自然災害債務整理ガイドライン(コロナ特則)の改定等を求める意見書
2022年(令和4年)3月1日
沖縄弁護士会
会長 畑 知 成
第1 意見の趣旨
1 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン研究会は、「自然災害による被災者の債務整理ガイドライン」を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則について、2020年10月31日以降に発生した債務についても債務整理を可能とする内容の改定を行なうべきである。
2 国は、同特則の運用円滑化のために、監督官庁を通じて、すべての債権者が自然災害ガイドラインを尊重する実務慣行が確立されるよう積極的な指導調整機能を発揮すべきである。
第2 意見の理由
1 制度の概要
2020年10月30日、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「自然債務整理ガイドライン」という。)研究会は、「「自然災害による被災者の債務整理ガイドライン」を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」(以下「コロナ特則」という。)を制定し、自然災害債務整理ガイドラインを新型コロナウイルス感染症に適用した。同研究会には、政府がオブザーバー参加している。
コロナ特則は、2020年2月1日までに発生した債務と同年10月30日までに新型コロナウイルス感染症関連で発生した債務について、一定の要件の下、債権者の同意による債務の減免によって債務者の生活や事業の再建を支援することを目的とするものであり、その運用には公費があてられている。
2 制度の現状
しかし、その運用は順調とはいい難く、2021(令和3)年12月末時点で登録支援専門家の委嘱件数が1617件、債務整理の成立件数はわずか73件に留まっており、新型コロナウイルス感染症の影響の甚大さに鑑みれば余りに少ないと言わざるを得ない。当会でも、委嘱件数67件のうち、成立は3件と低調である。
その理由として、制度の告知等が十分でない点や支払不能要件を必要とする点などが挙げられるが、一部の債権者がコロナ特則を尊重しない対応をとるなど運用面でも問題が生じている。当会でも、一部の債権者によるコロナ特則を尊重しない対応により破産申立てを余儀なくされる事案や、一部の債権者への説得等に時間を要し手続きが遅滞している事案などの報告がなされている。
3 制度の問題点
準則型の債務整理手続きであるコロナ特則においては、債権者によるコロナ特則の尊重が必要不可欠である。
この点、自然災害債務整理ガイドラインの前身である「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」においては、同ガイドラインの円滑化のための第三者機関である「個人版私的整理ガイドライン運営委員会」が設置され、運用基準の策定や債権者や関係団体との協議・働きかけ等を行ってきたところであり、同委員会がいわばガイドラインの審判役を果たしていたことにより、債権者の対応等は漸次的ではあったが是正され、運用の円滑化等が図られていた。
しかしながら、自然災害債務整理ガイドラインへの移行の際には同委員会に代わる組織が設置されず、ガイドラインの運営主体である一般社団法人自然災害債務整理ガイドライン運営機関は事務運用に徹する姿勢を示しているため、自然災害ガイドラインでは審判役が不在の状況となっている。
4 国による指導調整機能
自然災害債務整理ガイドラインの運用には公費があてられており、監督官庁は個人版私的整理ガイドラインの時代から適時に通達等を発出するなど運用の円滑化に寄与してきた。前記のように自然災害ガイドラインでは審判役が不在の状況となっている以上、債務者の生活および事業の再建の支援を実効化するためには、監督官庁における運用円滑化のための指導調整機能が期待される。
よって、国は監督官庁を通じて、すべての債権者が自然災害ガイドラインを尊重する実務慣行が確立されるよう積極的な指導調整機能を発揮することが求められる。
5 対象債務の期限の延長
また、コロナ特則が2020年10月31日以降に発生した債務を債務整理の 対象としていない点も問題である。
コロナ特則が制定された2020年10月以降も新型コロナウイルス感染症は終息せず、新たな変異種等により、その影響を拡大させ続け、感染者等も更新され続けている。政府等による緊急事態宣言やまん延防止等重点措置も繰り返されており、その影響は深刻である。
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化したことによって、債務者の借り入れも新たに行われているが、コロナ特則は2020年10月31日以降に発生した債務を一律に対象としていないため、新型コロナウイルス感染症の影響による債務の整理を必要とする債務者の受け皿になり切れていない。かかる状況は債務者において酷である。
よって、コロナ特則については、2020年10月31日以降に発生した債務についても債務整理を可能とする内容の改定が行われるべきである。