今秋の臨時国会での再審法改正の実現を求める会長声明
1 本年6月18日、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)が提出され、その後、衆議院
法務委員会に付託されて、閉会中審査となっている。
本法案は、「再審制度によって冤罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする」という観点か
ら、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求
審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定を定めるものである(以下、上記①乃至④を「4項目」
という。)。この内容は、2023年(令和5年)12月に当会臨時総会において採択した「再審法の改正を求める決議」にお
いて求めている改正内容と同様のものであって、高く評価できる。
「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(再審法改正議連)は、昨年3月に発足して以来、全国会議
員の半数を超える議員の参加を得て、えん罪被害者、最高裁、法務省、日本弁護士連合会等からのヒアリングを実施し、それ
を踏まえて改正項目や条文案を検討するなど、精力的な活動を重ねてきた。本法案はそれが結実したものである。当会は、再
審法改正議連をはじめとする関係各位のこの間の尽力に深い敬意を表する。
2 一方、本年4月21日以降、法制審議会刑事法(再審関係)部会において、刑事再審手続に関する規律の在り方について審
議が行われており、本法案の定める前記4項目も審議対象となっている。
しかし、前記4項目の改正について、再審に関係する一方当事者たる検察官と密接な関係を有する法務省が事務局を務める
法制審議会が主導的な役割を担うことについて、強い懸念を表明せざるを得ない。この強い懸念は、本年7月18日の福井女
子中学生殺人事件の再審無罪判決において、裁判所が、確定審検察官において主要関係者の供述の信用性判断にとって重要な
前提事実につき誤りがあることを把握したにもかかわらずこれを秘し、論告や控訴趣意書にて誤った前提事実に基づいた主張
を続けたと認定し、このような検察官による訴訟活動は公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正の所為
といわざるを得ないとまで断じていることなどにも照らすと、決して杞憂ではない。
実際、この間の法制審部会での審議では、いわゆる袴田事件や福井女子中学生殺人事件などの著名えん罪事件を通じて明ら
かになった再審法の不備を指摘して法改正を求める意見がある一方で、再審手続における証拠開示の範囲を新証拠及びそれに
基づく主張に関連する限度にとどめようとする意見や、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止することに強い消極
的な意見も見受けられるところである。そしてこれを受け、事務局を務める法務省が原案を取りまとめる形で、前記4項目の
改正に関する是非を含む全14項目に及ぶ論点が提示されている。法制審議会での早期の取りまとめを目指すとしても、その
法案化までには相当な期間を要することは明らかであり、現時点において改正が速やかに進む目処は立っていない。
再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならない。前記4項目は、数多くある論点の
中でも、えん罪被害者の速やかな救済を実現する上で極めて重要であり、再審法改正の根幹をなすものであるから、これらの
点については、法制審議会の議論を待つことなく、早急に法改正がなされるべきである。
3 よって、当会は、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、今秋の臨時国会において本法案を速やかに可決・成立させる
ことを求めるものである。
2025年(令和7年)10月9日
沖縄弁護士会
会長 古 堅 豊