
米軍警察の基地外における民間人の拘束に抗議する会長声明
1 事案の概要
2025(令和7)年11月23日、米軍警察が、嘉手納基地のゲート付近を単独でパトロールしている際に、身分証提示
の要求に応じなかった民間人の外国人男性に対し、有形力を行使した上、身体拘束するという事件(以下「本件」という。)
が起きた。
身体拘束された男性の関係者が、拘束された際の様子としてSNSに投稿した動画では、米軍警察が男性を抱え上げて地面
に叩きつけ、その後全身で押さえつけて手錠をかける様子が映っている。また、拘束された男性が、身分証を提示しなければ
日本人も拘束できるのかと問うたのに対し、米軍警察が、拘束は可能だと答える場面も映っている。
2 本件の米軍警察による民間人の身体拘束の違法性について
しかし、日米地位協定、その合意議事録及び日米合同委員会合意(以下、併せて「日米地位協定等」という。)において
は、米軍警察が基地外で警察権を行使できるのは、以下の①、②の場合に限られており、本件はそのいずれの場合にも該当
しない。本件における米軍警察による民間人への有形力の行使及びそれに続く身体拘束は、法的根拠を欠くものである。
①米軍の秩序維持のための警察権行使の場合
本来、米軍の警察権は、基地内に限って認められるのが原則である(日米地位協定17条10項(a))。その上で、例外
的に基地外で米軍が警察権を行使できる場合は、「必ず日本国の当局との取極に従うことを条件とし、かつ、日本国の当局
と連絡して使用されるものとし、その使用は、合衆国軍隊の構成員の間の規律及び秩序の維持のため必要な範囲内に限る」
こととされている(同項(b))。これを前提にして、日米合同委員会合意「刑事裁判管轄権に関する合意事項」(1953
年10月、後に逐次改定)の5項(a)は、米軍人や米軍軍属及びその家族(以下「米軍人等」という。)の間における秩
序及び規律を維持するために必要な範囲内で、基地外での米軍の警察権行使を認め、同項(b)は、日米双方の警察が違法
行為の現場に居合わせる場合、米軍人等の身体拘束は米軍警察が行うことを原則としている。
②基地の安全及び米軍の重要な財産等の保護のための警察権行使の場合
「地位協定17条10項(a)及び(b)に関する合意議事録」の1項3段は、米軍警察は基地外においても、基地の近
傍に限って基地の安全に対する罪の現行犯を「法の正当な手続きに従って」身体拘束できるとしており、これを受けて、上
記の日米合同委員会合意「刑事裁判管轄権に関する合意事項」の7項(a)は、米軍は、基地の安全に対する犯罪について
は基地外で令状なくして身体拘束できることを規定し、同項(b)は、特に米軍の重要な軍用財産や機密資材の安全に対す
る犯罪の場合に、日本の警察の措置を求めるいとまがないときに米軍は令状なくして身体拘束や制止行為ができるものとし
ている。
本件における米軍警察による民間人の身体拘束は、上記①、②のいずれにも該当せず、法的根拠を欠いた身体拘束であっ
て、違法な人権侵害にあたる。米軍も、誤った逮捕であったと後に認めている。
3 結語
今回の米軍警察による民間人の身体拘束は、現行の日米地位協定等さえ遵守されない現状を露呈したと同時に、かねてより
指摘されてきた、日米地位協定等における米軍の権限の範囲が広範にすぎ、かつ不明確であることの問題点を改めて浮き彫り
にしたといえる。
当会は、違法な人権侵害である米軍警察による民間人の身体拘束に抗議すると共に、米軍の警察権行使が今回のように民間
人に及ぶことのないよう、日米地位協定の改定や日米合同委員会合意の変更を通じて、米軍の基地外での警察権行使の範囲を
より厳格に、かつ明確にすることを求めるものである。
2025(令和7)年12月26日
沖縄弁護士会
会長 古 堅 豊








