
未来を創る子どもたちへ ― あなたの声を大切にする社会を実現するための宣言
1 子どもの権利条約
「子どもの権利条約」を知っていますか?
「子どもの権利条約」は、世界中の子どもたちが幸せに生きるために国同士でした大切な約束です。子ども
は、大人が守ってあげるだけの存在ではなく、自分の考えや気持ちを持つ一人の人間であり、日本に住んでい
る子どもたちも、この条約で確認された権利を持っています。子どもの権利は、生まれたときから誰もが持
っている、大切に守られるべきものです。何かをしなければ手に入れられないということではありません。
「子どもの権利条約」は、子どもにもこうした権利がきちんとあるということを世界中で確認し、絶対に守っ
ていこうと決めた約束です。
この条約には、子どもが幸せに生きるための大切な4つの約束が書かれています。
① 差別されないこと(差別の禁止)
② 子どもにとって最も良いことを考えること(子どもの最善の利益)
③ 命を守られ成長できること(生命、生存及び発達に対する権利)
④ 子どもが自由に意見を表し、その意見が大切にされること(子どもの意見の尊重)
2 子どもの意見の尊重(声を聴かせてください)
みなさんは、言いたいことを聴いてもらえていますか?
みなさん一人一人には、自分に関係することについて、自由に意見を言うことができる「意見表明権」
という権利があります。例えば、学校のルールや家庭のことなど、あなたに関係のあることを決めるときに
は、あなたは、自分の気持ちや考えを自由に言うことができるのです。「言ってはいけない」「我慢しなきゃ」
と思わなくていいのです。
もし、学校や家でつらいこと、困っていることがあったら、どうか一人でかかえこまないで、まわりの大人
に相談してください。家族でも、先生でも、スクールカウンセラーでもいい。私たち弁護士でもいいです。
あなたの話をきちんと聴く人が、必ずいます。
大人は、あなたの意見を、あなたの年齢や成長に合わせて、きちんと考えなければなりません。あなたが
自由に意見を言えること、そして、その意見が尊重されることを私たちは大切にします。
3 子どもと大人は対等なパートナーです
あなたの声には、力があります。「こうしたい」「これはおかしい」「こんな社会になったらいいな」そんな
気持ちを言葉にすることは、とても大切なことです。あなたの声は、まわりの人を動かすことができます。
一人の声でも、それが集まれば社会を変える力になります。社会は、大人だけが作るものではありません。あ
なたの意見や気持ちは、この世界に一つしかない大切なものです。
大人は、子どもの権利を守り、子どもが安心して成長できるように支えていく責任を負っています。子ども
は、大人と一緒に社会を作っていく仲間であり、対等なパートナーなのです。
4 私たち弁護士の取組み
私たち弁護士は、みなさんの声を聴、それを大切にして、子どもの権利を守っていきたいと思います。みな
さんからの相談に乗ることに取り組んでいきますし、苦しんでいる子どもたちを救い、同じ苦しみを繰り返さ
せないための活動をしていきます。また、みなさんの声を聴いて大切にすることを当たり前にする文化や仕組
みを作っていきたいと思います。
私たちは、みなさんと共に社会を作っていきたいです。みなさんの声が大切にされ、権利が守られる社会を
一緒に作っていきましょう。
2025(令和7)年12月23日
沖縄弁護士会
提 案 理 由
第1 はじめに
1994(平成6)年、日本は、児童の権利に関する条約(以下「子どもの権利条約」という。)を批准した。同条約批准に
より、日本は、子どもの権利を保障することを約束した。
それから31年。今の社会においても、児童虐待、ヤングケアラー、いじめ、不合理な校則、体罰、不登校、子どもの自死な
ど、子どもの権利が深刻に制約され、侵害されている状況が各所に存在している。また、子どもの意見表明権は社会に根付いて
おらず、自分に関係することについて意見や気持ちを聞いてもらえているという実感を得ている子どもたちが少ないのが現状で
ある。
子どもたちが自分らしく幸せに生きるために、子どもの権利が、あまねく保障される社会を作らなければならない。この点、
当会は、2024(令和6)年12月26日、「子どもの権利条約に基づく子どもの権利保障の推進を求める会長声明」を発出
した。同声明において、子どもの権利が十分に保障される社会を作るために、国、沖縄県、沖縄県内の各市町村に対し、より一
層子どもの権利条約に基づく子どもの権利保障を推進していくことを求めると共に、当会も子どもの権利の普及啓発や子どもの
権利相談、家事事件における子どもの手続代理人、少年事件における付添人などの活動を通じて、子どもの権利が保障される社
会の実現に向けて尽力することを誓った。
もっとも、上記会長声明は、名宛人を国、沖縄県、県内各市町村などとするものであり、子どもたちに宛てたものではなかっ
た。子どもの権利を保障する社会を作るためには、子どもたち自身に子どもの権利のことを知ってもらうことが必須であること
