地方消費者行政の維持・強化を求める会長声明
1 令和6年版消費者白書によれば、2023(令和5)年の消費生活相談件数は前年及び前々年よりも増加して約90.9万件に上り、被害額・トラブル額の推計は、過去最高の約8.8 兆円に達している。沖縄県消費生活センターの消費生活相談件数を見ても、総相談件数は2017(平成29)年度以降5000件前後で毎年推移しており、沖縄県内においても消費者被害の高止まり傾向が続いている。
このように消費者被害が後を絶たない中、都道府県及び市町村に設置されている消費生活センターの役割はますます重要なものとなっており、消費生活センターの業務を担う消費生活相談員も、地方における消費者被害の回復や防止に関して欠かすことのできない重要な役割を果たしている。
ところが、その消費生活センターの活動をはじめとする地方消費者行政が、現在後退の岐路に立たされている。
2 国は、地方消費者行政、特に消費生活センター等で行われている消費生活相談の充実強化に向けて、地方消費者行政活性化交付金等の財政支援策を続けてきたが、現行の消費生活相談員の人件費に充てることのできる地方消費者行政強化交付金(以下「強化交付金 」という。)は、活用期限が定められていることにより全国的にその終期が迫っており、2024(令和6)年度から2025(令和7)年度の間に多くの地方公共団体で終了し、2027(令和9)年度には全て終了することになっている。
前述のとおり、消費生活センターの役割がますます重要なものとなり、今後より一層の相談体制の拡充が必要であるにもかかわらず、強化交付金という貴重な財源がなくなれば、体制の拡充どころか相談員の人材確保や消費生活相談体制の維持すら難しくなってしまう。
実際に、沖縄県内においても相談窓口が廃止・縮小された地方公共団体が確認されており、南風原町においてはこれまで週1回の頻度で開設していた相談窓口について、2024(令和6)年度から廃止される事態となっている。
3 沖縄県内で現に起きているように全国各地の消費生活センターにおいて相談体制を維持することが困難になるような事態となれば、その影響は、各地方公共団体に留まらず、わが国の消費者行政にも及ぶこととなる。
この点、各地方公共団体の消費生活センターに寄せられた相談情報は、全国の消費生活センターと連携する国民生活センターの全国消費生活情報ネットワーク(PIO-NET)に登録される。PIO-NETに集約された相談情報は、全国の消費生活センターで共有され、同種被害の防止や新たなトラブルの解決に資するとともに、国の立法政策の根拠や法執行の端緒として活用されている。
すなわち、全国各地の消費生活センターは、専門的な相談窓口であるとともに、PIO-NETの活用、消費者政策における企画・立案、法執行のためにも重要な役割を果たしているのである。地方支分局を持たない消費者庁が全国的に消費者政策を展開させるためには、各地方公共団体における消費者行政活動が必要不可欠であって、消費生活センターの活動をはじめとする地方消費者行政の維持・強化は、当該地方公共団体のみならず、ひいてはわが国の消費者行政の維持・強化にとっても必要不可欠である。
以上からすれば、消費生活相談体制をはじめとした地方消費者行政の維持・強化のために国が必要な予算措置を行うことは、当然のことである。
したがって、国は、少なくとも強化交付金の活用期限を延長するか、消費生活相談員の人件費にも充てることができる新たな交付金等の財政支援を早急に措置すべきである。
4 上記PIO-NETに関して、消費者庁は2026(令和8)年移行を目指して現行のPIO-NETシステムの刷新及び消費生活相談のDX化など新システムへの移行を計画している。
この点について、新システムの導入費用うち、一部費用については地方地方公共団体負担になるといわれており、新システムの利用に係る経常的経費(通信費や保守費など)は地方公共団体が負担するものとされている。かかる費用負担について地方公共団体からは不安が示されており、新システムへの移行に伴う財政負担の増加や財源の問題を契機に、地方消費者行政の相談窓口が減少してしまうおそれが指摘されている。
しかしながら、前述のとおり、PIO-NETの情報が国の立法政策の根拠や法執行の端緒となっていることからすれば、新システムへの移行にかかる費用は国の事務の性質を有する消費者行政費用であり、その費用は全額国の責任において負担し新システムへの移行を実施すべきである。
したがって、国はPIO-NETの新システムへの移行等に関する費用(新システムの利用に係る経常的経費を含む)全額を国において負担すべきである。
5 政府としても、第5期消費者基本計画の第3章第1項「地方消費者行政の推進」において、地方公共団体が実施する消費者行政が消費者政策の基盤であることや、その体制整備が引き続き最重要政策課題の一つであるということを明言しており、地方消費者行政予算の拡充の促進と国の支援を充実させていく方針を打ち出している。かかる方針は上記意見とも合致するものであり、同基本計画に基づいて早急に具体的な措置がなされるべきである。
6 以上の通り、消費生活センターの活動を含む地方消費者行政は消費者被害防止のために重要な役割を果たしているのであるから、国が地方消費者行政の維持・強化のために必要な予算措置を行うべきである。
よって、当会は、国に対し、
(1) 少なくとも強化交付金の活用期限を延長するか、または消費生活相談員の人件費にも充てることができる新たな交付金等の財政支援を早急に措置すること
(2) PIO-NETの新システムへの移行等に関する費用全額を国において負担すること
を求める。
以上
2025(令和7)年3月21日
沖縄弁護士会
会長 野 崎 聖 子