決議・声明

特定商取引法2016(平成28)年改正における見直し規定に基づく

同法の抜本的改正等を求める意見書

 

2023年(令和5年)3月20日

沖縄弁護士会       

会 長  田 島 啓 己

 

第1 意見の趣旨

 当会は、国に対し、2016(平成28)年改正における附則第6条に基づく「所要の措置」として、特定商取引法について、以下の通り(具体的内容は別紙の通り)の抜本的な改正等を行うことを求める。

1 訪問販売・電話勧誘販売について

() 拒否者に対する訪問勧誘の規制

訪問販売につき、家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された張り紙等を貼っておくなどの方法によりあらかじめ拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすること。

() 拒否者に対する電話勧誘販売の規制

電話勧誘販売につき、特定商取引法第17条の規律に関し、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を導入すること。

() 勧誘代行業者の規律

訪問販売及び電話勧誘販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすること。

() 販売業者等の登録制

訪問販売及び電話勧誘販売を行う者は、国又は地方公共団体に登録をしなければならないものとすること。

2 インターネット通信販売について

(1) 申込・契約締結の行政規制の強化・クーリング・オフ及び取消権の設立

インターネット通信販売における申込・契約締結について行政規制を強化し、また消費者によるクーリング・オフ、取消権を設立すること。

() 継続的契約に対する中途解約権、損害賠償額の上限規定の設立

インターネット通信販売における継続的契約について、消費者に中途解約権を認め、また中途解約時の損害賠償額の上限を定めること。

() 解約・返品の受付態勢整備の義務化

インターネット通信販売業者に対し、ウェブ上での解約申出の受付を義務づけ、また解約・返品手続きに迅速適切に対応できる受付体制の整備を義務づけること

() 広告画面に対する規制強化

インターネット通信販売の広告画面において、契約内容の有利条件と不利益条件、商品などの品質・効能が優良等であることを強調する表示とその意味内容を限定する打ち消し表示を、それぞれ分離せず一体的に表示する規定を設けると共に、これに反する表示を特定商取引法第14条第1項第2号の指示対象行為として具体的に禁止すること。

() 特定情報開示請求権の設立

連絡先が不明の通信販売事業者、および当該事業者の勧誘者等により自己の権利を侵害された消費者は、SNS事業者、プラットフォーマー等に対してこれらを特定するための情報開示請求ができるようにすること。

() 適格消費者団体の差止請求権の拡充

適格消費者団体の差止請求権について、前記(1)から(4)までの行政規制等に違反する行為等を請求権行使の対象とすること。

3 連鎖販売取引等について

() 連鎖販売業における開業規制の導入

連鎖販売取引業について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないものとする開業規制を導入すること。

() 後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加

特定利益を収受し得る契約条件と特定負担を伴う契約を組み合わせた仕組みを設定している事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し、特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、連鎖販売取引の規制対象となることを条文上明らかにすること。

() 不適合者に対する紹介利益提供契約の勧誘等の禁止

物品販売又は役務提供による対価の負担を伴う契約をした者が次のいずれかに該当する場合は、その者との間において、新規契約者を獲得することにより紹介利益が得られることを内容とする契約の勧誘及び締結を禁止すること。

① 22歳以下の者である場合

② 先行する契約として投資等の利益収受型の取引を締結した者である場合

③ 先行する契約の対価にかかる債務(その支払のための借入金、クレジット等の債務を含む)を負担している者である場合

() 連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設

連鎖販売取引について、特定負担に関する契約を締結しようとする相手方に対し、収受し得る特定利益の計算方法等の説明を義務付けること。

() 連鎖販売取引における業務・財務等の情報開示義務の新設

連鎖販売取引について、特定負担に関する契約を締結しようとする相手方や連鎖販売加入者に対し、当該連鎖販売取引における業務・財産の状況等に関する情報を開示することを義務付けること。

4 特定継続的役務提供について

() 特定継続的役務の内容の見直し

特定継続的役務提供について、狭い限定や区別の合理性について見直すべきこと

() 取引主体について

特定継続的役務提供の取引主体について営利目的の者に限定している消費者庁の解説を改めるべきこと

() 特定商取引法第48条第2項本文の「関連商品」について

特定商取引法第48条第2項本文の「関連商品」該当性が、事前の説明で否定されることはないとガイドライン等に明記して周知をすべきこと

 

