特定商取引法2016(平成28)年改正における見直し規定に基づく同法の抜本的改正等に向けた活動に取り組む総会決議
特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)は、訪問販売、電話勧誘販売、通信販売、連鎖販売取引等の消費者トラブルを生じやすい特定の類型の取引を規制して消費者被害を防止するための基本的法律である。同法は、直近では2016(平成28)年に改正された(以下、「平成28年改正」という。」)。
しかしながら平成28年改正後も、特商法に関連する消費者被害は後を絶たず、全国的な相談件数も高い水準で推移している。相談件数としてはインターネット通販に関する相談が最多となっているほか、取引類型別の特徴をみるとマルチ取引に関する相談では若年層が半分近くを占め、また電話勧誘販売や訪問販売に関する相談では高齢者の割合が高くなっているなど、各取引類型に応じて若年層や、高齢者がそれぞれトラブルに巻き込まれている状況にある。
平成28年改正附則第6条において、施行後5年を経過した場合には、施行状況を踏まえ所要の措置を講ずる旨のいわゆる5年後見直しが定められている。そして、2022(令和4)年が、この5年後見直しの時期である。
当会は、2022(令和4)年5月、「詐欺的投資被害を防止するために、取消権の拡充を含む消費者契約法の改正、消費者教育の推進、見守りネットワーク確立を含む体制整備を求める総会決議」を決議し、特に若年層、高齢者・障がい者を中心とした消費者保護に努力する旨を宣言したが、保護の必要性は詐欺的投資被害の場合に限らず、各取引類型においても同様である。その実現のためには、基本的法律である特商法の抜本的改正は急務である。
そこで、当会は、消費者被害の根絶を目指して活動を続ける上で、特商法がより充実した形で改正され、また各取引類型に応じた消費者被害の現状と現行法の問題点、特商法の抜本的改正等の重要性が一般に認知され、またそうした取組が、消費者被害の防止に繋がるように、以下のとおり取り組む決意である。
1 被害の多いインターネット通販、連鎖販売取引、電話勧誘販売、訪問販売等各取引類型の被害状況に応じた対策を検討し、これらを加えた特商法の抜本的改正等を求める等の適宜の意見表明を行い、国に対してその実現を求めていくこと
2 消費者教育のいっそうの拡充、地方議会への請願等を始めとする必要な取り組みを行っていくこと
以上の通り決議する。
2023年(令和5年)3月20日
沖 縄 弁 護 士 会
提案理由
1 特商法の改正経緯
特商法は、昭和51年に成立した訪問販売等に関する法律が平成12年に改称された、消費者被害を防止するための基本的法律である。同法は、訪問販売、電話勧誘販売、通信販売、連鎖販売取引等の消費者トラブルを生じやすい特定の取引を対象としており、事業者による不公正な勧誘行為等の取り締まり等を行うことで消費者被害防止を図るため、数次の改正が行われてきた。
直近の改正は平成28年改正であり、附則第6条において、施行後5年を経過した場合には、特商法の施行状況を踏まえ所要の措置を講ずる旨のいわゆる5年後見直しが定められている。2022(令和4)年が、この5年後見直しの時期である。
2 消費者被害の現状
しかしながら、こうした改正にもかかわらず消費者トラブルは減少する様子が伺われない。すなわち、「令和4年版消費者白書」によると、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談は85.2万件で、平成28年以降増減が見られるものの、高止まりが続く状態にある。特商法の規制対象取引分野の相談はその約55%を占めており、相談数全体でみると、コロナ禍での通販利用拡大もあって、インターネット通販に関する相談が27.4%と多数となっている。他方で世代別に相談内容の特徴を見ると、認知症等で判断能力が不十分な高齢者の相談では訪問販売・電話勧誘販売の相談が約49%を占めており、マルチ取引に関する相談では20歳代以下からの相談が約45%を占める等、社会に出たばかりの若年層が狙われているという特徴が見られる。
