性的少数者に対するあらゆる差別に反対する会長声明
1 本年6月3日から同月5日にかけて、自らがトランスジェンダーであることを公表し性的少数者の人権問題に取り組んでいる弁護士に対し、匿名の者から、「男のクセに女のフリをしているオカマ野郎をメッタ刺しにして殺害する」などのメッセージが複数回にわたって送付されるという事件が発生した。
メッセージの内容が同弁護士に対する差別的発言かつ脅迫にあたることは明らかであり、このようなメッセージをトランスジェンダー当事者に送付した行為は、性的少数者に対するいわゆるヘイトクライム(人種、民族、宗教などに係る、特定の属性を持つ個人や集団に対する偏見や憎悪が元で引き起こされる、嫌がらせ、脅迫、暴行等を指す)ともいうべき卑劣なものである。当会は、このような行為を断じて見過ごすことはできず、強く非難するものである。
2 トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別と性自認が異なる人々の総称である。
恋愛感情や性的関心をどのような性にもつかという性的指向(Sexual Orientation)や自らの性をどのように認識するかという性自認(Gender Identity)は、その人がその人らしく生き、その人らしく人生の選択を行っていくに際し、大前提となる基礎的なものである。性的指向及び性自認(SOGI)に関する自己決定や自己認識は、その人の人格に密接に関連する基本的人権として尊重されなければならず、社会で暮らすすべての人はこれらの権利を当然に享受している。
3 当会は、2019年(平成31年)3月に「レインボー宣言~性の多様性を尊重し性的少数者のさらなる権利保障に努めることの宣言~」を発出した。また、沖縄県も、本年3月に「沖縄県差別のない社会づくり条例」を制定し、同13条において性的指向又は性自認を理由とする不当な差別の解消を図るための施策を講ずると規定している。
4 このようにトランスジェンダーの権利擁護に向けた取り組みが広がりつつある一方で、近年、SNS等を中心として、トランスジェンダー当事者を性暴力の加害者であるかのように決めつけ、トランスジェンダーの権利を擁護すると社会に性暴力が増加するかのような非合理的な言動が後を絶たないが、これらの言動はいずれも著しい論理の飛躍あるいは根拠のない懸念である。
当会は、そのような誤った認識が一部で共有されている現状に強い危機感を抱くとともに、そのような認識が冒頭述べた弁護士に対するヘイトクライムともいうべき行為を引き起こす危険性を強く危惧するものである。
5 当会は、今回の事件を踏まえて、トランスジェンダー当事者である弁護士に対するヘイトクライムともいうべき行為を強く非難するとともに、改めて、全ての性的少数者が個人として尊重される社会の実現に向け、活動を続けることをここに表明する。
2023年(令和5年)6月29日
沖縄弁護士会
会 長 金 城 智 誉