第2 意見の理由

1 はじめに

 特定商取引法は、訪問販売、通信販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引等の消費者トラブルを生じやすい特定の類型の取引について規制して取引の公正を図ることにより、消費者の利益を保護することを目的とする法律である。

 同法は、問題となる取引類型を規制するため幾度も改正が繰り返されてきた。2016(平成28)年の同法改正(以下「平成28年改正」という。)の際、附則第6条において「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」とのいわゆる5年後見直しが定められた。そして、同法の施行は2017(平成29)年12月1日であり、2022(令和4)年12月1日の経過をもって、平成28年改正法の施行から5年が経過しており、上記改正附則に定める見直しを行う時期が到来している。

 令和4年版消費者白書によると、2021(令和3)年に全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の件数は85.2万件であり、この消費生活相談のうち、特定商取引法の対象取引分野に関する相談は全体の54.7%という高い比率を占めている。

 65歳以上の高齢者の相談では、相談全体に占める訪問販売に関する相談の割合が1 4.4%、電話勧誘販売に関する相談の割合が8.1%であり、全年代の相談に占める訪問販売や 電話勧誘販売に関する相談の割合(訪問販売に関する相談が9.3%であり電話勧誘販売に関する相談の割合が5.3%)と比較して大きな割合となっている。さらに、認知症等高齢者においては、訪問販売・電話勧誘販売に関する相談が相談全体の48.6%とさらに大きな割合になっており、判断力の衰えた高齢者が訪問販売や電話勧誘販売に関するトラブルに巻き込まれるケース が多いことがわかる。

 また、相談全体のうちインターネット通販に関する相談が27.4%と最多となっており、スマートフォン・SNS等の普及やコロナ渦によりインターネット通販におけるトラブルが増加していると考えられる。さらに、マルチ取引については、相談件数全体に占める割合は1.1%であるものの、20歳代において は5.1%と高い比率を示している。2022(令和4)年4月の成年年齢引下げに伴い、若年者のインターネット通販、マルチ取引における若年者の被害は今後も更に増加することが懸念される。

 沖縄県の場合でも、こうした全国の被害動向とおおむね同様の状況にあると思われる。すなわち、消費生活相談で2021(令和3年)度に寄せられた苦情相談4311件のうち、特定商取引法に関する苦情相談(訪問販売・通信販売・マルチ、マルチまがい商法・電話勧誘販売・訪問購入など)は2373件と約55%をしめており、そのうち通信販売に関する苦情相談が全体の45.6%と高い比率を示している。

 これを購入形態別に契約当事者年代で比較すると、通信販売の苦情相談で60代、70代以上の占める割合は25.1%なのに対し、訪問販売では37.8%、電話勧誘販売では43.7%、訪問購入では73.9%とより大きな割合を占めている。他方で、10代、20代が通信販売の苦情相談に占める割合は14.9%だが、訪問販売では12.1%、電話勧誘販売では7.9%、マルチ・マルチまがい商法では15.1%を占めている。

 したがって、沖縄県においては、被害件数としてはインターネット通信販売に関するものが非常に多いが、年齢別に見ると訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入では特に高齢者がトラブルに巻き込まれていることがわかる。また、10代、20代は通信販売に関するものの他、訪問販売や特にマルチ・マルチまがい商法のトラブルにまきこまれていることがわかる。

 当会においても、これまで特定商取引法に関しては、「特定商取引法および特定商品預託法における契約書面等の電子化による交付に反対する会長声明」(2021(令和3)年3月8日)、「連鎖販売取引における被害防止に関する規制強化を求める意見書」(2021(令和3)年3月29日)、特定商取引法等における書面交付義務の電子化に係る政省令の在り方についての意見書(2022(令和4)年7月11日)といった意見を述べてきた。これらの意見のうちの一部については改正がなされた部分もあるものの、消費者被害の実情にかんがみればいまだ十分とはいえない。

 上記のとおり、特定商取引に関する相談が消費者相談全体に占める割合が高いこと、訪問販売等のトラブルに巻き込まれる高齢者が依然として多いこと、インターネット通販における相談が高い割合となっていること、若年者におけるマルチ取引に関する被害が増加することが見込まれる。

 以上から、当会は、国に対し、2016(平成28)年改正における附則第6条に基づく「所要の措置」として、特定商取引法について、下記のとおり抜本的な改正等を行うことを求める。

