決議・声明

最低賃金額の引上げと地域間格差是正及び中小企業支援強化を求める会長声明

 

1 厚生労働大臣は、近いうちに、中央最低賃金審議会(以下「中央審議会」という。) に対し、2023年(令和5年)度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問を行い、中央審議会から、答申が行われる見込みである。

  昨年、中央審議会は、各都道府県の引上げ額の目安について、ABランクについて31円、CDランクについて30円の引上げという答申を行った。これを受けて、沖縄地方最低賃金審議会(以下「沖縄地方審議会」という。)は33円の引上げの答申を行い、沖縄県における最低賃金額は、2022年(令和4年)10月6日以降853円となった。

  沖縄地方審議会が昨年引上率4%の引上げの答申を行ったことは、これまで当会が毎年求めてきた最低賃金額の引上げに沿うものであって評価できる。

  しかしながら、時給853円では、1日8時間、週40時間、月173時間働いたとしても月収14万7569円、年収約177万円にすぎない。この収入では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持し、将来のための貯蓄をしていくことは極めて困難であり、最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定」を図ることは困難である。

  近時、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。このような物価上昇が、特に低所得世帯の生活に深刻な影響を及ぼしているところ、労働者の生活を守るために、労働者の実質賃金の上昇を実現する必要がある。そのためにはまず最低賃金額を大きく引き上げることが何よりも重要である。

  また、近年、沖縄県において積極的に取り組んできている子どもの貧困についても、これを抜本的に解決するためには子育て世代の所得向上が不可欠であり、そのためにも最低賃金額の引上げが直接的かつ効果的である。

  さらに、フランス、ドイツ、イギリス、韓国などの諸外国では、最低賃金額の大幅な引上げがなされているのであり、日本においても大幅な引上げが必要である。

  以上からすれば、今年度もさらなる最低賃金額の引上げが必要である。

2 最低賃金額の地域間格差が依然として大きく、ますます拡大していることも見過ごすことのできない重大な問題である。2022年(令和4年)の最低賃金は、最も高い東京都で時給1072円であるのに対し、最も低い沖縄県等10県では時給853円であり、その間には219円もの開きがある。最低賃金額の高低と人口の転出入には強い相関関係があるところ、最低賃金の低い地方の経済が停滞することにより、地域間の格差が固定、拡大するものであることから、格差是正、地域経済の活性化のためにも、地方における最低賃金額の引上げが必要である。

  また、地域別最低賃金額を決定する際の考慮要素とされる労働者の最低生計費について、近年の調査によると、地方と都市部との間で、地域間格差がほとんどないことが判明している。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされること等が背景にある。このように、労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金額の地域間格差は早急に是正されるべきである。

  なお、中央審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協議会」が本年4月6日にまとめた報告では、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とすることが提案されており、沖縄県は現行の4段階のうちDランクから3段階のCランクに変更されると考えられる。しかし、ランク分けを維持してランクごとに傾斜を設けて地域別最低賃金を決定する方法を維持する以上、地域間格差がランク分けの変更によって自動的に解消されるものではなく、Cランクの引上額をAランクの引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。

3 他方、最低賃金額の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては、最低賃金額を引き上げても円滑に事業を継続して雇用の維持が図れるよう十分な支援策を講じることが重要である。この点、国は、最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策として「業務改善助成金」制度による支援を実施しているところ、中小企業に対する対策のさらなる拡充が図られるべきである。

  中小企業に対する対策としては、既存の支援策に加え、社会保険料の減免や減税、補助金支給等の即応性・実効性の高い支援策のほか、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるための取引適正化支援等、長期的継続的に中小企業支援策を強化すべきである。なお、沖縄地方審議会も昨年最低賃金額の答申の際に、国等に対して実効性のある支援の継続と更なる拡充、徹底した施策の実施を早急に求める付帯決議をしているところである。

4 当会は、これまで繰り返し最低賃金額の引上げ等を求めてきたところであるところ、上記のような状況を踏まえ、中央審議会に対し、最低賃金額の引上げと地域間格差の是正を、沖縄地方審議会に対し、最低賃金額を大幅に引き上げる旨の答申をすることを、 そして国に対し、中小企業支援策の強化を、それぞれ求めるものである。

 

                             2023年(令和5年)6月29日

                              沖縄弁護士会

                               会 長  金 城 智 誉  

 

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