重要土地等調査規制法の施行の延期等を求める会長声明
政府は、2021(令和3)年6月に公布した「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び規制等に関する法律」(重要土地等規制調査法。以下「本法」という。)について、本年9月の施行に向けて、本法に基づく基本方針案、政令案及び内閣府令案(以下「基本方針案等」という。)を公表している。
当会は、2021(令和3)年5月21日付の「重要土地等調査規制法案に反対する会長声明」(以下「前回声明」という。)において、本法による「注視区域」等での土地等の利用に関連してその利用者や関係者のプライバシー権や思想・良心の自由、財産権等が侵害されるおそれが大きいことなどから、法案の成立に反対していたところである。
前回声明では、本法において調査規制の対象となる「区域」や行われる調査内容、その対象者などの限定がなされておらず、防止しようとする重要施設や国境離島等の「機能を阻害する」行為も不明であること等を指摘していたところ、本法を施行するのであれば、少なくとも、本法に基づく基本方針や政令等によってこれらの内容を明確にし、市民の権利自由が不当に侵害されないような措置を講ずる必要がある。
ところが、公表された基本方針案等をみても、当会のかかる懸念は払拭されていないというほかなく、かかる状況下で本法を施行すべきではない。
すなわち、注視区域及び特別注視区域の指定範囲については、防衛関係施設では「部隊等の活動拠点となる施設」等4類型が示されたが、これでも沖縄の米軍基地や自衛隊施設をほぼ網羅するものであり、また国境離島等についても領海基線の「周辺」等と相変わらず沖縄県内の広汎な地域が対象となる余地を残している。
次に、調査にあたっての報告徴収の対象者の範囲については、「関係者」として、法人である利用者の役員や土地等の工事に従事している請負業者等が例示されるとともに、利用者の家族等についても、利用者と共同して機能阻害行為を行っていると推認される場合には関係者になり得るとするなど、調査者の判断で無限定に対象が広がりうる。
続いて、調査項目についてみると、調査項目が客観的な土地利用状況に限定されていない問題がある。例えば、基本方針案では、「土地等の利用状況を把握する」とする一方で、「思想・信条等に係る情報を含め、その土地等の利用には関連しない情報を収集することはない」とするが、これでは、「その土地等の利用に関連する場合には思想・信条等に係る情報も収集することができる」との解釈が成り立ち、その利用目的に関わるとして利用者の思想等に調査が及ぶおそれを否定できない。
さらに、機能阻害行為についても、該当しうる行為と該当するとは考えられない行為の例示が若干なされているものの、あくまでも例示に過ぎず、具体的な危険に照らした機能阻害行為の限定明示がなされておらず、市民の表現活動が機能阻害行為と認定されるのではないかとの懸念も払拭し得ない。
本法には依然として本声明及び前回声明で指摘した重大な問題がある。
そこで当会は、政府及び国会に対し本法の施行の延期を求めるとともに、本法及び基本方針案等に関し上記問題点についてさらなる検討、議論をするよう求める。
2022(令和4)年8月16日
沖縄弁護士会
会 長 田 島 啓 己