2 訪問販売・電話勧誘販売について

(1)拒否者に対する訪問販売の規制

特定商取引法第3条の2第2項は、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、勧誘をしてはならないと定めている。家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された張り紙等(以下「ステッカー」という。)を貼っておくなどの方法がとられた場合、消費者があらかじめ勧誘を拒絶し、契約を締結しない旨の意思を表示していることが明らかであり、訪問販売を行うことは許されるべきではない。

ところが、消費者庁は、同項について「例えば家の門戸に「訪問販売お断り」と  のみ記載された張り紙等を貼っておくことは、意思表示の対象や内容が全く不明瞭であるため、同法第3条の2第2項における「契約を締結しない旨の意思」の表示には該当しない。」(2022(令和4)年6月22日付「特定商取引に関する法律等の施行について」 別添3「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針」)との解釈を示している。

消費者庁の解釈によれば、消費者が、あえてステッカーを貼付しているにもかかわらず、事業者と個別に応対しなければならず、その結果として契約締結をさせられる可能性もあり、消費者の損害防止を図る特定商取引法の解釈として不適当である。2021年度の訪問販売に関する消費者苦情の申出件数は、7万7877件であり、前年度に比し、件数・割合ともに増加していることからも(消費生活年報2022/10頁)、更なる消費者の損害防止を図る必要性が高い。

また、同項は、「契約を締結しない旨の意思表示」の方法を限定していないうえ、条例でステッカーに法的効力を認める自治体もある。この点、消費者庁は、「地域の消費者トラブルを防ぐための有効な手段であり、……、特定商取引法と相互に補完し合うもの」との考えを示している(消費者庁「改正特定商取引法における再勧誘禁止規定と『訪問販売お断り』等の張り紙・シール等について」)が、罰則のない条例では効果が限定的であり、ステッカーの法的効果を特定商取引法上明確にすべきである。

訪問販売は、店舗販売と異なり、不意打ち性があり、消費者が断っても説得を続けてなかなか退去しないことも多く、さらに他者の目が届かない等、トラブルの温床となっており、依然多数の相談があることに鑑みれば、ステッカーに法的効果があることを明確にする必要性が高い。

以上の点に鑑み、消費者庁の上記解釈は直ちに改められるべきであり、ステッカーにより訪問販売を拒絶する意思を表示した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「締結しない旨の意思を表示した」 に該当することを条文上明示すべきである。

() 拒否者に対する電話勧誘販売の規制

電話勧誘販売には、①不意打ち性、②匿名性、③密室性、④勧誘の執拗性、⑤拒絶の困難性、⑥即決の強要、⑦契約成立の曖昧性、契約内容の不確実性などの問題があるとされており(圓山茂夫「特定商取引法の理論と実務(第4版))347頁」)、2021年度には、4万5000件以上の相談がある(消費生活年報2022/11頁)。

したがって、電話勧誘販売においても、勧誘を事前に拒絶できる制度が、消費者の生活の平穏を守るために必要である。

特定商取引法第17条は、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘を禁止している。しかし、電話勧誘をする事業者は多数あり、新手の事業者から電話がかかるとその度に断る必要がある(前掲圓山348頁)。

そのため、訪問販売拒絶のステッカーと同様に、消費者が事業者に電話応対することなく、事前に、かつ簡易に契約を締結しない旨の意思表示をすることが必要であり、電話勧誘を受けたくない消費者が電話番号を登録機関に登録し、登録された番号には事業者が電話勧誘することを禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Call」制度)を導入すべきである。

() 勧誘代行業者の規律

訪問販売及び電話勧誘販売における行為規制は、「販売業者」及び「役務提供事業者」(以下「販売業者等」という。)に対するものである(特定商取引法第2条第1項参照)。

近年、訪問販売や電話勧誘販売にあっても、営業活動それ自体についてのアウトソーシングの活用が進み、勧誘行為を他の 業者に委託する例が増えているが、勧誘行為を実際に行っている事業者に対しても行為規制が及ぶかという点について、現行法上明らかではない。

したがって、販売業者等から契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対して、特定商取引法上の訪問販売及び電話勧誘販売の行為規制が及ぶことを条文上明示すべきである。

