最低賃金額の引上げと地域間格差是正及び中小企業支援強化を求める会長声明
1 厚生労働大臣は、2024年(令和6年)6月25日、中央最低賃金審議会(以下「中央審議会」という。) に対し、2024年(令和6年)度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問 を行っており、近いうちに中央審議会から答申が行われる見込みである。
昨年、中央審議会は、各都道府県の引上げ額の目安について、全国加重平均41円の引上げ(全国加重平均1002円)という答申を行った。これを受け、沖縄地方最低賃金審議会(以下「沖縄地方審議会」という。)は、43円の引上げの答申を行い、沖縄県における最低賃金額は、2023年(令和5年)10月8日以降896円となった。
昨年沖縄地方審議会が引上率5%の引上げの答申を行ったことは、これまで当会が毎年求めてきた最低賃金額の引上げに沿うものであって評価できる。
しかしながら、時給896円では、1日8時間、週40時間、月173時間働いたとしても、月収15万5008円、年収約186万円にしかならない。この収入では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持し、将来のための貯蓄をしていくことは極めて困難であり、最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定」を図ることは困難である。
近年、食料品や光熱費など生活関連品の物価の上昇が続いており、沖縄県では、特に生活に欠かせない食料品において全国的にも高い傾向が続いている。このような物価上昇は特に低所得世帯の生活に深刻な影響を及ぼしており、労働者の生活を守るために、労働者の実質賃金の上昇を実現する必要がある。そのためにはまず最低賃金額を大きく引き上げることが何よりも重要である。
また、近年、沖縄県において積極的に取り組んできている子どもの貧困についても、これを抜本的に解決するためには子育て世代の所得向上が不可欠であり、そのためにも最低賃金額の引上げが直接的かつ効果的である。
以上からすれば、今年度もさらなる最低賃金額の引上げが必要である。
2 最低賃金額の地域間格差が依然として大きいことも見過ごすことのできない重大な問題である。2023年(令和5年)の最低賃金は、最も高い東京都で時給1113円であるのに対し、沖縄県では時給896円であり、その間には217円もの開きがある。年収にすると、沖縄県は上記のとおり約186万円なのに対し、東京都は約231万円であり、その差は45万円にもなる。最低賃金額の高低と人口の転出入には相関関係があるところ、最低賃金の低い地方の経済が停滞することにより、地域間の格差が固定、拡大するものであることから、地域経済の活性化のためにも、地方における最低賃金額の引上げによる格差是正が必要である。
また、地域別最低賃金額を決定する際の考慮要素とされる労働者の最低生計費は、近年の調査でも、地方と都市部との間で、地域間格差がほとんどないことが確認されている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされること等が背景にある。このように、労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金額の地域間格差は早急に是正されるべきである。
3 他方、最低賃金額の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては、最低賃金額を引き上げても円滑に事業を継続して雇用の維持が図れるよう十分な支援策を講じることが重要である。特に近年の人手不足を受け、中小企業においては業績が改善されていないにもかかわらず、人手を確保するために賃上げせざるを得ない状況が見られ、中小企業に対する支援は喫緊の課題である。
この点、国は、最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策として「業務改善助成金」制度による支援を実施しているところ、中小企業に対する対策のさらなる拡充が図られるべきである。
中小企業に対する対策としては、既存の支援策に加え、社会保険料の減免や減税、補助金支給等の即応性・実効性の高い支援策のほか、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるための取引適正化支援等、長期的継続的に中小企業支援策を強化すべきである。なお、沖縄地方審議会も、昨年最低賃金額の答申の際に、国等に対して実効性のある支援と施策の実施を早急に行うよう付帯決議しているところである。
4 上記のような状況を踏まえ、当会は、中央審議会に対し、最低賃金額の引上げと地域間格差の是正を、沖縄地方審議会に対し、最低賃金額を大幅に引き上げる旨の答申をすることを、 そして国に対し、中小企業支援策の強化を、それぞれ求めるものである。
2024年(令和6年)6月27日
沖縄弁護士会
会 長 野 崎 聖 子