示されているにもかかわらず、本件対応策で示された行政判断がそのまま実行されることは、最高裁判決及び同種訴
訟での確定判決において示された司法権の判断を軽視するものであり、日本の法治主義及び三権分立を瓦解させる深刻な事態
を招きかねないものであり、到底容認できない。
4 結論
当会は、これまでも本件引下げの撤回等を求める声明を発出し、かつ、最高裁判決を高く評価し本件引下げの前の基準によ
る差額保護費の支給等を求める声明を発出してきた。
当会は、国及び厚生労働大臣に対し、司法権の判断を軽視し法の下の平等にも反する厚生労働省の本件対応策を撤回し、提
訴した者以外の利用者及び元利用者に対しても本引下げ前の基準によって受けるべきであった生活扶助費と実際の支給額との
差額を支給するなど全面的な補償措置を直ちに実施することを強く求めるとともに、違法な生活保護基準の引下げが再び行わ
れることのないよう、本件引下げがなされた経緯の検証及び今後の生活保護基準改定の適正化を強く求める。
2026年(令和8年)3月25日
沖縄弁護士会
会長 古 堅 豊