() 販売業者等の登録制

訪問販売や電話勧誘販売は、実店舗が不要であることから、信用力の低い事業者も参入が容易である。また、所在を転々として不正な行為を繰り返すことも可能である。

地方自治体においては、滋賀県野洲市が条例により、訪問販売事業者登録制を実施しており、国によって同様の制度を実施することが困難な事情はない。

したがって、訪問販売や電話勧誘販売についても店舗販売業者に準ずる信頼を確保するために事業者の登録制を採用すべきである。

3 インターネット通信販売について

(1)申込・契約締結時の行政規制の強化、クーリング・オフ及び取消権の設立

ア 現行の特定商取引法では、他の取引類型と異なり、通信販売には申込・契約締結時の各種行政規定(氏名等の明示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止など)が設けられておらず、またクーリング・オフや、不実告知・重要事実の不告知の場合の取消権といった民事上の規定もない。

これは、現行法の予定する通信販売が、従前からの紙媒体のカタログによる閲覧によるものや、インターネット通信販売(以下「ネット通販」という。)であってもウェブサイトを自ら検索・閲覧する等、消費者が能動的な行動をとった上で、契約締結に至る形態が想定されたためである。そこでは、ネット通販の場合でも消費者が自ら積極的に情報にアクセスした上で、得られた情報を元に契約内容を十分に比較検討して、契約締結に至るため、訪問販売等のような消費者に対する不意打ち性、密室性、攻撃性といった要素がないとされてきた。

イ しかしながら、インターネットが普及し日常生活へ浸透した現在、その利用環境・利用状況には大きな変化が見られる。すなわち、現在ネット上では消費者の行動履歴などを元に、特定の属性・特性をもつ利用者に的を絞ったターゲティング広告や情報が大量に流れ、またSNSの隆盛と共にこれを通じた口コミ形式での勧誘、ステルスマーケティングが広くおこなわれるようになった。

こうした中で、消費者は多様な情報を探してこれを取得するといった能動的な行動を取ることなく、もっぱら個別の趣味趣向に合致するように調整された情報のみを受動的に受け取りがちとなっている。その結果、消費者がネット通販において、他の選択肢との比較を含めて当該契約内容を十分検討しないまま、契約申込みをおこなってしまう危険性が高まっている。

ウ こうした状況では、ネット通販は確かに訪問販売や電話勧誘販売のように私的作業を中断させるような物理的強制力は備えないものの、消費者が意図しないにもかかわらず、個別化された広告等が繰り返しネット画面に表示されたりする点で不意打ち性があり、あるいはSNS等を通じた勧誘連絡で1対1でのやりとりが行われるなどの点で、密室性が高く、訪問販売や電話勧誘販売と同様の問題点がある。

そこで、ネット通販の場合には、他の類型と同様の行政規制(氏名等の明示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止など)を設けると共に、消費者に対してクーリング・オフや、不実告知・重要事実の不告知の場合の取消権といった民事上の権利を設けるべきである。

(2)継続的契約に対する中途解約権、及び損害賠償額の上限規定の設立

ア 継続的契約の解約については民法上明確な規定はなく、現行の特定商取引法でも、特定継続的役務提供の場合のみが規定され、指定役務に該当しない役務については中途解約が規定されていない。

しかし、継続的役務提供契約がネット通販の場合、より役務内容を把握しにくく、契約内容を十分把握しないまま契約を締結する危険性がある。またこれが役務提供ではなく物品についての定期購入契約の場合、購入対象が美容・健康食品などでは、期待した効果やその目的に合うか、体質などの問題で継続して利用できなくならないか等が一定期間使用しないと確認できないものが多い上、更にネット通販の場合には商品をあらかじめ手にとって確認したりすることもできない。

イ こうした中で、先に述べたようなターゲティング広告やSNSでの個別の勧誘により、偏った情報にさらされた消費者は、効能や内容について誤解をもったまま契約してしまう危険性が高く、契約後に目的や効果等にそぐわないと分かっても、契約に長期間拘束されて不必要な商品の受領とその支払いを余儀なくされ、また解約できても違約金として予想外の高額の支払いを求められかねない。

ウ このような契約締結時の偏った情報とこれによる誤った意思決定により、長期継続的に消費者が受ける不都合からこれを阻止する必要性は、現行の特定商取引法で規制されている特定継続的役務提供の場合と何ら変わるところはない。

したがって、ネット通販における継続的契約についても同様に、中途解約権を認めると共に、その行使時の消費者の負担する損害賠償額の上限を定めるべきである。

(3)解約・返品の受付体制整備の義務付け

ア 現行の特定商取引法では、通信販売業者による解約・返品に関して受付体制やその申出方法についての規制はない。そのため、ネット通販においても、その通信販売業者の解約・返品の受付態勢や申出方法については各事業者の個別の対応に任されている状況にある。