沖縄県の被害状況も全国の場合とほぼ同内容の傾向にあり、令和5年1月に発表された「令和3年度の県内における消費生活相談の概要について」によれば、苦情相談4311件のうち、特商法の規制対象取引分野の相談は約55%、特に通信販売に関する苦情は苦情相談全体の約46%を占めている。また、各購入形態別に相談している年代の特徴を見ると、訪問販売の苦情相談の約38%、電話勧誘販売では約44%が、60歳代以上で占められている。他方で、マルチ・マルチまがいに関する相談で20歳代以下からの相談が約15%を占めるなど、若年層もこうしたトラブルに巻き込まれていることがわかる。
3 若年層、高齢者・障がい者の保護の必要性
(1)若年層は、若さゆえの知識・経験・判断力が不足しがちで、成熟した成人に比べて消費者として合理的な判断を下すことに限界がある。そのため、そこにつけ込んだ消費者トラブルに巻き込まれやすい。
他方で、昨年より成年年齢が20歳より18歳に引き下げられ、単独で契約主体となれる若年層が広がった反面、未成年者取消権の喪失等による消費者被害拡大への懸念がある。このため、成年年齢引き下げに伴う参議院決議では、法成立後2年以内に若者のマルチ商法等の被害の実態に即した必要な措置を講じること、消費者教育の実現を図ること等の付帯決議を全会一致で採択しており、若年層を消費者被害から保護する対策の必要性が高い。
(2)認知症等の高齢者や障がい者は、判断能力の低下や社会的な孤立による情報不足等により、消費者としての合理的な判断を下すことに限界があり、そこにつけ込んだ消費者トラブルに巻き込まれやすい。さらに、自らが消費者被害に遭っていることを認識できないケースも多く、問題が顕在化しにくいという状況にある。このため、高齢者・障がい者を消費者被害から保護する対策の必要性は高い。
4 当会の従前の総会決議と今後の取り組み
当会は、2021(令和3)年3月8日に特定商取引法および特定商品預託法における契約書面等の電子化による交付に反対する会長声明を、同月29日に連鎖販売取引における被害防止に関する規制強化を求める意見書を、2022(令和4)年7月11日に特定商取引法等における書面交付義務の電子化に係る政省令の在り方についての意見書を発出している。このように、平成28年改正以降、特商法の個別の論点についてくり返し意見を述べて消費者被害防止のための働きかけをしてきたものであるが、上記1のとおり、消費者被害が後を絶たないのが実情である。
また、2022(令和4)年5月には、「詐欺的投資被害を防止するために、取消権の拡充を含む消費者契約法の改正、消費者教育の推進、見守りネットワーク確立を含む体制整備を求める総会決議」において若年層、高齢者・障がい者の特性に鑑み、その被害を防止し保護を図ることを決議した。
こうした保護の必要性は特商法が規制対象としてきた各取引類型においても共通するものであり、特商法の各取引類型ごとのその被害状況を分析し、なぜそのような被害の特性が表れているのか、現行法でどのような点が不十分なのか、またどのような規制を加えればその被害を防ぐことができるのか、その対策を検討することが肝要である。
上記2のとおり特商法に関連する消費者被害の実情に鑑みれば、特商法の抜本的改正等は急務であり、当会は、その改正等にかかる意見表明を行っていくと共に、国に対してその実現を求めていく必要がある。そして、5年後見直しの時期が到来している今こそが、特商法の抜本的改正に向けた活動をしていくその絶好の契機である。
他方で、こうした法改正が行われ、またその適切な運用がなされるためには、市民に対しても、各取引類型に応じた消費者被害の現状と現行法の問題点が周知され、特商法の抜本的改正等の重要性が認知されることが不可欠である。また、特商法の内容と消費者被害への対処法がより広く市民に周知され、消費者被害の防止に繋げる必要がある。かかる観点から、特商法の抜本的改正を政府等に求める意見書の採択に向けた地方議会への請願活動や消費者教育の一層の拡充を通じた市民への周知活動が重要である。
以上の点から、本件決議案を提案する。
以上