決議・声明

緊急事態における国会議員の任期延長を可能とする憲法改正に反対する会長声明

 

 第1 声明の趣旨

   第211回国会の衆議院憲法審査会で議論された、緊急事態における国会議員の任期延長を可能とする憲法改正に反対す

  る。

 

第2 声明の理由

 1 国会の議論状況

   令和5年1月から6月に開催された第211回国会の衆議院憲法審査会では、大規模災害等の緊急事態時における国会機

  能の維持を目的として、国会議員の任期延長を可能とする憲法改正が議論されている。既に、自由民主党、公明党、日本維

  新の会、国民民主党及び有志の会など、審査会委員の多数から憲法改正を行うべきという意見が表明され、衆議院法制局に

  よる論点整理が行われるなど、憲法改正に向けた具体的な検討が加速している。

 2 緊急時であっても選挙の機会は十分に保障されるべきである

   国会議員の任期を任期途中で延期することは、国民の選挙権行使の機会を延期させるものであるから、たとえ緊急事態時

  における対応であったとしても、慎重かつ謙抑的でなければならない。

   このことは、国民の選挙権について、「憲法は、前文及び1条において、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当

  に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに、43条1項において、国会の両議院は全国民を代表

  する選挙された議員でこれを組織すると定め、15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固

  有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参

  加することができる権利を保障している。(中略)国民の選挙又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の

  選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない

  」と判示する最高裁大法廷平成17年9月14日判決(在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件)からも導かれる。

   したがって、国会議員の任期延長を可能とする憲法改正の要否を検討するにあたっては、他の方法により国会機能を維持

  することができないかという検討が先立つべきである。

 3 参議院の緊急集会により国会機能を維持できること

   そこで、現行憲法のもとで緊急事態時に国会機能が維持できるか否かを検討する。

   まず、国会は二院制で、参議院は3年毎に半数改選とされているから(憲法46条)、衆議院の解散や衆参両議員の任期

  満了等があっても、国会議員が不在になることはなく、定足数(1/3)が満たせなくなることもない。

   そして、憲法54条2項は、衆議院が解散中に、緊急の必要があるときは、内閣が参議院の緊急集会を求めることができ

  ると規定し、緊急時、暫定的に参議院のみで国会機能を維持する枠組みが定められている。この緊急集会は、衆議院解散時

  に限らず、衆議院議員の任期満了時にも開催できるという解釈が憲法学者の間では多数である。さらに同条3項は、この参

  議院の緊急集会で採られた措置は臨時のもので、次の国会開会の後10日以内に衆議院の同意がない場合にはその効力を失

  うと定め、緊急時の措置に対する衆議院の関与の機会を保障している。

   このように現行憲法においても、参議院の緊急集会によって国会機能を維持して、行政権の自由判断の余地を少なくする

  枠組みが設けられており、国会議員の任期延長を可能とする憲法改正の必要性は認められない。

 4 公職選挙法の改正により対応可能であること

   衆議院憲法審査会では、憲法改正を行うべき理由として、2011年(平成23年)4月に予定されていた統一地方選挙

  の一部が、同年3月11日の東日本大震災の影響で実施困難に陥った際、立法措置により、被災地で予定されていた首長選

  挙や議会議員選挙が延期されるとともに、現職の首長及び議会議員の任期が延長された例が指摘されている。

   この点、大規模災害時における選挙の実施については、国民の選挙権を実質的に保障する観点から、避難先の市町村にお

  いて投票を行う制度の創設や、郵便投票制度の要件の緩和、一定の要件下で選挙自体を延期する制度の創設等を内容とする

  公職選挙法の改正を行うべきであり(日本弁護士連合会2017年(平成29年)12月22日付「大規模災害に備えるた

  めに公職選挙法の改正を求める意見書」参照)、衆議院憲法審査会で指摘された点については、憲法改正ではなく、これら

  公職選挙法の改正により対応することが可能である。

 5 結語

   以上のとおり、国会議員の任期延長は国民の選挙権行使の機会を延期させるものであるから、他の方法により国会機能を

  維持することができないかという検討が先立つべきであるところ、緊急事態に対しては、参議院の緊急集会と大規模災害に

  備えるための公職選挙法改正により国会機能の維持は可能である。

   よって、当会は第211回国会の衆議院憲法審査会で議論された、緊急事態における国会議員の任期延長を可能とする憲

  法改正に反対する。

 

 

                            2023年(令和5年)11月20日

                                沖縄弁護士会

                                  会 長  金 城 智 誉

 

ファイルのダウンロードはコチラ
PDF

 

前のページへ戻る