そのため、ネット通販業者によっては、解約・返品手続きはネット上で受け付けず別個の手続きを要求したり、あるいはネットで受け付ける場合でも、その窓口や具体的な解約手続きが一見わかりにくい仕組みを採っている等の事例が見られる。

また解約・返品等の申出は電話で受け付けるとしながら、実際は何度電話しても電話が繋がらなかったり、解約はFAXで受け付けるとしながらFAXしても届いていないとして解約を否定する事例、さらには解約申出を受け付けてもその後の具体的な返品・返金手続きが遅々として進まない事例などがまま見られる。

イ しかし、元来契約の申込をネットで受け付けておきながら、解約返品申出にはネットで受け付けられないとするのは不合理な対応である。また、仮に電話やFAX等による解約方法をとる場合を含め、これらの解約申出に適切に受け付けして迅速に対応できる体制がなければ、解約権行使の不当な制限となりかねない。

したがって、ネット通販において、事業者には申込と同様のネットによる解約申出方法を義務づけると共に、解約申出の受付体制や申出に対して迅速適切に対応する体制の整備を事業者に義務づけるべきである。

(4)インターネット広告画面に対する規制強化

ア 現行の特定商取引法では、インターネットを通じた契約について、申込画面で消費者を誤認させるような表示を禁止し(同法第12条の6)、これに反した表示により誤認した申込を取り消せる(同法第15条の4)等の規定が令和3年改正により設立されている。

イ しかしながら、この改正は申込画面での規制にとどまり、広告画面については規制が及ばず不十分である。

すなわち、先に述べたようなターゲティング広告やSNSでの勧誘で、繰り返し誤解を招くような表示や説明がなされた場合、申込時には消費者はかかる情報による誤解に強くとらわれていることが多い。このような場合には、申込画面においてたとえ正しい表示がなされていたとしても、思い込みからその正しい表示も消費者の頭に入ってこず、誤解が解かれることなく結局そのまま契約申込みを行ってしまう危険性が高い。

例えば、ネット広告の中には定期購入契約において、初回無料等の有利条件を強調しながら、定期購入契約であることや2回目以降の代金が高額となることの不利益情報が、異なる場所に目立たない形で表示される事例がある。このような場合、広告を消費者が隅から隅まで見ることなくこれを見落として契約に誘引されることを事業者が狙っていても、現行法ではこれを規制することができず、またこうした広告が繰り返される中で誤認を強めた消費者が、最終の申込画面の表示で誤解に気がついて契約申込を思いとどまることを期待することは極めて困難である。

以上から、インターネット広告画面においても、契約内容と有利条件と不利益条件、商品等の品質・効能が優良等であることを強調する表示とその意味内容を限定する打ち消し表示を、それぞれ分離せずに一体的に表示させる規定を設け、さらにこれに反する表示については特定商取引法第14条第1項第2号の指定対象行為として具体的に禁止すべきである。また、広告表示においても、事業者が網羅的で正確かつわかりやすい広告を行うべきなど、広告表示の透明性確保を法令で明確化すべきである。

(5)通信販売事業者および勧誘者の特定情報開示請求権の設立

ア 現行の特定商取引法では、販売業者又は役務提供事業者の表示義務を規定するが(同法第11条第5号)、これに反した事業者の情報開示については規定がない。またプロバイダ責任制限法も対象となる権利侵害を「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」に限定されており、特定の者との通信販売契約にかかる財産的被害の場合に用いることができない。そのため、表示義務を履行しない通信販売事業者等の氏名や住所などの情報を取得することが困難である。

イ しかしながら、このような状況では消費者が司法手続きによって被害を回復しようとしても、訴状における当事者の特定が容易ではなく、そのためにかなりの労力・費用を費やさざるを得なくなって、事実上泣き寝入りとなってしまいかねない。

こうした消費者事件における被害回復の実情に鑑みて、インターネットのプラットフォーマーやSNS事業者等にたいして、連絡先が不明な通信販売事業者およびその勧誘者を特定するための情報開示を求められるようにするべきである。

(6)適格消費者団体の差止請求権の拡充 

上記について規定の実効性を確保するために、適格消費者団体の差止請求権の対対象として、通信販売事業者が上記規定に反する行為を追加すべきである。

4 連鎖販売取引等について

(1)連鎖販売業における開業規制の導入

全国消費者生活ネットワークシステム(PIO-NET)によるマルチ取引に関する消費生活相談件数は、毎年、ほぼ1万件以上の相談が続いており、2020年度の相談件数1万171件のうち、20歳未満及び20歳代の相談件数が4996件と全体の49%を占めており、近年は、若年者がトラブルに遭う割合が増加している。