から、本宣言は、当会が子どもたち対して直接向けられた言葉で語りかけるものとした。
第2 子どもの権利条約
昨年(2024年)は、「児童の権利に関するジュネーブ宣言」から100年、「子どもの権利条約」国連採択から35年、そ
して日本による同条約批准から30年という、子どもの権利保障の歩みを振り返る節目の年であった。
「子どもの権利条約」は、子どもを権利の主体として明確に位置づけ、従来の「保護の客体」としての子ども観を根本的に転
換したものである。その中で、子どもの権利を考える上で指針となる4つの一般原則、①差別の禁止、②子どもの最善の利益、
③生命、生存及び発達に対する権利、④子どもの意見の尊重(意見表明権)を定め、すべての子どもが自由かつ独立の人格を持
った権利の主体として尊重されることを目指している。
この理念を具体化するため、日本では2023(令和5)年に「こども基本法」が施行され、「こども家庭庁」が設置され
た。同年12月には、政府全体の子ども施策の基本的方向を定める「こども大綱」が閣議決定された。これらの法制度は、よう
やく子どもの権利保障を社会全体で実現するための枠組みを整えるものとして、大きな意義を有する。
沖縄県においては、2025(令和7)年3月、こども基本法第10条に基づく都道府県子ども計画として、「沖縄県こども・
若者計画(未来のおきなわっこプラン)」が策定され、すべての子どもたちが、権利の主体として尊重され、自由に意見を表明
し、社会に参加する機会が確保される「こどもまんなか社会」の実現を目指していくための取組みが確認された。
第3 子どもの権利が制約・侵害されている現状
前述のとおり、子どもの権利条約及び子ども基本法を踏まえて、沖縄県でも子どもの権利保障のための様々な取り組みを始め
ている。しかしながら、現実の沖縄社会においては、なお子どもの権利が十分に保障されているとは言い難く、児童虐待、いじ
め、不登校、子どもの自殺など、むしろ深刻な制約や侵害の状況が各所に存在している状況である。
1 児童虐待
沖縄県における2023(令和5)年度の児童相談所の児童虐待相談対応件数は過去最多の3100件だった。その10
年前の2013年が348件だったことに鑑みると、虐待対応件数の増加が著しいことがわかる。
2 いじめ
沖縄県における2024(令和6)年のいじめ認知件数は1万2395件、小中学校の不登 校児童生徒数は7432人
である。これら件数については、表面化されていなかったいじめが表面化したことや不登校に対する問題意識が変容したこ
との影響があると考えられ、件数をもって一概に子どもの権利侵害の状況が深刻化したとはいえないが、本来、子どもの成
長と学びを支える場である学校が、子どもに過度な負担を強いたり、不適応を生み出している可能性があることを示してい
る。
3 体罰、不適切指導、不合理な校則
学校における体罰や不適切な指導、不合理な校則といった権利侵害も後を絶たない。沖縄県における2023(令和5)
年度の体罰の発生件数は10件、不適切な指導等の発生件数は5件である。また、沖縄県の実施した「令和6年度県立学校
部活動実態調査」では、回答した部員9802人のうち181人(1.8%)が暴力・暴言・ハラスメントを受けたとして
いる。このとおり、未だ学校における体罰、不適切指導は十分に改善されているとはいえない。
4 こどもの貧困率、ヤングケアラーの存在
沖縄県の2024年(令和6)度の子どもの貧困率は21.8%と依然として高い数値であり、生きる権利や安心できる
環境で過ごす権利、教育を受ける権利を奪われている子どもたちが少なくない。
また、家族の介護や家事等を過度に担わざるを得ないヤングケアラーの存在も、子どもが自らの成長や学習の機会を犠牲
にしている現状を浮き彫りにしている。
5 自死
さらに深刻なことは、子どもが生きることすら困難と感じ、自ら命を絶つ事例が後を絶たないことである。県によると、
県内の自死者数は2012(平成24)年以降、減少しているが、20歳未満に限れば増加傾向にあり、2023(令和
5)年は最多の10人であった。これらの数字は、子どもの「生命・生存・発達の権利」が、制度面でも、社会構造面で
も、十分に守られていないことを如実に示している。
第4 子どもの権利保障を実現するための方策
1 子どもの権利の普及啓発
子どもの権利を十分に保障するためには、その義務を負う大人が子どもの権利を学び、理解しなければならない。子ども
に関わる職業にある者はもちろんのこと、広く大人たち、そして権利を享受する子どもたち自身も、子どもの権利に関する
理解を深めなければならない。
「沖縄県子どもの権利を尊重し虐待から守る社会づくり条例」(以下「沖縄県条例」という。)においても、子どもの権利
の重要性に関する理解を深めることが沖縄県民の責務とされると共に(沖縄県条例第6条)、沖縄県は、基本理念に関する
