決議・声明

「袴田事件」再審開始を支持する東京高裁決定に関する会長声明

 

 本年3月13日、東京高等裁判所は、袴田巌氏(以下「袴田氏」という。)の第二次再審請求について、静岡地方裁判所の再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却した(以下「本件決定」という。)。

 本件は、1966(昭和41)年6月30日、一家4名が殺害され、放火された住居侵入・強盗殺人・放火事件である。同年9月、袴田氏がこの事件の犯人として起訴された。袴田氏は、第1回公判より一貫して無実を訴えていたが、1968(昭和43)年9月、静岡地裁で死刑判決が言い渡され、1980(昭和55)年11月、上告が棄却され、死刑判決が確定した。

 第1次再審請求は棄却されたものの、2014(平成26)年3月27日、静岡地方裁判所は、第二次再審請求に対し、再審開始の決定をした。同時に出された死刑及び拘置の執行の停止の決定により、袴田氏は釈放された。ところが、検察官はこの再審開始決定に対し即時抗告をし、2018(平成30)年6月11日、東京高等裁判所は再審開始決定を取り消した。

 これに対し特別抗告がなされ、2020(令和2)年12月22日、最高裁判所は、犯人性認定の中心的な証拠とされた「5点の衣類」に付着した血痕に赤みが全く残らないはずであるとは認められないとした原決定について、メイラード反応に関する専門的知見について審理不尽の違法があると判断し、原決定を取り消し、東京高裁に差し戻した。

 本件決定は、差戻後の証拠調べを踏まえ、1年以上みそ漬けされた衣類の血痕の赤みが消失することは専門的知見によって化学的機序として合理的に推測することができ、5点の衣類が犯行着衣であり、袴田氏の着衣であることに合理的な疑いが生じ、その結果、袴田氏を本件の犯人とした確定判決の認定に合理的疑いが生じることは明らかであるとし、静岡地裁の再審開始決定を支持した。

 袴田氏は、現在87歳と高齢である上、長期間にわたり死刑確定者として拘束されたことにより、心身を病むに至っている。袴田氏の救済には一刻の猶予も許されない。

 本件決定は、審理不尽と断じた最高裁決定に基づき、専門的知見に関する証拠調べを経て、検察官及び弁護人双方の主張が尽くされた結果の判断である。本件において、検察官と弁護人の間で主張が対立しているのは、5点の衣類の色に関する証拠評価の問題であり、これが特別抗告の理由に該当しないことは明らかである。

 当会は、速やかに再審公判を開始すべく、検察官に対し、本決定について最高裁に特別抗告を行わないよう強く要請するものである。

 また、本件は、死刑と誤判の問題を浮き彫りにするものでもある。当会は、死刑判決を下すのは人であり、死刑制度がある以上、誤判による死刑執行を避けることはできないことなどから、昨年3月11日の臨時総会において、死刑の代替刑を導入するとともに、犯罪被害者支援の抜本的拡充をした上で、死刑制度を廃止することを求める決議を採択した。袴田事件は、誤判による死刑執行の危険性が、抽象的なものではなく、現実的なものであることを思い知らせるものである。本件決定を機に、改めて、政府に対し、死刑制度を廃止することを求めるものである。

 

               2023(令和5)年3月14日

沖縄弁護士会

会長 田 島 啓 己

 

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