その勧誘方法も、メールやSNS(コミュニケーションアプリ、マッチングアプリ)等、インターネット上の匿名性の高いツールを利用したものが増加しており、組織の実態、責任者、勧誘した相手の連絡先すらも特定ができず、被害の回復が困難なケースが増えている状況である。

また、連鎖販売取引においては、単なる物品販売や役務提供とは異なり、特定利益の収受を目的として、一定期間にわたり取引を継続することが想定されるため、連鎖販売取引業者には、組織、責任者、連絡先等を明確化し、取扱商品・役務の内容・価格、特定利益の仕組み、収支・資産の適正管理体制、トラブルが生じた場合の苦情処理体制や責任負担体制の明確化が求められる。

そこで、連鎖販売取引においては、登録や事前確認制度等の開業規制を導入し、取扱商品・役務の取引が違法であるおそれがあるとき、取引が適正に行われないおそれがあるとき等は、登録を拒否するものとして、連鎖販売取引の適法性・適正性が確保される仕組みを構築すべきである。

(2)後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加

近時、物品販売等の契約を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例、つまり特定利益の収受に関する説明を後出しするマルチ取引(以下「後出しマルチ」という。)のトラブルが増加している。

後出しマルチは、大学生等の若者がターゲットにされることも多く、簡単に利益が得られるかのような勧誘を受けて、借り入れをしてまで契約に至ったものの、実際には勧誘時の説明と異なって利益が得られず、借入金の返済に窮した状況で、他の者を勧誘して契約を獲得すれば特定利益が得られると勧誘され、借入金の返済のため、自らも勧誘員としてマルチ取引に参加し、新規契約者の勧誘に走るという不当勧誘行為を連鎖させる構造にある。

特定商取引法第33条第1項は、特定利益を収受し得ることをもって誘引し、特定負担を伴う取引をすることを連鎖販売取引の要件としているところ、後出しマルチを展開する業者は、特定負担の契約締結時に特定利益を収受し得ることを誘引行為として用いていないことから特定商取引法の適用がないものであると主張し、クーリング・オフによる解約に応じず、そもそも概要書面、契約書面の交付をしないといった事案も少なくない。

そこで、特定利益を収受し得る契約条件と特定負担を伴う契約を組み合わせた仕組みを設定している事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し、特定利益を収受し得る取引に誘引する取引類型についても、明確に連鎖販売取引の一類型として整理し、連鎖販売取引として規制を及ぼすべきである。

(3)不適合者に対する紹介利益提供契約の勧誘等の禁止

連鎖販売業における開業規制の導入の項(前記3(1))において、近年、マルチ取引に関して、若年者の被害件数が増加傾向にあることを指摘したが、22歳以下の者は、成人であっても社会的経験が乏しく、そのような者とのマルチ取引は適合性原則に違反するものと言わざるを得ない。

また、後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加の項(前記3(2))において述べたとおり、利益収受型取引の相手方に対して、後出しで紹介利益の収受を勧誘することは、構造的に不適正な勧誘が繰り返されていることにつながるおそれが大きいため、紹介利益提供の勧誘等は禁止すべきである。

さらに、先行する物品販売等の契約に基づく債務を負担している者は、その支払いを行わなければならいない状況にあるため、不実告知や断定的判断の提供、強引な加入等の不適正な販売方法に繋がるおそれが大きいことから、かかる者に対する紹介利益提供の勧誘等も禁止すべきである。

そこで、物品販売又は役務提供による対価の負担を伴う契約をした者が次のいずれかに該当する場合は、その者との間において、新規契約者を獲得することにより紹介利益が得られることを内容とする契約の勧誘及び締結を禁止すべきである。

  ① 22歳以下の者である場合

   ② 先行する契約として投資等の利益収受型の取引を締結した者である場合

   ③ 先行する契約の対価にかかる債務(その支払のための借入金、クレジット等の債務を含む)を負担している者である場合

(4)連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設

連鎖販売取引は、これに加入することで当該加入者及び他の構成員の販売活動により利益を得ることを目的とした投資取引の一種といえる。また、新規加入者が後続の加入者を順次勧誘するという特性から、不実告知や断定的判断の提供といった不当な勧誘が行われやすく、誤認等による契約を招くおそれがある。

