民事法律扶助の準生活保護償還猶予・免除制度の適用拡大及び弾力化を求める意見書
2022年(令和4年)9月13日
沖縄弁護士会
会長 田島 啓己
第1 意見の趣旨
民事法律扶助の準生活保護償還猶予・免除制度の適用拡大及び弾力化を求めるべく当会は以下のとおり意見する。
1 日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)は、
(1) 民事法律扶助業務運営細則第32条を改正し、民事法律扶助の準生活保護償還猶予・免除制度が規定する資力回復困難要件について、現在同条(1)ないし(4)として例示列挙されている4類型のほか、ひとり親世帯及び若者(特に、保護者からの虐待を受けた者、社会的養護下での生活を経験した者、貧困家庭で育った者など)についても資力回復困難要件に該当するものとして例示列挙し、制度の適用を拡大すべきである。
(2) 日本司法支援センター業務方法書を改正し、現行では法律扶助申請時のみに設けられている生活保護等償還猶予制度(日本司法支援センター業務方法書第32条3項及び第33条)を、終結報告書提出時にも新設し、1~2年の猶予の後、資力が回復しているかどうかを見極めた上で、最終的に免除をするかどうかを決定する制度を新設して弾力化すべきである。
(3) 日本司法支援センター業務方法書を改正し、現在は免除のみが設けられており(日本司法支援センター業務方法書第65条)、いわば0か100かになってしまっている制度を、資力の回復の度合いに応じて減免ができるよう弾力化すべきである。
2 法務大臣は、
法テラスによる前項にかかる日本司法支援センター業務方法書等の改正を認可すべきである。
3 日本弁護士連合会は、
法テラスによる1項の実現及び、それらにかかわる運用の改善ないし緩和について、法テラスとの間で協議すべきである。
第2 意見の理由
1 現行の準生活保護償還猶予・免除制度の内容
民事法律扶助においては、生活保護世帯につき、原則として償還猶予ないし免除がなされることとなっている(日本司法支援センター業務方法書第31条1項1号、同第65条1項1号)。
また、生活保護に準じる世帯についても、法律扶助申請時には、被援助者が、生活保護に「該当する者に準ずる程度に生計が困難」な理由があること(相当要件)を満たせば猶予がなされ(日本司法支援センター業務方法書第31条1項2号)、終結報告書提出時には、被援助者が「将来にわたってその資力を回復する見込みに乏しいと認められるとき」という資力回復困難要件を満たすことを前提として免除がなされることとなっている(日本司法支援センター業務方法書第65条1項2号)。
2 現行制度の問題点
(1) 前記の資力回復困難要件については、次のような問題がある。すなわち、民事法律扶助業務運営細則第32条は、同条に規定する(1)65歳以上の高齢者、(2)重度又は中度の障害のある者、(3)前号の障害のある者を扶養している者、(4)疾病により長期の療養を要するため、現に収入を得ておらず、かつ1年程度の間に労務に服することが見込めない者、という4類型のほかに、(5)それらに準ずる理由により、「今後1年ないし2年で、現在よりも生計が改善される見込みに乏しい者」も資力回復困難要件に該当する者であるとされているところ、このような将来にわたる事由を疎明ないし証明することは容易でなく、前記の4類型にあたらない者が免除を得ることは困難となっている。
(2) 例えば、2019年国民生活基礎調査によれば、日本のひとり親世帯の貧困率は48.1%となっており、他のОECD諸国と比べても極めて高い水準となっている。このようなことから、ひとり親世帯を社会全体で支援する必要性が高いが、ひとり親世帯であることは前記の4類型に含まれておらず、ひとり親世帯であるというだけでは、免除を得ることが容易でない。
(3)若者(概ね22歳程度までの者)についても、トラブルを抱えた若者の中には、安定した収入が得られていない者が少なくない。特に、保護者からの虐待を受けた者、社会的養護下での生活を経験した者、貧困家庭で育った者等は、親族から就労に関する適切なアドバイスや援助を受けられない場合が多い上に、養育環境の影響等で対人関係を築くのが難しく就労が安定しない傾向にあることから、類型的に、短期間の間に資力を回復することが困難であると言える。
また、民法改正により成年年齢が引下げられたことによって、18歳、19歳が単独で契約できるようになったことから、若者が消費者被害等の法的トラブルに巻き込まれることが予想されるところ、若者は年齢的に自力で解決することが困難なことが多く、資力が乏しいケースも多い。従って、若者についても、民事法律扶助を利用して弁護士の援助を受けやすくする必要性が高い。
このように、若者についても社会全体で支援する必要性が高いが、若者であることは前記の4類型に含まれておらず、若者ということだけでは、免除を得ることが容易でない。
(4) 加えて、資力回復困難要件の類型に当てはまらない場合、法律扶助申請時において、免除を得ることができるか判別することが困難であるため、償還義務を免れないことを危惧して弁護士への依頼を躊躇してしまい、ひいては裁判制度の利用を断念することさえありうる。このような事態は、裁判を受ける権利の保障と弁護士へのアクセスを実質的に阻害するものである。
3 改善提案
(1) 法テラス及び法務大臣に対して(意見の趣旨1及び2)
前記の4類型だけが資力回復困難要件に該当する者として例示列挙されていること自体が狭きに失するのであるから、少なくとも、社会全体で支援する必要性が高い類型である、ひとり親世帯及び若者(特に、保護者からの虐待を受けた者、社会的養護下での生活を経験した者、貧困家庭で育った者など)については、資力回復困難要件に該当するものとして例示列挙し、制度の適用を拡大すべきであり、民事法律扶助業務運営細則第32条は上記趣旨に沿った改正がなされるべきである。
また、上記にとどまらず、「今後1年ないし2年で、現在よりも生計が改善される見込みに乏しい」という将来にわたる事由を疎明ないし証明することが容易でないことからすれば、終結時における最大3年間の猶予制度(業務方法書64条2項)の適用を弾力化ないし拡大し、さらに、終結時における猶予の延長制度(業務方法書64条3項)の適用についても、弾力化ないし拡大すべきである。さらに、現在は免除のみが設けられており、いわば0か100かになってしまっている制度を、資力の回復の度合いに応じて減免ができるよう弾力化すべきである。
従って、上記趣旨に沿って、法テラスは、現行の日本司法支援センター業務方法書ないし民事法律扶助業務運営細則の改正を行うべきである。
そして法務大臣は上記業務方法書等の改正を認可すべきである。
(2) 日本弁護士連合会に対して(意見の趣旨3)
日本弁護士連合会は、①まず、法テラスによる上記改正を促すべく法テラスと協議を行うべきである。
②さらに上記改正は時間がかかることが予想されることから、改正まで行わなくとも運用変更で改善を図れる事項に関しては運用変更で早期改善を実現すべきである。そのため、日本弁護士連合会は、上記改正のほか、運用の改善ないし緩和について、法テラスと協議を行うべきである。
以 上