重大な法的問題がある国葬の実施に反対する会長声明
1 政府は、2022(令和4)年7月22日、安倍晋三元首相の国葬(以下「本国葬」という。)を同年9月27日に実施し、その費用は全額国費の負担とする旨閣議決定した。しかし、本 国葬を実施することは、以下に述べる通り、法的に重大な問題がある。
2 国葬とは、国家の儀式として国費で行う葬儀であるところ、大日本帝国憲法下では、1926(大正15)年に公布された勅令である国葬令において皇室・皇族のほか「国家ニ偉勳アル者」(国葬令第3条)を国葬の対象とし、国葬が行われてきた。しかし、この国葬令は、日本国憲法施行に伴い、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」第1条により、「法律を以て規定すべき事項」であるとして、1947(昭和22)年12月31日限りで失効した。以後、天皇の大喪の礼について定めた皇室典範のほかに国葬について定めた法律は制定されていない。
この点、政府は、内閣府設置法第4条第3項第33号の「国の儀式」に国葬も含まれる旨説明している。しかし、同条は、国の行政組織の一つとしての内閣府の事務分掌規定に過ぎない。その立法過程において「国の儀式」に国葬が含まれるかが議論の対象になった形跡もない。
国葬に関する事項は法律を以て規定すべき事項であるとして国葬令が廃止された趣旨に鑑みれば、多額の国費の支出を必要とする国葬は、国葬の対象者の選定基準、判断権者、判断手続をはじめとした国葬に関する事項を明確に規定した法律を制定した上で、同法に基づいて行う必要がある。
かかる法律が制定されていない中で、国会の決議もなく、閣議決定のみに基づいて本国葬を実施することは、権力分立、法治主義の観点から、法的根拠の点で重大な問題があるというべきである。
3 また、政府は、2022(令和4)年8月26日、本国葬を実施する費用として一般予備費から2億4940万円を支出することを閣議決定し、さらに同年9月6日、同費用とは別に会場の警備費用として8億円程度、外国要人の接遇費として6億円程度等とする概算額を発表している。
前述の通り、本来国葬を行うのであれば法律を制定し、その費用の支出も国会の予算審議を経て行われるべきものであるにもかかわらず、閣議決定により本国葬の実施と多額の費用の支出を決めたことは、国民の重大な関心事である財政について国会の民主的コントロールを求めている財政民主主義(憲法第83条)の観点から問題というべきである。
4 政府は、本国葬を「敬意と弔意を国全体として表す国の公式行事として開催する」とする一方、本国葬は国民一般に喪に服することを求めるものではないとも説明している。しかし、前記国葬令が皇族以外の者の国葬の際国民は喪に服す旨規定しているように、国葬はその性格上国民の服喪を想定している。政府が、国民一般に喪に服することを求めるものではないと説明しても、本国葬は、国民に対し、事実上弔意を強制することにもなりかねず、本国葬を望まない者の思想良心の自由(憲法第19条)との関係で問題というべきである。
5 以上の通り、本国葬を実施し、多額の費用を支出することは、法的根拠の点、財政民主主義の点、思想良心の自由の点で重大な法的問題があることから、当会は本国葬の実施に反対するものである。
2022(令和4)年9月16日
沖縄弁護士会
会長 田 島 啓 己