そこで、特定負担についての契約を締結しようとする連鎖販売を行う者には、その相手方に対し、①収受し得る特定利益の計算方法、②特定利益の全部又は一部が支払われないことになる場合があるときはその条件、③最近3事業年度において加入者が収受した特定利益(年収)の平均額、④連鎖販売を行う者その他の者の業務又は財産状況や特定利益の支払条件が満たされない場合等により、特定負担の額を超える特定利益を得られないおそれがある旨の説明を義務付けるべきである。さらに、概要書面及び契約書面にも記載しなければならないとするべきである。

(5)連鎖販売取引における業務・財務等の情報開示義務の新設

同様の理由から、①統括者その連鎖販売業を開始した年月、②直近3事業年度における契約者数・解除者数・各事業年度末の連鎖販売加入者数、③直近3事業年度における連鎖販売契約についての商品又は権利の種類ごとの契約の件数・数量・金額、又は役務の種類ごとの件数・金額、④直近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均額を概要書面及び契約書面に記載しなければならいものとするとともに、統括者には、これらの事項並びにその連鎖販売業に係る直近の事業年度における業務及び財産の状況を連鎖販売加入者に開示することを義務付けるべきである。

5 特定継続的役務提供について

(1)特定継続的役務の決定方法と内容を抜本的に見直すべきことについて

  ア 現在の特定継続的役務提供の内容について

現在、特定商取引に関する法律施行令第12条で定められた特定商取引法第41条第2項の特定継続的役務は①いわゆる「エステティックサロン」の役務等、②いわゆる「美容医療」の役務のうち特定商取引に関する法律施行規則(昭和五十一年通商産業省令第八十九号)第31条の5で具体的に定められた一定範囲のもの、③いわゆる語学教室の役務、④いわゆる家庭教師の役務、⑤いわゆる学習塾の役務、⑥いわゆるパソコン教室、⑦いわゆる結婚相手紹介サービスの7つである。

 本法の主務官庁である消費者庁の「特定商取引に関する法律・解説(令和4年6月1日時点版)」によれば、増毛、植毛の類は、通常「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し」には当たらないと考えられ、育毛については、施術の一過程で「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し」に該当するものがあるが、これらが一過程にすぎず、実現する目的が異なる場合には該当しないと考えられると解説されている。つまり、これによれば育毛・増毛サロンでの増毛コースは、人の皮膚を清潔にし若しくは美化するというエステティックの概念には当たらないことになる。

  イ 見直しを求める理由について

政令指定されている7つの特定継続的役務提供以外にも、トラブルを多発させている継続的な役務提供取引には多種多様なものがある。しかし、政令指定されていない継続的な役務提供は特定継続的役務提供に当たらないことから、特定継続的役務提供としての救済を受けることができない。例えば、資格取得講座については、資格試験の受験指導として知識を教授するものであり、教育サービスとしての特質や問題点は特定継続的役務提供に当たる外国語会話教室や学習塾と本質は何ら変わらないといえるが、特定継続的役務提供には該当しないため救済が受けられないのである。このような結論をもたらす特定継続的役務提供の対象の内容が合理的とは思われない(後藤巻則・齋藤雅弘・池本誠司『条解 消費者三法』(弘文堂、2021年)981頁)。

たしかに、本法の適用対象を一律に包摂する規律を設けることは困難であり、政令指定制を維持することがやむを得ないとしても、問題が生じている役務については迅速に追加指定すべきである。また、上記のとおり区別に合理性がないように思われる役務もあるため、内容の抜本的な見直しが求められる。

少なくとも、消費者庁の解説では適用対象外と解説されている育毛、植毛、増毛は、継続的に術を行うものであって、対価も高額となる取引実態があり、現在でも薄毛治療のトラブルは多いことから、政令を改正して明確に追加すべきである。

