決議・声明

最低賃金額の引上げと地域間格差是正及び中小企業支援強化を求める会長声明

 

1 厚生労働大臣は、近いうちに、中央最低賃金審議会(以下「中央審議会」という。)に対し、2022(令和4)年度地域別最

 低賃金額改定の目安についての諮問を行い、中央審議会から、答申が行われる見込みである。
  昨年、中央審議会は、各都道府県の引上げ額の目安について、AからDランク全てにおいて28円の引上げという答申を行

 った。これを受けて、沖縄地方最低賃金審議会(以下「沖縄地方審議会」という。)も28円の引上げの答申を行い、沖縄県

 における最低賃金額は、2021(令和3)年10月8日以降820円となった。沖縄地方審議会はこれまでも最低賃金額の大

 幅引き上げの答申を行ったほか、新型コロナウィルス感染拡大の影響により県内景況が大きく落ち込む状況下において引上率

 3.5%の引上げの答申を行ったことは、これまで当会が毎年求めてきた最低賃金額の引上げに沿うものであって評価でき

 る。

  しかしながら、時給820円では、1日8時間、週40時間、月173時間働いたとしても月収14万1860円、年収約

 170万円にすぎない。この収入では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持し、将来のための貯蓄をしていくことは極めて

 困難であり、最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定」を図ることは困難である。
  この点、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、沖縄県内においても、非正規労働者を中心に解雇や雇い止めが相次ぎ

 、低所得者や女性のひとり親世帯等の生活に深刻な影響を及ぼしており、雇用の確保を図ることは重要である。しかし雇用の

 確保を図る必要があることを理由に、最低賃金額の引上げを後退させてはならない。多くの非正規雇用労働者をはじめとする

 最低賃金付近の低賃金労働を強いられている労働者は、もともと日々生活するだけで精一杯で、緊急事態に対応するための十

 分な貯蓄をすることができていない。ここに根本的な問題があり、抜本的な生活費保障のためにも最低賃金額の引上げは必要

 である。
  また、近年、沖縄県において積極的に取り組んできている子どもの貧困についても、これを抜本的に解決するためには子育

 て世代の所得向上が不可欠であり、そのためにも最低賃金額の引上げが直接的かつ効果的である。
  さらに、フランス、ドイツ、イギリス等の多くの国において、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の引上

 げを実現している。

  以上からすれば、今年度もさらなる最低賃金額の引き上げが必要である。

2 最低賃金額の地域間格差が依然として大きく、ますます拡大していることも見過ごすことのできない重大な問題である。2

 021(令和3)年の最低賃金額は、最も高い東京都で時給1041円、最も低い当沖縄県及び高知県は時給820円と22

 1円もの開きがある。最低賃金額の高低と人口の転入出には強い相関関係があるところ、最低賃金の低い地方の経済が停滞す

 ることにより、地域間の格差が固定、拡大するものであることから、格差是正のためにも、最低賃金額の低い沖縄県における

 最低賃金額の引上げが必要である。
  また、地域別最低賃金額を決定する際の考慮要素とされる労働者の最低生計費について、近年の調査によると、地方と都市

 部との間で、地域間格差がほとんどないことが判明している。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの

 、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされること等が背景に

 ある。このように、労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金額の地域間格差は早急に是正され

 るべきである。

3 他方、最低賃金額の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては、最低賃金額を引き上げても円滑に事業

 を継続して雇用の維持が図れるよう十分な支援策を講じることが重要であり、必要である。
  この点、国は、最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策として「業務改善助成金」制度により影響を受ける中小企業に対す

 る支援を実施しているところ、同制度は予算が増額され申請件数も伸びているとのことだが,さらなる拡充が図られるべきで

 ある。
  中小企業に対する対策としては、既存の支援策に加え、社会保険料の減免や減税、補助金支給等の即応性・実効性の高い支

 援策のほか、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるための取引適正化支援等、長期的継続的に中小企業

 支援策を強化すべきである。なお、沖縄地方審議会も昨年最低賃金額の答申の際に,国に対し中小企業への支援と施策の実施

 を求める付帯決議をしているところである。

4 当会は、これまで繰り返し最低賃金額の引上げ等を求めてきたところであるが、上記のような状況を踏まえ、中央審議会に

 対し、最低賃金額の引上げと地域間格差の是正を、沖縄地方審議会に対し、最低賃金額を引き上げる旨の答申をすることを、

 そして国に対し、中小企業支援策の強化を、それぞれ求めるものである。

 

                            2022年(令和4年)6月28日

                              沖縄弁護士会

                                会長  田 島 啓 己

 

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