県民の理解を深めるため、必要な広報その他の啓発活動を行うこととされている(沖縄県条例第10条)。また、「沖縄県こ
ども・若者計画(未来のおきなわっこプラン)」においても、「すべてのこども・若者に対し、県ホームページや県政出前講
座等を通して、こども基本法や本計画の理念や内容について、理解を深めるための情報提供や啓発を行うとともに、こども
の権利条約の認知度を把握しつつ、その趣旨や内容についての普及啓発に民間団体等とも連携して取り組むことにより、こ
ども・若者が権利の主体であることを広く周知します。こども・若者が権利の主体であることについて、こども・若者や子
育て当事者、教育・保育に携わる者を始めとするすべてのおとなに対して、情報提供や研修等を通して幅広く周知するとと
もに、県全体で共有を図ります。」とされている。
2 子どもの意見表明権の保障
子どもには、自らに関係するあらゆる事項について意見を表明し、その意見を年齢や成熟度に応じて正当に考慮される権
利がある(子どもの権利条約第12条)。
また、子どもの最善の利益を評価する際には、子どもの意見が自由に表明され、それが適切に尊重される環境が保障され
なければならない(同第3条)。
しかしながら、日本では子どもの意見表明権に関する法的理解や制度的整備が未だ十分とはいえない。社会的養護下の児
童以外への制度適用は限定的であり、家庭裁判所での子どもの手続代理人制度の運用も限られている。教育現場において
も、意見を聴く仕組みや子ども参加の制度化は進んでいない。この点に関連して、文部科学省は、1994(平成6)年5
月20日、学校での子どもの意見表明権は理念を一般的に定めたものであり、必ず反映されるということまでをも求めてい
るものではないとする通知(文初高第149号文部事務次官通知)を発出し、それが維持されているが、このような通知
は、子どもの権利条約及びこども基本法の趣旨に反するので、撤回されるべきである。また、教育関連法規もまた、子ども
の意見表明権を前提とする方向へ改正される必要がある。
内閣府の「我が国と諸外国の子どもと若者の意識に関する調査 (令和5年度)」によると、「あなたは、子どもには「自
分に関係することについて、意見や気持ちを聞いてもらえる権利」(意見表明権)があることを知っていますか。(回答は1
つ)」という質問に対し、日本の子ども若者の回答は、「聞いたことがない」が50.3%、「名前だけ聞いたことがある」
が28.1%で約8割を占め、「どんな内容か少し知っている」は13.6%、「どんな内容かよく知っている」は8.0%
にすぎず、日本の子ども若者の意見表明権の認知度は、諸外国(アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデン)と比べて著
しく低い。また、「あなたは、社会において、子どもが、自分に関係することについて、意見や気持ちを聞いてもらえると
感じていますか。(回答は1つ)」という質問に対し、日本の子ども若者の回答は、「感じている」が8.7%、「やや感じて
いる」が33.5%、「やや感じていない」が37.6%、「感じていない」が20.1%であり、諸外国と比べて、聞いて
もらえていると感じている子ども若者の割合は低い。このように、日本においては、子どもの意見を聴くことの認識や意識
が十分でなく、そのような文化が根付いているとは言いがたい。
子どもが権利の主体である以上、子どもの意見を聴き、それを尊重することは当然の要請である。意見表明権の保障と
は、単に意見を述べる機会を形式的に与えることではなく、子どもが安心して自らの考えを表現できる環境を整えることを
意味する。そのためには、発達段階に応じた説明・対話の工夫、意見形成への支援、子どもに意見を述べることを強要しな
いこと、そして意見を軽視しない姿勢が求められる。
そして、この意見表明権を実質的に保障するためには、子どもが安心して意見を述べられる文化と制度を社会全体に根づ
かせることが不可欠である。
第5 結語
私たち弁護士は、日々の法律相談、少年事件の付添人活動、児童相談所や学校との協働等を通じて、権利を侵害され、苛酷な
状況に置かれている子どもたちに幾度となく出会っている。非行や問題行動を起こす子どもたちの多くは、虐待、貧困、差別、
孤立といった深刻な背景を背負い、社会の歪みを最も鋭敏に映し出す存在である。それにもかかわらず、彼らの行動のみが批判
の対象となり、支援や理解の視点はしばしば欠落している。これは、子どもたちの権利を十分に守りきれていない大人と社会の
責任にほかならない。
当会は、権利を侵害された子どもたちを救済し、同じ苦しみを二度と繰り返させないために、子どもをひとりの人間として尊
重し、その声に耳を傾け、権利が確実に保障される社会の実現を目指す。私たちは、子どもの権利を守るためのあらゆる施策の
推進を強く求めるとともに、弁護士としてこの理想の実現に向けて不断の努力を続けることをここに宣言する。
以 上