この点につき、「育毛」は、毛根を刺激するなどの方法によって頭髪の発生を促す行為であり、人の頭皮に対する施術であるから、①に該当すると解せる。頭髪に似せた人口毛を頭皮に「植毛」したり、頭髪を豊かに見せるために「増毛」する行為は、専ら毛髪に対する処置であることからすると、それ自体は「皮膚を美化」する処置とは評価できないものともいえるが、「脱毛」も体毛を除去する処置によって「皮膚の美化」という目的を実現しようとするものであることと比較すると、植毛や増毛も皮膚を美化することを目的とした処置という意味では共通であり、①に該当すると解する余地があるとの見解もある(後藤巻則・齋藤雅弘・池本誠司『条解 消費者三法』(弘文堂、2021年)975頁、圓山茂夫『詳解 特定商取引法の理論と実務』(民事法研究会、2018年)505頁)。平成28年改正に向けた2015(平成29)年4月17日付け第3回特定商取引法専門調査会における配布資料の【資料2】美容医療サービスに関する状況-特定継続的役務提供への追加要否の観点から―(消費者庁提出資料)4頁には「近年トラブルが増加している「美容医療サービス」とは、医療脱毛、脂肪吸引、二重まぶた手術、包茎手術、審美歯科、植毛などの「美容を目的とした医療サービス」をいう(国民生活センターホームページ)。」と記載されており、同会の議事録によれば植毛についても規制の必要性が議論されていた。2004(平成16)年1月施行の改正政令において政令指定の検討対象とされたが、結果的に追加指定されなかったという経緯があったとしても、継続的に術を行うものであって、対価も高額となる取引実態があり、トラブルも多く、解釈としても含める余地もあることからすれば、育毛、増毛および植毛を特定継続的役務提供に指定する旨の政令改正をすべきである。

(2)取引主体に関する消費者庁の解説を改めるべきことについて

  ア 現在の消費者庁の解説について

 特定継続的役務提供における取引主体となる事業者である「役務提供事業者」または「販売業者」とは、営利の意思をもって反復継続して役務提供取引をおこなうことをいうと消費者庁は解説している。そして、消費者庁は、ガイドラインにおいて、学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校、同法第124条に規定する専修学校、同法第134条第1項に規定する各種学校、私立学校法(昭和24年法律第270号)第3条に規定する学校法人、同法第64条第4項の法人又は宗教法人法(昭和26年法律第126号)第4条第2項に規定する宗教法人が行う特定継続的役務の提供又は特定継続的役務を受ける権利の販売及び社会教育法(昭和24年法律第207号)第50条に規定する通信教育のうち同法第51条の認定を受けたものは、営利追及を目的とする事業を行う者ではないと解されることから、これらの主体が継続的役務提供を行う場合は本法の適用を受けないと解説する。

  イ 見直しを求める理由について

 しかし、特定商取引法第50条は、その性質上、営利を目的としない法人である国や地方公共団体などについて、特定継続的役務提供における取引主体となる者からあえて適用を除外する旨を規定している。そのため、本法は当然に営利目的で特定継続的役務提供を業とする者のみを適用対象として限定しているとは解されない。

 したがって、他に理由がないのであれば、宗教法人などはもとより、NPO法人など、営利目的の法人ではない役務提供事業者が当然に本法の適用を受けないと解すべきとはいえない。

 そうであれば、これらの法人が行う特定継続的役務提供についても紛争の防止・救済を図る必要性がないとはいえず、これらの法人が本法の特定継続的役務提供の定義に該当する役務提供を事業として行う以上は、むしろ本法の適用対象となると解すべきである。そこで、これを明らかにする形に消費者庁の解説を改めるべきである。

(3)特定商取引法第48条第2項本文の「関連商品」の判断について注意喚起すべきことについて

 特定継続的役務提供における関連商品は、役務提供事業者が販売・代理・媒介し、かつ役務の提供に際し、役務の提供を受けようとする者が購入する必要のある商品であって政令で定める商品(特定商取引法第48条第2項、同法施行令第14条、別表第五)である。このいわゆる関連商品については、役務を受ける目的の達成に向けて自宅用として推奨されたような商品、いわゆる推奨品は、関連商品に当たらないと消費者庁から解説されている。そして、消費者庁は、関連商品と推奨品の区別は実質的に判断されると解説している。

 しかし、推奨品であると告げることで、実質的には関連商品と評価されるべき商品についてもクーリング・オフが拒まれたりするというトラブルが生じている。

 そこで、推奨品と告げたことをもって関連商品該当性が否定されることはないことを解説において明記するとともに、周知・注意喚起すべきである。

6 結語

 当会は、本日開催した臨時総会において、「特定商取引法2016(平成28)年改正における見直し規定に基づく同法の抜本的改正等に向けた活動に取り組む総会決議」を採択した。「特商法の抜本的改正等を求める等の適宜の意見表明を行い、国に対してその実現を求めていく」とする同決議に基づき、本意見書を発出するものである。

以上

 

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